表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第6章 精霊の審判者
87/1015

(5)若き長⑤

 ライアーの塚でウールヴェの解体が始まり、そのまま宴会の準備が始まった。通常は村で行われるが、イーレが余所者(よそもの)で村に入れることができないからだ。


 慣れている男達の手際はいい。ウールヴェが薙ぎ倒した木を切り出し、丸太をベンチがわりに配置し、薪を山積みにする。少年達は細竹を大量に切り出してきた。どうやら肉を刺す串がわりらしい。


 もちろん村に戻り、麦酒(エール)の樽を持ってくることも忘れない。大量の肉を村に届けたから、村でも宴会が始まるそうだ。イーレはハーレイからナイフを借りて、肉を細竹に刺していく役を受けもった。


 串肉を取りに来た男達に、やたら頭を撫でられる。西の民の言語はまだ習得できないが、よくやった、とかそういう(たぐい)だろうとイーレは思った。


「やだ、美味しい」


 それは中央(セントラル)の超高級肉以上の美味しさだった。こんな極上の肉が世の中に存在するのか。イーレは感動した。

 単純に焼いただけでも、充分の旨味が肉にはあった。香辛料を加えれば、アレンジが無限に広がった。これまた、西の民は巧みに香辛料を使いわけるのだ。

 イーレは西の民の究極の食文化を存分に味わった。

 とろけるような顔で肉を堪能する子供に周囲は大笑いする。


「美味しいか、と皆が聞いている」

「美味しい。もう最高。ここに一生住みたいくらい」


 ハーレイが通訳して皆に伝えると大爆笑になった。





「ハーレイ」


 ハーレイが樽から麦酒(エール)を酌んでいると呼び止められた。


「あの子が例の泉にいたエトゥール人か?」

「そうだ」

「あの子は今、どこにいるんだ」

「掟通りに商人小屋だ」

「村でもいいんじゃないか?」

余所者(よそもの)だから入れるわけにはいかない」


 内心、ハーレイも同じことを思っていたが、若長が率先して規律を破るわけにはいかなかった。


「いやいや、そんな芝居をしなくても我々は受け入れるよ。母親がエトゥール人でも、あの子は立派な戦士の素質がある」

「なんの話だ?」

「あの子は、ハーレイの娘なんだろう?」

「――は?」

「ハーレイにイーレ。名前もちゃんと(いん)をふんでいる」


 とんでもない誤解が生まれていた。


「イーレは俺の隠し子じゃないっ!」

「いやいや、隠さなくていいんだ、若長。若い時の過ちは誰にでもある」


 集まった男達が笑いながら頷く。


「だから、違う!」

「あの子なら村で育てても、問題ないよな?」

「ああ、すぐにでも嫁の引き取り手がある」

「お前のところの息子はどうだ?」

「あれだけ、戦えるなら悪くない」


 勝手に話が進んでいく。


「人の話を聞けっ!」


 ハーレイの怒声に皆はびっくりした。


「イーレは俺の娘じゃない」

「でも――」

「そうか。皆は、俺が妻の生前時に、外に女を作ったと言うんだな?名誉をかけた決闘を用意しよう。死んだ妻と子供のためにも」


 時系列の矛盾に彼等は、ようやく気づいたようだった。ついでにハーレイの怒りの波動も届いたらしい。昔の彼は愛妻家で有名だった。


「わ、わかった。悪かった。落ち着いてくれ、若長の名誉は守られている」

「疑うものがいるなら、遠慮なく申し出てくれ。なに、決着には時間はかかるまい?」


 ハーレイはわざとらしく、剣帯を指でふれた。

 若長の実力を知るものは、麦酒(エール)を片手にその場から逃げ出した。ハーレイは怒りの行き場をなくし、大きな溜息をついた。





「なになに、どうしたの?」


 元凶の娘は、無邪気に聞いてくる。

 まだハーレイは、はらわたが煮えくりかえっていた。麦酒(エール)を一気にあおる。


「貴方を俺の隠し子だと思ってやがる……」

「周囲の期待に応えて、お父さんって呼ぶべき?」

「……」


 ハーレイは立ち上がると、無言でイーレが食べている串を取り上げ、彼女を小脇にかかえ、そのまま宴会の輪の外に容赦なく放り出した。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 イーレはそれ以降、ハーレイの横で大人しくウールヴェの串焼きを食べていた。彼女が素直に謝ったのは、肉を食べる機会を失わないためだろうとハーレイは推測した。それは正しかった。


 一方、離れた場所で様子を伺っていた集団は、麦酒(エール)を片手に密かに盛り上がっていた。あれは隠し子ではなく、嫁候補だ、と。





 次の問題が発生していることを二人はまだ気づいてなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ