(5)若き長⑤
ライアーの塚でウールヴェの解体が始まり、そのまま宴会の準備が始まった。通常は村で行われるが、イーレが余所者で村に入れることができないからだ。
慣れている男達の手際はいい。ウールヴェが薙ぎ倒した木を切り出し、丸太をベンチがわりに配置し、薪を山積みにする。少年達は細竹を大量に切り出してきた。どうやら肉を刺す串がわりらしい。
もちろん村に戻り、麦酒の樽を持ってくることも忘れない。大量の肉を村に届けたから、村でも宴会が始まるそうだ。イーレはハーレイからナイフを借りて、肉を細竹に刺していく役を受けもった。
串肉を取りに来た男達に、やたら頭を撫でられる。西の民の言語はまだ習得できないが、よくやった、とかそういう類だろうとイーレは思った。
「やだ、美味しい」
それは中央の超高級肉以上の美味しさだった。こんな極上の肉が世の中に存在するのか。イーレは感動した。
単純に焼いただけでも、充分の旨味が肉にはあった。香辛料を加えれば、アレンジが無限に広がった。これまた、西の民は巧みに香辛料を使いわけるのだ。
イーレは西の民の究極の食文化を存分に味わった。
とろけるような顔で肉を堪能する子供に周囲は大笑いする。
「美味しいか、と皆が聞いている」
「美味しい。もう最高。ここに一生住みたいくらい」
ハーレイが通訳して皆に伝えると大爆笑になった。
「ハーレイ」
ハーレイが樽から麦酒を酌んでいると呼び止められた。
「あの子が例の泉にいたエトゥール人か?」
「そうだ」
「あの子は今、どこにいるんだ」
「掟通りに商人小屋だ」
「村でもいいんじゃないか?」
「余所者だから入れるわけにはいかない」
内心、ハーレイも同じことを思っていたが、若長が率先して規律を破るわけにはいかなかった。
「いやいや、そんな芝居をしなくても我々は受け入れるよ。母親がエトゥール人でも、あの子は立派な戦士の素質がある」
「なんの話だ?」
「あの子は、ハーレイの娘なんだろう?」
「――は?」
「ハーレイにイーレ。名前もちゃんと韻をふんでいる」
とんでもない誤解が生まれていた。
「イーレは俺の隠し子じゃないっ!」
「いやいや、隠さなくていいんだ、若長。若い時の過ちは誰にでもある」
集まった男達が笑いながら頷く。
「だから、違う!」
「あの子なら村で育てても、問題ないよな?」
「ああ、すぐにでも嫁の引き取り手がある」
「お前のところの息子はどうだ?」
「あれだけ、戦えるなら悪くない」
勝手に話が進んでいく。
「人の話を聞けっ!」
ハーレイの怒声に皆はびっくりした。
「イーレは俺の娘じゃない」
「でも――」
「そうか。皆は、俺が妻の生前時に、外に女を作ったと言うんだな?名誉をかけた決闘を用意しよう。死んだ妻と子供のためにも」
時系列の矛盾に彼等は、ようやく気づいたようだった。ついでにハーレイの怒りの波動も届いたらしい。昔の彼は愛妻家で有名だった。
「わ、わかった。悪かった。落ち着いてくれ、若長の名誉は守られている」
「疑うものがいるなら、遠慮なく申し出てくれ。なに、決着には時間はかかるまい?」
ハーレイはわざとらしく、剣帯を指でふれた。
若長の実力を知るものは、麦酒を片手にその場から逃げ出した。ハーレイは怒りの行き場をなくし、大きな溜息をついた。
「なになに、どうしたの?」
元凶の娘は、無邪気に聞いてくる。
まだハーレイは、はらわたが煮えくりかえっていた。麦酒を一気にあおる。
「貴方を俺の隠し子だと思ってやがる……」
「周囲の期待に応えて、お父さんって呼ぶべき?」
「……」
ハーレイは立ち上がると、無言でイーレが食べている串を取り上げ、彼女を小脇にかかえ、そのまま宴会の輪の外に容赦なく放り出した。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
イーレはそれ以降、ハーレイの横で大人しくウールヴェの串焼きを食べていた。彼女が素直に謝ったのは、肉を食べる機会を失わないためだろうとハーレイは推測した。それは正しかった。
一方、離れた場所で様子を伺っていた集団は、麦酒を片手に密かに盛り上がっていた。あれは隠し子ではなく、嫁候補だ、と。
次の問題が発生していることを二人はまだ気づいてなかった。




