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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第5章 精霊の守護者
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(14)晩餐会⑦

――難易度が高すぎるっっっ!!


 カイルは心の中で叫んだ。

 シルビアの忠告を思いだした時には遅かった。その状況に陥ったのは自業自得とも言えた。進行方向に築かれる女性の壁は、カイルの想像以上に厚かったのだ。


 断っても、断っても、別の女性から申し込みが入る。

 社交の一環なので無下にはできない。かと言って、長々と相手をしている時間はない。

 ファーレンシアが倒れる演技をする前に、彼女に辿り着かなければ意味はないのだ。


「先約がありますので」

「次回の機会がありましたら、ぜひ」

「私よりふさわしい初代エトゥール王のような方とご縁があると思います」

「私には身に余る光栄ですので」

「青い衣を身にまとう今、ご縁はないようで残念です」

「四曲目がないことを残念に思います」


 申し込んできた女性に断りをいれ、数歩進むとほかの女性に捕まる。これが無限地獄というものではないだろうか。


「カイル様」

「ミナリオ!」


 断る定型文句のストックがつきようとしている頃に、専属護衛のミナリオが女性の波をかきわけたどりついてくれた。ミナリオと合流できてからは、事態はやや好転した。

 ミナリオが護衛を口実に、女性をやや遠ざけ、そこにできた隙間にカイルは身体をすべりこませ、包囲網を突破した。


 なんと、恐ろしい戦場だろうか。

 カイルはげんなりした。シルビアが伝えたメレ・エトゥールの感想は正しかった。戦争で殿(しんがり)をつとめる方がはるかに楽に違いない。



 前方では、次の問題が発生していた。

 本日の主役の人気は凄まじかった。社交会に天使が舞い降りたのだ。多数の男性に囲まれているファーレンシアがようやく視界にはいった。

 彼女は根気よく断り続けている。

 カイルは自分の遮蔽(しゃへい)をといてみた。

 ファーレンシアを囲む人物達の中に、不埒な目的で近づいている者が複数存在することがわかった。社交経験のないファーレンシアなら簡単に騙して連れ出せると勘違いしている(やから)だ。


 カイルはそんな存在に怒りを覚えた。


 彼女の出会いを邪魔しない云々以前の問題だった。もしかして、メレ・エトゥールはこれを心配していたのだろうか?


「どうされますか?」


 ミナリオが尋ねた。


「奥の手を使う」

「奥の手?」




 カイルは同調能力を使った。

 ファーレンシアの周辺に群がる(よこしま)な考えを持つ男性陣に威圧(いあつ)をかけたのだ。




 水が引くように、左右に人の波が分断された。


 ファーレンシアが驚いたように、正面に現れたメレ・アイフェスの青年を見つめた。傍らにいたミナリオも驚いたようにカイルを見ている。

 ミナリオはカイルが変貌したと感じたかもしれない。それはあとで彼に説明するしかない、とカイルは割り切った。


 カイルは通路のように開かれた場所を堂々と歩いて、ファーレンシアに近づき、穏やかな笑顔で話しかけた。


「ファーレンシア・エル・エトゥール」


 カイルはファーレンシアに深く一礼をした。


「異国の出身ゆえに、無礼をお許しいただきたい。三番目に踊る栄誉を得るために参上しました。踊っていただけますか?」


 ファーレンシアは思いがけない救世主を見つめ、ほっとしたように、頬をそめ頷いた。


「はい」





 会場がざわめいた。

 が、そんなことは無視して、カイルはファーレンシアをそのままエスコートをし、無事に中央に連れ出した。


「あの……今のはどんな魔法ですか?」

裏技(うらわざ)

裏技(うらわざ)……ですか?」

「同調能力で威圧(いあつ)したんだ」

「……威圧(いあつ)……」

「怒ったセオディア・メレ・エトゥールの波動を真似たんだ。君に対して不埒(ふらち)な考えを持っていた奴ほど、びびったと思うよ」

「――」


 ファーレンシアは笑いだした。


「確かに、怒り狂った兄が様子を見にきたかと思いました」

「似てた?」

「とても似てました」

「妹である君が言うなら間違いないね」

 カイルは悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。





 少し離れた場所で、カイル達を見ていたセオディア・メレ・エトゥールは、顳顬(こめかみ)に手をあて、深いため息をついた。


「本当に、メレ・アイフェスは想像の斜め上を突き進むのだな。……あれは、私の模倣(もほう)か?」

「……あ……気づいてしまわれましたか……」


 姿形はカイルのままだったが、雰囲気の違う人物が出現したことは、セオディアもその瞬間に感じとっていた。


「カイルも詰めが甘いですね。周辺を遮蔽(しゃへい)して、威圧すれば貴方にバレることがなかったのに……」

「……」


 シルビアの現状分析もどこかずれている、とセオディアは思った。メレ・エトゥールにばれないようにすべき、という結論を本人の前で披露するのだから。


「シルビア嬢、そういう問題でもなかろう? カイル殿はこんなことまで、できるのか?」

「みたいですね」

「彼の前で激怒した記憶はないぞ? どうやって私を模倣(もほう)できたのだ?」

「多分、西の民の話し合いの場ではないかと思いますが。あの時、冷静に対応されていましたが、本当は身内の裏切りに激怒していらしたのでしょ?」

「――」

「カイルは、表面ではなく、心の奥底に隠された感情を感じ取ります。あの時、西の民の代表者の感情を言い当てたように。今はファーレンシア様に(よこしま)なことを考えていた男性達がいたのではないですかね。彼も貴方も激怒する事柄には、それぐらいしか心当たりはありません」

「――」


 メレ・アイフェス達の特殊な能力を理解していたつもりだが、自分がネタとして使われるのは想定外だった。セオディアはいくつか考えを改める必要性を感じた。


「これについて後日、カイル殿と話し合ってもいいか?」

「どうぞ。説教も加えていただけると助かります」


 シルビアはカイルを売った。


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