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96. 大体シェパーズが悪い

ちょっと長くなってしまい分割したので今回は短めです。

 オズテイルは三十年ほど前に、北からグロッサ、シェパーズ、サイカという三つの勢力に分裂し、それ以降争いを繰り返している。

 もとより地形的な理由で三つの地域に分かれていたのだが、三十年間の戦いは文化的な溝も深めてしまったのだ。

 現在ではほとんど異国と言ってもいいほどに三地域の乖離は進んでいると言われている。


 この三つの地域の中でも最も土地が豊かなのは、オズテイルの中央に位置するシェパーズだ。

 シェパーズは土地の豊かさを生かした農業と水産資源の豊富な湾での漁業でオズテイルの食糧庫となっている。

 恵まれた土地、ではあるのだが。――その反面、労働力確保のための奴隷制度が盛んでもあるため、他国からは鼻つまみ者扱いされてもいる。

 そして、その奴隷の大部分は亜人であり、シェパーズの過酷な労働から逃げ出した亜人が、他の地域や他国へ逃げ出し、物盗りになるといったことも多く発生している。


 つぎに、シェパーズの北側にあたるグロッサは、三地域の中では比較的まともであるものの……。

 食料供給の問題からシェパーズとの取引を絶つことができず、結果的にシェパーズの亜人の扱いに対して強く意見を言えずにいるのが現状だ。

 シェパーズから逃げ出してきた亜人の保護を行う団体があるため、亜人の人口は多いのだが、その分亜人を攫ってシェパーズに売る、という奴隷商人も多いという問題を抱えている。


 そして最後にサイカ。三地域の中で最も土地がやせていて、最も治安が悪い。

 もともとやせた土地であるため、住む人は少なかったのだが、事情があって他の地域に住めない人々が逃げ込んだりして、――要は平家の落人のようなもので、山中に点々と隠れ里を作っていたのが時代の流れとともに合併したりして大きな集落になっていった、というワケありの土地だ。

 このサイカに、亜人は住んでいない。

 過去に大規模な亜人狩りが行われて、連れ去られてしまったからだ。

 ――ちなみに狩りを行ったのも、連れていかれた先も、シェパーズである。

 そして現在は、シェパーズから逃げ出してきた亜人がサイカの町で食料を強奪するなどの事件が時々起きているため、亜人に対する住民の悪感情が非常に強いのだ。


***


 教会を辞して、オズテイルとイベリスの国境になっている山に入って、一日目の夜。

 この山は岩肌があちこちむき出しになっていて、あまり背の高い木はない。

 低木は岩に張り付くように生え、下生えも少ない。

 「豊か」とまではいえないものの、普通の森で生まれ育ったルルシアとしては、なんとも心細い風景だ。

 ――そんなふうに木々が少ないので、場所をよく選ばず火を焚くと、遠くからでも目立ってしまう。

 そのため、今夜はアドニスがよく利用していたという、ちょうど半洞窟のようになっている場所で野宿をすることになった。


 セネシオが魔法で作った焚き火を囲んで、神の子たちが持たせてくれたサンドイッチにかぶりついたルルシアは、もぐもぐと口を動かしながら首を傾げた。


「話を総合すると、オズテイルが困ってるのって大体シェパーズが悪いのでは」

「そうだねえ。オズテイルでまともなのはグロッサくらい。でもあそこはあそこで、ちょっと日和見が過ぎるところはあるんだけどね」


 お茶を飲みながらセネシオが頷いた。

 そこにディレルが続ける。


「そうは言っても、グロッサとしても辛いところでしょ。同じ国のサイカとシェパーズが周辺国家から嫌厭されてるせいで、国としての信用もない。それで国外と取引できないから、内部で供給できない食料はシェパーズに頼らざるを得ないし」

「そうなんだよ。グロッサは亜人を保護してるけど、その亜人を攫って売る奴隷商人の取り締まりを強化すると、シェパーズのご機嫌を損ねちゃうから野放しにしてたりもする。内部では問題視されてはいるんだけどねぇ」


 サンドイッチを食べ終わったルルシアは、また首をかしげる。

 ディレルは、半分ルルシアに教えるために話しているようだ。国際情勢の知識として常識の範囲なのだろう。だが、それにしてもセネシオは、やたらと内情に詳しい気がする。


「そういえばセネシオさんはテインツに来る前、オズテイルにいたって言ってましたね。もしかしてグロッサにいたんですか?」

「うん、そうだよ。イベリスに帰ってくる前は、ハーフリングの格好してグロッサの亜人保護団体の手伝いとかしてたんだ。で、そこの団体がサイカの動きの監視なんかもしててね。それで、エフェドラに何か仕掛けようとしてるって知って、戻ってきたの」

「セネシオさんって、なんでハーフリングの格好してたんですか? そういう土地なら、人間の格好してた方が安全ですよね?」

「そうだねえ。追いやられる立場でいる方が、見えるものが多かったりするんだよね。社会の粗とか、人の本質的なところとかね」

「…亜人嫌いの人間とかですか」

「そうそう、そういうの」


 ルルシアは追いやられる方の立場になるのは怖いと思ってしまうが、セネシオはそうではないようだ。

 彼は魔族に対しても寄り添うような発言が多いし、虐げられる立場の人々のことを、他人事と放っておけないらしい。

 チャラいセクハラ男だが、この男のそういうところは尊敬できる。


「ま、サイカだと問答無用で捕まっちゃうし、シェパーズだと奴隷にされちゃったりするから、さすがに亜人の格好で入りたいとは思わないけどね」

「奴隷かぁ……」

「綺麗なお姉さんに奉仕するタイプの奴隷ならやりたいけどね」

「……」


 どこのエロ漫画だよ、というツッコミは呑み込み(相手にすると調子に乗るので)、ルルシアはほのかにぬくもりを残すお茶を飲み干した。

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