第4話 嵐、なのか?
遊園地を堪能?した2人の次のイベントは図書館!
黒岩と竜輝の関係が明らかに?
冬菜は自分でも分かるくらいに茫然としていた。
「先輩、こちらが遊園地で俺が見たかもしれないと言った黒岩さんです」
「飯島さん、よろしくね」
冬菜の目の前にはいつもより表情の柔らかい竜輝に、遊園地で竜輝が見ていた年上の女性が居た。
「ええと、よろしくお願いします」
何を言って良いのか分からずに普通に挨拶しか出てこない冬菜だった。問題があるわけではないが聞きたいことが上手く口にできずにもどかしい思いをしていた。
「でも竜輝君が女の子と遊園地に行っただなんて不思議な感じがするわね。そもそも遊園地に行くような男の子に見えないんだから」
竜輝の人となりを多少なりとも知っている黒岩は嫌味の無い笑みで竜輝と冬菜を見て笑っている。竜輝に対しては弟を見るような目だ。
冬菜としては安心して良いのか判断できずに困っていた。
ことの始まりは遊園地の帰り際に冬菜が思い切って竜輝に質問したことに始まる。水曜日と土曜日は必ず用事があるからと1人で帰る竜輝が何をしているのか聞いてみたのだ。
「竜輝君は水曜日と土曜日は何をしてるの?」
遊園地で見た女性と関係があるのだろうと考えている冬菜はどんな関係か分かれば良い程度の気持ちだった。
竜輝は特に分かった反応も無く普通に口を開いた。
「あれは図書館に行っているんです」
特別に語ることでもないため竜輝の返答は一言だった。冬菜との訓練で一言増やすようにしていたのだがまだ完璧ではなく冬菜の聞きたいことに応えられているとは言えなかった。
「誰かと会うって前に言ってなかったっけ?」
「言いましたね。黒岩さんという司書の方に会っているんですよ」
それがさっきの女性なのだろうと思った冬菜はこれ以上踏み込むべきかどうか悩んだ。どう考えても黒岩という女性の方が冬菜よりも竜輝との付き合いが長い。自分がお邪魔虫な気がしてならなかった。
「どういう関係なの?」
しかしそれで引けるような性格ではなかったので踏み込んだ質問をしてしまった。竜輝は冬菜のことを信用しているので不快に思った様子も無く答えた。
「司書になるための勉強を手伝ってもらっているんです」
「……え?」
竜輝が司書になりたいというのは初耳な冬菜だった。
「黒岩さんには水曜日と土曜日の5時から司書になるための勉強を見てもらっているんです」
ハッキリとし過ぎている竜輝の夢に少し嫉妬した冬菜だった。冬菜には将来の夢がまだ無い。結局は堅実にOLか公務員になるのだろうという漠然とした将来しか思いつかない。なりたいものも定まらない。
竜輝と比べると自分が希薄な存在な気がしたが、逆に竜輝のように将来の職業を真剣に決めている人が周囲に居るかと考えて竜輝が特殊なのだと思い直した。冬菜の周囲に将来なりたい職業があって、それに向けて努力している生徒は居ないように思えた。
「凄く、ハッキリと将来のことを考えてるんだね」
羨ましいという感情を隠すこともできずに口から出た言葉に少し後悔したが竜輝は気にした様子も無く口を開いた。
「ただ本に囲まれた仕事がしたいと思っただけです。別に本屋でも良かったんですけど、売り上げのこととか考えたりすると本が嫌いになりそうだったので司書を目指すことにしたんです」
珍しく饒舌な竜輝に驚いた冬菜だったが穏やかな顔をしている竜輝を見て自分の中にあったモヤモヤが少しだけ晴れた。
竜輝だって深く考えたわけではなく消去法で考えた結果、司書が最も良いと思っただけだ。そして偶々身近に司書の勉強を見てくれる人が居たから習うことにしただけである。
冬菜はそのことを知らないが、竜輝はそれ以上何かを話すという感覚が無いために消去法だということは話さなかった。
冬菜が色々と表情を変えるので何かあったのかと心配になったが、最後には苦笑していたので特に問題は無かったのだと思った。
「私もその図書館に行ってみて良い?」
急な話だったが、冬菜が本を読む姿をよく見る竜輝は特に図書館に行きたい理由に疑問を持たずに承諾した。
そして現在に至る。
竜輝が通う図書館は2人の高校の最寄駅から徒歩10分にある市内で最大の図書館だ。
竜輝と図書館に行くというのは半分以上はデートのつもりだった冬菜だったが図書館に着いてから黒岩に会うだろうことに気付いた。竜輝が普段どんな図書館に行くのか知りたいと思って図書館に案内してもらったが、深く考えなかった過去の自分が恨めしい冬菜だった。
そんな冬菜の思惑とは裏腹に竜輝は前回の遊園地での失態を少しでも払拭できれば良いと考えていた。先輩女子に1日で2度も介抱されたのは竜輝としては不甲斐ない思いだったのだ。今日の図書館見学で少しでも名誉挽回になればと冬菜相手には意味も無いことを決意した竜輝だった。
既にコミュニケーション能力の欠如という意味で最底辺の評価を1度受けているのだが本人は知らない。知っていたら冬菜との関係は多少違うものになっていたかもしれない。
「じゃあ私は仕事に戻るわね。ごゆっくり」
黒岩は本当に竜輝と冬菜の顔を見るために仕事を抜けてきただけのようで直ぐに2人に別れを告げて『関係者以外立ち入り禁止』と表示された扉の奥に消えていった。
しかし、竜輝の横を抜けて突っ立っていた冬菜と擦れ違う時に冬菜の肩に手を置いて小さく囁いた。
「今度、感想を聞かせてね」
何を言われたのか理解できなかった冬菜は竜輝が声を掛けるまでボンヤリと黒岩の背中を見つめたのだった。
(感想って、遊園地のことで良いのかな?)
黒岩が去ってから思い思いに好きな本を読むことにした2人だったが、冬菜は読書どころではなかった。黒岩から言われたことが心の中でしこりのように残っていて上手く物語が頭の中に入ってこなかったのだ。
(これは、会わない方が良かったのかなぁ~)
言い様のない後悔に似た感情を抱いた冬菜だったが、表に出さないように文章を目で追うことにした。
(もしかして、会わせない方が良かったのか?)
黒岩と冬菜を引き合わせた竜輝は冬菜の様子を見て少しだけ後悔していた。冬菜の方から図書館に行きたいと言ったので黒岩に会いたいのかと思っていた彼としては、自分の勘違いで冬菜に不快な思いをさせてしまったかもしれないとビクビクしていた。
冬菜は本に集中できないことを隠そうとしていたが、本を読み慣れた竜輝には集中できていないのがバレバレであった。
(俺は、またしても失敗したか?)
正解とも不正解とも言えない疑問を浮かべた竜輝だったが、彼は今回目的があって冬菜を図書館に連れてきた。これからどう目的を達成するかで頭が一杯になり冬菜の様子を気にしている場合ではなくなったのは言うまでもない。
図書館見学で名誉挽回って難しいですよね
よっぽど蔵書に詳しければ良いのでしょうか?
そして竜輝の目的とは何だ!?
遊園地で普通に描写しているんですけどね




