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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第6章 精霊の審判者
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(2)若き長②

 ハーレイは結局、謎の子供を村と取引する商人が寝泊まりする小屋に案内した。清掃はされているが、狭くエトゥールの貴族にはふさわしくはない。

 だがイーレは不満を言わなかった。

 イーレは納屋の新しい干し草を持ち込み、布をかぶせ、自分で手際よくベッドを整える。妙に手慣れている、とハーレイは思った。


「どこでそんな手法を学んだんだ?」


 イーレは得意そうに、にっと笑った。


「いろいろと経験があるのよ」

「エトゥールの貴族ではないのか?」

「正確に言うと違うわ。カイルと同類よ」

導く者(メレ・アイフェス)だというのか?」

「メレ・アイフェスがどういう意味で使われているかによるわ。だってここはエトゥールと対立してる国なんでしょ?」

「今は休戦中だ」


 ハーレイはむっとした。


「あら、カイルが苦労した和議はまだ結ばれていないの?」

「話し合いの二日後に、いきなり国境までおくられた。和議は後日という話だった」

「ああ、カイルが倒れたからね」

「カイルが倒れただと⁉︎」


 失言したイーレは慌てて口に手をあてた。ハーレイはイーレの腕をつかんだ。


「いったい、どういうことだ⁉︎」

「えっと、落ち着いてくれる? 誤解させたわね、カイルは今は無事よ。意識を取り戻して、生活しているわ」

「いきなり我々を国境まで送り届けた理由はそれか⁉︎」

「そうかも」

「だから、エトゥール人は油断はならないんだっ!」

「逆でしょう」


 イーレは真顔で言った。


「カイルが倒れたきっかけが西の民との接触なら、それをエトゥール内の派閥に政治的に利用されるのを避けるために、メレ・エトゥールは貴方達を逃したのよ」

「……」

「実際、粛正は行われたし、メレ・エトゥールは約束を果たしたと思うわ。だいたい怪しい子供の言葉を簡単に信じては、ダメでしょ。自分で確かめるべきね」

「……」

「だから、私をエトゥールに連れていって、直接カイルの無事を確認するのは、どう?」

「――断る」


 あやうくのせられるところだった。その証拠にイーレは小さく舌打ちをした。

 頭のいい口の達者な子供だ。村に近づけるのは、危険かもしれない、とハーレイは感じた。この姿と、魅了する無邪気な笑顔に騙される村人が多数でそうだった。



「小屋の中の物は好きに使っていい。あと、悪いがウールヴェで監視させてもらう」


 ハーレイは自分のウールヴェを呼び出した。彼の腕に夜目がきく大きなフクロウが現れた。


「ウールヴェ!」


 イーレは目を輝かせた。

 なんだ、その期待に満ちた反応は――と、ハーレイは引き気味になった。


「すごいわ、鳥型もいるのね。しかも色が白じゃない」

「鳥型?」

「カイルのウールヴェは、純白の大きな狼に似ていたわ」

「――」


 カイルのウールヴェは肩に乗る大きさだった。それがわずか数ヶ月で急成長したことになる。その可能性にハーレイは、いくつか思いあたったが、とりあえず頭から追い出した。


 恐れも知らずにウールヴェに触れようとするイーレの手を避け、ハーレイはフクロウを小屋の梁に向かって放した。

 子供を見張ることと、梁の上にいることを命じる。


「ああ、触らせてよ」

「断る」

「ケチ」

「懐柔するために餌をやりまくる気がする」

「貴方は本当に鋭いわね。予知能力でもあるの?」


 否定しないのか――と、ハーレイは内心呆れる。


「先見の力があったら、もっと楽に生きられる」

「そうかしら?」


 イーレは小さく笑った。


「未来がわかれば、案外それに縛られるかもしれないわよ?」

「……賢者みたいな言い方だな」

「そう?」

「貴方はいったい幾つなんだ?」

「……死にたくなかったら、その禁断の質問はやめた方がいいわよ?」


 冗談のような切り返しだったが、ずっと幻視している成人女性の手に、いつのまにか死の精霊が持つ巨大な鎌が握られていた。


――本気だ


 確かに禁断の質問であることをハーレイは悟った。


 

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