(14)晩餐会⑦
――難易度が高すぎるっっっ!!
カイルは心の中で叫んだ。
シルビアの忠告を思いだした時には遅かった。その状況に陥ったのは自業自得とも言えた。進行方向に築かれる女性の壁は、カイルの想像以上に厚かったのだ。
断っても、断っても、別の女性から申し込みが入る。
社交の一環なので無下にはできない。かと言って、長々と相手をしている時間はない。
ファーレンシアが倒れる演技をする前に、彼女に辿り着かなければ意味はないのだ。
「先約がありますので」
「次回の機会がありましたら、ぜひ」
「私よりふさわしい初代エトゥール王のような方とご縁があると思います」
「私には身に余る光栄ですので」
「青い衣を身にまとう今、ご縁はないようで残念です」
「四曲目がないことを残念に思います」
申し込んできた女性に断りをいれ、数歩進むとほかの女性に捕まる。これが無限地獄というものではないだろうか。
「カイル様」
「ミナリオ!」
断る定型文句のストックがつきようとしている頃に、専属護衛のミナリオが女性の波をかきわけたどりついてくれた。ミナリオと合流できてからは、事態はやや好転した。
ミナリオが護衛を口実に、女性をやや遠ざけ、そこにできた隙間にカイルは身体をすべりこませ、包囲網を突破した。
なんと、恐ろしい戦場だろうか。
カイルはげんなりした。シルビアが伝えたメレ・エトゥールの感想は正しかった。戦争で殿をつとめる方がはるかに楽に違いない。
前方では、次の問題が発生していた。
本日の主役の人気は凄まじかった。社交会に天使が舞い降りたのだ。多数の男性に囲まれているファーレンシアがようやく視界にはいった。
彼女は根気よく断り続けている。
カイルは自分の遮蔽をといてみた。
ファーレンシアを囲む人物達の中に、不埒な目的で近づいている者が複数存在することがわかった。社交経験のないファーレンシアなら簡単に騙して連れ出せると勘違いしている輩だ。
カイルはそんな存在に怒りを覚えた。
彼女の出会いを邪魔しない云々以前の問題だった。もしかして、メレ・エトゥールはこれを心配していたのだろうか?
「どうされますか?」
ミナリオが尋ねた。
「奥の手を使う」
「奥の手?」
カイルは同調能力を使った。
ファーレンシアの周辺に群がる邪な考えを持つ男性陣に威圧をかけたのだ。
水が引くように、左右に人の波が分断された。
ファーレンシアが驚いたように、正面に現れたメレ・アイフェスの青年を見つめた。傍らにいたミナリオも驚いたようにカイルを見ている。
ミナリオはカイルが変貌したと感じたかもしれない。それはあとで彼に説明するしかない、とカイルは割り切った。
カイルは通路のように開かれた場所を堂々と歩いて、ファーレンシアに近づき、穏やかな笑顔で話しかけた。
「ファーレンシア・エル・エトゥール」
カイルはファーレンシアに深く一礼をした。
「異国の出身ゆえに、無礼をお許しいただきたい。三番目に踊る栄誉を得るために参上しました。踊っていただけますか?」
ファーレンシアは思いがけない救世主を見つめ、ほっとしたように、頬をそめ頷いた。
「はい」
会場がざわめいた。
が、そんなことは無視して、カイルはファーレンシアをそのままエスコートをし、無事に中央に連れ出した。
「あの……今のはどんな魔法ですか?」
「裏技」
「裏技……ですか?」
「同調能力で威圧したんだ」
「……威圧……」
「怒ったセオディア・メレ・エトゥールの波動を真似たんだ。君に対して不埒な考えを持っていた奴ほど、びびったと思うよ」
「――」
ファーレンシアは笑いだした。
「確かに、怒り狂った兄が様子を見にきたかと思いました」
「似てた?」
「とても似てました」
「妹である君が言うなら間違いないね」
カイルは悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。
少し離れた場所で、カイル達を見ていたセオディア・メレ・エトゥールは、顳顬に手をあて、深いため息をついた。
「本当に、メレ・アイフェスは想像の斜め上を突き進むのだな。……あれは、私の模倣か?」
「……あ……気づいてしまわれましたか……」
姿形はカイルのままだったが、雰囲気の違う人物が出現したことは、セオディアもその瞬間に感じとっていた。
「カイルも詰めが甘いですね。周辺を遮蔽して、威圧すれば貴方にバレることがなかったのに……」
「……」
シルビアの現状分析もどこかずれている、とセオディアは思った。メレ・エトゥールにばれないようにすべき、という結論を本人の前で披露するのだから。
「シルビア嬢、そういう問題でもなかろう? カイル殿はこんなことまで、できるのか?」
「みたいですね」
「彼の前で激怒した記憶はないぞ? どうやって私を模倣できたのだ?」
「多分、西の民の話し合いの場ではないかと思いますが。あの時、冷静に対応されていましたが、本当は身内の裏切りに激怒していらしたのでしょ?」
「――」
「カイルは、表面ではなく、心の奥底に隠された感情を感じ取ります。あの時、西の民の代表者の感情を言い当てたように。今はファーレンシア様に邪なことを考えていた男性達がいたのではないですかね。彼も貴方も激怒する事柄には、それぐらいしか心当たりはありません」
「――」
メレ・アイフェス達の特殊な能力を理解していたつもりだが、自分がネタとして使われるのは想定外だった。セオディアはいくつか考えを改める必要性を感じた。
「これについて後日、カイル殿と話し合ってもいいか?」
「どうぞ。説教も加えていただけると助かります」
シルビアはカイルを売った。




