(8)占者②
――村の占者がイーレに会うことを希望している。
翌日に、ハーレイがその件を伝えると、イーレは戸惑いを見せた。
「占者が私に会いたいって、なんでまた……私、何かやらかした?」
「野生のウールヴェを倒しておきながら、やらかしていないと思うとは、びっくりだ」
「だって、あれは成り行きじゃない」
「村の男達が、嫁に欲しがっている」
「生涯初のモテ期到来?」
「そういう反応がくるとは思わなかった」
「冗談はさておき――村は余所者が入れないんでしょ?」
「占者が招いたから今回は特別だ」
「……占者は西の民では、どういう立ち位置なの?」
ハーレイは考え込み、余所者に説明する言葉を探した。
「長の次に権力があると思っていい。迷ったときなどの村の相談役だ。道を示す。彼女の言葉はよく当たる。イーレは精霊によって飛ばされたとも言っていた」
「私の言葉は証明されたわけね」
イーレは得意げに胸をはる。このたまにでる子供っぽいところが、彼女の年齢不詳に拍車をかけるのだ、とハーレイは思った。
「メレ・アイフェスの要が不在で、エトゥールも混乱しているが、待てば向こうから連絡がくるらしい」
「――」
イーレは軽く口をあけた。
「ちょ、ちょっと待って。占者がそう言ったの?」
「そうだが?」
いやいやいや。どうして、地上の西の民の占者が、要であるディム・トゥーラの不在を見抜くのか。
偶然?はったり?それとも――
「……私も質問が許されるの?」
「通訳はする」
イーレはハーレイをじっと見つめる。
「他言無用を誓える?」
「個人の秘密は守る」
「個人ではなくても」
「西の民に不利なことは困る」
「エトゥールや私達に不利なことは、こちらも困るんだけど――」
イーレはつぶやいた。
「……貴方をまきこむのも手か……」
ハーレイは背筋がぞくりとした。本能が警告する。これはヤバい雰囲気だ。魔獣の四つ目が五十匹いるより、危険な匂いがする。
「待ってくれ、イーレ。やはり、占者は控えた方がよさそうだ」
「もう、手遅れ」
イーレは、にやりと笑った。
「さあ、占者のところに行きましょう」
ハーレイは戦略を誤ったことに気づいたが、すべては遅かった。
ナーヤ婆のところを訪れると、占者は既に客人二人分のクコ茶を入れていた。相変わらずの先読みである。
「ナーヤ婆。例のメレ・アイフェスを連れてきた」
「来たな」
ハーレイを見たナーヤは大笑いをした。
「巻き込まれたな。もう逃げる事はかなわぬ」
「待て、ナーヤ婆、それはどういう意味だ⁈」
「通訳はいらぬよ」
「エトゥール語だぞ?」
「おまえさん、あたしの言葉はわかるだろう?」
「え、ええ、理解できるわ」
イーレは先程から戸惑いを隠せない。言葉がわかる。だが老女がしゃべっているのはエトゥール語ではない。
「お婆様、貴方もメレ・エトゥールのように『精霊の加護』をお持ちってことかしら?」
「持っておるよ。占者じゃからのう」
「通訳がいらないなら、俺は席をはずそう」
不吉な予感から、この場を去ろうとすると、イーレはがっしりとハーレイの腕をつかんだ。
「逃がさないわよ」
完全に獲物を捕らえた狩人の顔だ。ハーレイはぞっとした。
「あきらめろ、若長。逃げるには手遅れだ。まあ、二人とも座れ」
二人はとりあえず老女の前に腰をおろした。
落ち着かない二人に、ナーヤはいつものようにクコ茶をだす。
「聞きたいことがあるのだろう」
「山ほど」
イーレはにっこりと応じた。
「よかろう」




