(16)ライアーの塚②
『あった』
「こっちにもあるぞ」
目的の物はすぐに複数ほど見つかった。
離れた場所でしゃがむハーレイの元に、カイルは急いでむかう。
彼が指し示す指先の地面は、直径1mの円の中、草が渦巻き上に倒れている。金色の光の痕跡はほとんど消えていた。
「どうだ?森のものと一致するか?」
『うん、これだ』
「多分、まだいくつかあると思うが」
『精霊の輪なんて名前がついているってことは、よく見かける代物?』
「よく、ではないな。たまに、だ。新しいものを発見すると、村の人間は跪き、祈ったりする」
『村の人間は――って、ハーレイはしないの?』
獣は面白がるように、若長を見つめた。
「世界の番人の気配もしないものを、どう敬えと?」
『あはは、さすが、加護持ち。正解だ――でも、ちょっとおかしいな』
「何がだ?」
『この痕跡は、本来ならこんなにあちこちに散らばるものじゃないんだ。この地を訪れた時の着地した場所を示す。精霊の泉のそばにあったのはイーレのものだが……』
「こちらは違うと?」
『うん』
白い獣は考え込むように言った。
「他にメレ・アイフェスがこの地に来ているのか?」
『そんな話はない』
「そうなのか?」
『うん、しかもイーレより先に頻繁にここに訪れていることになる』
「それはいただけないな。村から近い場所にメレ・アイフェスではない得体の知れない人物が出入りしていることになる。見張り番を立てよう」
『もし不審な人物がいても、無傷で捕らえて欲しい。事情を聞きたいんだ』
「努力はするが……保証はできないぞ?見張り番は気が荒い者もいる」
『……』
「カイル?」
『見張り番の件は少し待ってほしい、少し様子をみたい』
今度はハーレイが考えこんだ。
「長くは待てないが?」
『肉体でこの地を確認したい。エトゥールからこちらにすぐに向かうよ。イーレの件もあるし、彼女を連れ帰りたい』
「……そんなに急がなくても、彼女の面倒は見るぞ?」
『手合わせはダメだ』
若長は残念そうに吐息をついた。
『ハーレイ、ここは賢人の古墳と言っていたが、入口はどこだろう?』
「入口があったら、盗掘されるじゃないか」
ハーレイは不思議そうな顔をする。
『誰も古墳の中は確認していない?』
「ああ」
『どうしてここがアストライアーの古墳だと?』
「代々口伝で伝わっている。どの氏族にも共通しているから、間違いないだろう」
『書はないの?』
「西の民は、口伝だ。長や占者のような要職の者が受け継ぎ村に伝える。だから、長や占者になりたければ、記憶力を鍛えないとな」
『アストライアーの伝承を知りたい』
「ナーヤ婆に聞くといい。彼女が得意とする分野だ」
結局、ハーレイと白い獣が村に帰還したのは、夕暮れが迫る頃だった。
最初と変わらず、村人達は若長と白い精霊獣を凝視している。何人かがハーレイに声をかけたそうにしていたが、白い精霊獣の邪魔をするのは不敬だと、我慢しているようだった。
とりあえず、占者の家に顔をだすと、イーレはまだ眠っていた。
「お帰り」
ナーヤ婆は相変わらずで、ハーレイと精霊獣のための食事をすでに料理番の女に運ばせていた。村に戻ってくるタイミングすら、彼女の先見の範疇らしい。
「なかなか面白いものを聞かせてもらったよ」
『お婆様はあの会話をきいていたんだね』
「あれだけ怒鳴れば、この距離なら筒抜けさ」
『そういえばそうか』
「こちらは生きた心地がしなかった」とハーレイは首をふる。
「いい精神修行だったと思えばよい」
こともなげに老女は言ってのける。
「世界の番人もお前のようなものがいれば、退屈はすまい」
ハーレイは、番人が面白がっていると証言した精霊獣の言葉を思い出した。
「若長、あんたは忙しくなるぞ。エトゥールからくる高貴な方のために泊まる場所を整える必要がある」
「カイルがこちらを訪問する件か」
「メレ・アイフェスが一人でくるわけなかろう」
『?』
「?」
『ああ、シルビアが一緒に来たがるかもしれない。彼女は医療――治癒師だ』
「鈍い坊達だね。あんたはさっき和議を申し込んだんだろう。和議の特使にまさか商人小屋を使わせるのか?」
「む、確かに」
『お婆様、和議の使者はそんなに急には準備できないよ。僕の出発の方が早いし、まだ和議の件をメレ・エトゥールには伝えてない』
「あたしゃ、そうは思えないね」
謎の言葉を老女は言った。




