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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第5章 精霊の守護者
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(18)晩餐会後①

 安全が確認されるまでは、メレ・エトゥールの関係者は離宮の二階の控室から出ることは許されなかった。メレ・エトゥール自身も指揮は第一兵団長のクレイにまかせて、控室でくつろいでいる。

 ファーレンシアはまだ蒼白(そうはく)だった。ずっとシルビアが手を握り、落ち着かせている。


「つまり、僕達だけ知らなかったわけね」


 カイルは不貞腐(ふてくさ)れ、近衛兵(このえへい)に扮したサイラスを睨む。


「あの時、離宮にいたのは確定座標(かくていざひょう)獲得(かくとく)のためか」

「イーレが欲しがったんだよ」

「髪まで短くして」

「長ければ気づくだろう?」

「何で黙っていたんだ」

「二人とも顔に出るから」

「――」


 正論すぎる指摘にカイルは、イラっとした。


「なんで、イーレまで」

「血をなるべく流さないために。イーレの方が器用だもんね。あと試したかったと言ってたよ」

「試す?」

「エトゥールの危機を救う邪魔を精霊がしないかどうか。今回500キロも確定座標は、ずれなかっただろう」

「――」

「シルビアの時もそうだった。エトゥールの危機を救うためなら邪魔はされないという仮説が成り立つ」

「するとサイラスは観光気分だったから、南に飛ばされたってことか?」


 カイルの憎まれ口をサイラスはスルーした。


「南が魔獣が増えて、やばかったからかもねぇ。もしくは本当に世界の番人が言ったようにリルと縁を結ぶためかもね」

「……」

「逆に、次にイーレがここに、降下できるとは限らない。こればっかりは、検証するしかないけどさ」

「……」


 ノックの音がして、クレイが入室してくる。彼の鎧には幾ばくかの返り血で汚れていた。


「すべて終わりました」

「見過ごしはないか?」

「メレ・アイフェスの指摘の人数にはなりました」

「よろしい」


 メレ・アイフェスの指摘(してき)の人数――上空で侵入した敵の数を数えていたのはディム・トゥーラか。彼まで関与していたことに、カイルは裏切られた気分だった。


 しかも自分が呑気に晩餐会の時間を過ごしている間に、クレイ達は戦っていたのだ。晩餐会に影響を与えない限られた戦力でひそかに制圧するのは難しいことであっただろう。

 かと言って、事前に知らされていれば、カイルは晩餐会を平静に過ごすことなどできなかった。セオディア・メレ・エトゥールの読みは正しい。


 カイルは行き場のない怒りを持て余した。


「ではファーレンシアを部屋まで送ってくれ」

「わかりました」


 ファーレンシアは、メレ・エトゥールの言葉に立ち上がった。クレイは扉をあけたが、彼女を直接エスコートはしなかった。血で汚れた手甲で触れることは許されないのかもしれない。

 ファーレンシアは言葉もなく、ただ室内にいた人々に一礼を専属護衛を従えて出て行った。彼女のドレスを握る手はまだ震えていた。


「さて、サイラス殿、追加契約は完了だ。協力に感謝する。イーレ嬢にも礼を伝えてくれ」

「念のため、朝までここに待機するよ。残党はいないはずだけどね」

「シルビア嬢はどうされる?」

「私も、もうすこしだけ、ここにいます」


 頷いて、セオディア・メレ・エトゥールはカイルに向き直った。


「何か言いたいことがあるようだな。きこう」

「……もっとマシな方法はなかったの?」

「これが最良だ」

「どこが⁉︎」

「被害は最小限、我々側に死者はいない、関係者は捕縛(ほばく)、エトゥール王族には精霊の守護者がいると思わせた。他に何が重要だ?」

「――っ!」


 妹の初社交(デビュタント)など取るに足らないとの宣言だった。メレ・エトゥールとして、正しい選択をしたと言われれば、カイルに返す言葉はない。

 だが、エトゥールの女性にとって大事な儀式と散々聞かされていた彼は、メレ・エトゥールのやり方に納得していないのだ。ファーレンシアは傷ついている。


「カイル殿、ファーレンシアをまかせていいだろうか?」

「それ一番、難易度が高いヤツ」


 不機嫌にカイルは答える。


「だから、私よりカイル殿がむいているだろう」

「――」


 どこまでも正論で攻めてくる。外堀を埋めて、自分の望む道を辿らせるのが、セオディア・メレ・エトゥールの手だ。

 カイルはため息をついて扉に向かった。出て行く時にドアのところで叫ぶ。


「メレ・エトゥール!」

「なんだろうか?」

「貴方は腹黒(はらぐろ)すぎるっっ!!」

「――」


 子供のような捨て台詞に、ミナリオとアイリが同時に口に手をあてる。ツボに入ったようで、二人とも肩が震えている。


「……ミナリオ」

「も、申し訳ありません」


 元専属は新しい主人を追うことを口実に、逃げるようにドアから出て行った。

 シルビアも座ったまま、両手で口を覆っている。


「……シルビア嬢」

「……申し訳ありません……」


 シルビアは笑いをこらえて涙目だった。セオディア・メレ・エトゥールはむっとした。


 白い獣(ウールヴェ)主人(カイル)のあとを追うためにドアに向かう。主人(カイル)と同じ金色に変化した瞳が、セオディア・メレ・エトゥールを一瞬、見つめる。



――せおでぃあ・めれ・えとぅーる 腹黒(はらぐろ)



 カイルのウールヴェがまた変な言葉を覚えてしまった。メレ・エトゥールは、なぜか今夜の離宮の事件よりも動揺してしまった。

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