第5話 この2人は本当に……
もう1つの作品のストック書いてたら投稿忘れそうだった……
竜輝「偶には俺たちのことも思い出してくれ」
冬菜「黒岩さんとの絡み早く早くっ」
だが断る
黒岩との遭遇で混乱してる冬菜だったが空腹には勝てなかった。
竜輝と冬菜が図書館を訪れたのは午前10時だったので昼食は別の所で取ろうと約束していたのだ。
図書館は駅から徒歩で10分の位置にある。住宅街の真ん中なのでファミレスもファーストフード店も無い。2人は何を食べるかを相談しながら駅前に足を向けていた。
「無難にファミレスかな?」
「そうですね」
竜輝は友達とファミレスに行くことも殆どないので冬菜の意見に反対はしない。クラスメイトと話すようにはなったが携帯電話を持っていない竜輝を誘うのをクラスメイトが躊躇うのだ。というのは建前で、本当は冬菜との仲を邪魔してしまうのではないかと遠慮しているだけである。
そんな風に思われているとは知らない竜輝だが特に気にすることはなく冬菜とファミレスのメニューについて話す。友達とファミレスに行かないだけで家族とは行くのでメニュー自体は知っているのだ。
「そう言えば、竜輝君ってファミレスに行くの?」
「偶に行きますよ。母が夕食を作るのを面倒臭がった時などに」
「……斬新なお母さんだね」
思わぬ理由に一瞬黙ってしまった冬菜だが、自分の親も『料理面倒臭い~』と自分に任せようとすることがあるのでそれと同じかと納得した。
結局選ぶのに時間を掛ける気にならなかった2人は日本で1番有名で安いハンバーガーチェーン店に入ることにした。竜輝は男子高校生らしくボリュームのある頼み方で、冬菜はポテトとナゲットにジュースである。
「そう言えば、何で私を図書館に案内しようと思ったの?」
冬菜は図書館に行きたいと言っても竜輝に反対されるのではないかと思っていた。竜輝が自分のことを信用してくれているのは自覚していた。自惚れではなくただの事実だった。しかし竜輝はそんな冬菜に対しても踏み込ませない部分がある。本人に自覚は無いだろうが、あきらかに図書館に行く日の竜輝は冬菜が付いてこないように気を張っていたのだ。
竜輝の師匠を辞任する冬菜にはそれが察することができた。友人に言わせれば『流石愛の成せる技だ』と言われるだろうが冬菜はそんなことを言ったりはしていない。
「別に隠していたりしたわけじゃないんですが……」
そんな風に言う竜輝は冬菜からしたら強がっているだけだった。竜輝の自覚の無さに呆れながらも視線で先を促すと特に気にした様子も無いと装って話し始めた。
「先輩は俺のために時間を割いてくれてますし、俺も先輩のために話していないことは話してしまった方が良いと思ったんです」
口下手で要領を得ないと自覚している竜輝だが他にどう言えばいいのか分からなかった。冬菜は上手く言葉にできなくてもどかしそうな表情をしている竜輝の言葉を頭の中で噛み砕いて確認してみることにした。
「私が君の話す訓練に付き合っているのが悪いと思ったから、隠し事みたいになっちゃってる図書館でのことを話しておこうって思った。そういう解釈で良いのかな?」
冬菜が噛み砕いて内容をハッキリさせた言葉が正しいかを竜輝に確認するとハッとした顔をした後にしきりに頷いた。
「そうです。流石、先輩です」
褒められて悪い気はしない冬菜だが、同時に竜輝の不器用さに溜息が出そうだった。竜輝が不安がるといけないと思い表面には出さなかったが不器用過ぎて見ていられないと改めて思ったのは言うまでもない。
「もう少し相手に伝わるような言葉覚えないとね。それは私もなんだけど」
「そうですね。でも……先輩は充分伝わる話し方をしていると思いますが?」
「上には上があるの。それにほら、君に変な話し方と教えちゃってもマズイでしょ?」
そう言って笑う冬菜を見ていると竜輝は少し落ち着かなかった。たった1つしか違わないのに冬菜と竜輝の間には人間的に大きな差があるように感じたのだ。
高校生程度の年齢において歳が1つ違うというのはそれだけで本人たちにしか感じられない差がある。冬菜が教室に襲来した時の竜輝のクラスメイトたちはヒシヒシとそれを感じているのだが竜輝はその一端にようやく触れたのだ。
「……何だか、先輩って大人ですよね」
「そうかな?」
「そうですよ」
「まあ、私の方が1つ上だしね。まだまだ君たち後輩には負けてられないんだよ?」
竜輝が何かを気にしているのが直ぐに分かった冬菜はできるだけ戯けた口調で緊張を解そうと試みた。そういった冬菜の気遣いで竜輝は余計に差を見せ付けられて落ち込むという笑えない悪循環が起こったのだが。
「あはは、そうなっちゃったかぁ~」
竜輝が更に落ち込んだのを見て自分の失策に気付いた冬菜はいっそのこと気遣いを止めてみることにした。その方が竜輝が回復するのが速そうだと思ったのだ。
「でも竜輝君にあんな綺麗な年上の知り合いが居るなんて知らなかったよ」
気を遣うのは止めても話題が途切れて何を話そうか悩んだのは変わらなかったので冬菜はついさっき思ったことを話すことにした。
それすらも竜輝からは気を遣っているように見られるだろうと予想していたが、その後に無神経なことでも言えば今までの落差で少しは元気を取り戻すだろうと思っていた。
「母の教え子だったそうで、家も近いので偶に遊んでもらってたんですよ」
「竜輝君のお母さんって教師だったの?」
「家庭教師だったそうですけどね」
「ああ、そっちか」
相変わらず少しだけ言葉が足りない竜輝にまだまだ教育が必要だと感じる冬菜だったが表情は不思議と明るかった。
(変に勘繰っちゃったけど、これなら平気かなぁ)
最初は竜輝と黒岩の関係を疑っていた冬菜だったが竜輝の話を聞いて不安は和らいでいた。竜輝の母親が家庭教師をしていたと考えると、黒岩の年齢が多少予想できる。
家庭教師と生徒の関係がそんなに長続きするのも驚いたが、冬菜は黒岩の年齢に驚いていた。竜輝の母親の年齢は若くても30代中盤だ。家庭教師ということは大学生時代のバイトだと思っていい。黒岩は30代に入るか入らないかといった年齢だと予想できるのだ。冬菜の目には黒岩は20代中盤に見えた。
(流石に10も違う相手と恋人になりたいだなんて、思ってないよね?)
少しだけ不安を覚えた冬菜だったが、この後どうするかを何も考えていないことを思い出してそのことに思考が移った。
(やっぱり難しいな)
竜輝は冬菜との会話の節々で、あることを試みようとして失敗していた。実は冬菜との人間的差を感じて落ち込んでいたのではなく、失敗する自分と失敗しない冬菜との差に落ち込んでいただけである。
竜輝の今日の目的は、冬菜の呼び方であった。
(俺はいつになったら『冬菜先輩』と呼べるんだろうか?)
親しい相手の呼び名1つ自由にできない少年は午後は絶対に成功せようと心に誓うのだった。
竜輝の目標、先輩を名前で呼ぶ!
……どこの小学生だよww




