(7)晩餐会②
謁見がすみ、夜が近づいてくるとメレ・エトゥールとカイルは離宮に移動をした。専属護衛とともに、二階の控室でくつろぐ。窓から見下ろすと馬車が次々と離宮の前に止まり、招待客が集まり始めているのがわかる。
ノックの音がして、侍女がシルビアを案内してきた。
カイルは驚いた。シルビアは大変身を遂げていた。
長い銀の髪は丁寧に編みこまれアップされていた。青い宝石のティアラが輝いている。肩と背中が露出した薄いブルーのドレスで、カイルの長衣の色と同一だった。それは同時にメレ・エトゥールの髪の色に近いことにカイルはようやく気づいた。
肘上までの長い手袋も同色で、ティアラをつけた銀の髪のシルビアは、その均整のとれた身体で、セオディア・メレ・エトゥールの横に立つことを許された貴族の子女に見えた。
彼女のエスコート役であるセオディアは立ち上がり、シルビアの手をとり、軽く接吻をした。
「月から降り立った精霊の御使いのようだ。とても美しい」
シルビアの耳が赤くなっているのをカイルはみた。
またノックの音がして侍女の先導の元、一人の少女が現れた。
ファーレンシアだった。
ファーレンシアは真珠色の初社交のドレスを着ていた。シルビアのものとは違い、ウエストの切り替え部分でふわりと大きく広がっている。長い髪をシルビアと同様にアップしているのでいつもより大人びて見えた。ドレスには金糸で刺繍が施されており、少女の整った容貌を引き立たせた。
いつもとは違う少女の姿に、カイルは言葉を失い、見とれてしまった。
セオディア・メレ・エトゥールが咳払いをする。
カイルの反応がないことに少女は困ったように視線を落としていた。何かを言わなければいけないが、言語能力は麻痺してしまったようで、カイルは慌てた。
「……すごく、綺麗だ」
素朴だが、実感が深くこもった賞賛にファーレンシアは頬を染めた。
「……綺麗すぎて言葉が見つからない……。今日エスコートできることを光栄に思うよ」
不器用なメレ・アイフェスの称賛の言葉に、ファーレンシアは真っ赤になった。
「……まあ、上出来だ」
セオディアの呟きは、衣装の完成度のことだと思ったが――実際は違ったが――ファーレンシアから目が離せなかったカイルは気にしなかった。
今すぐ彼女の絵を描くために、引きこもりたかったが、許されるわけもない。
「今日はお前の初社交でもある。存分に楽しむといい」
メレ・エトゥールの祝福の言葉にファーレンシアはドレスを広げ、深く一礼をした。
時間が近づき、晩餐会の会場に向かう。
前方にはセオディアにエスコートされているシルビアが歩いている。二人は何事か長々と話し、時々セオディアが笑っているのが目に入った。なかなかいい雰囲気と思われる。
カイルはエスコートをしているファーレンシアを見た。
「今日は初社交なんだね」
「はい、昔は体力がなく、諦めていました。今日は夢のようです」
「やっぱり重要な式典なんだ?」
「成人として認められることになりますから」
「おめでとう」
「ありがとうございます」
ファーレンシアは嬉しそうに微笑んだ。カイルは微笑みを返した。
「セオディア・メレ・エトゥール並びにシルビア・メレ・アイフェス・エトゥールのご入場」
案内役の近衛の声が響く。
扉が開き、セオディア達が入場した時に、異様などよめきが聞こえたような気がした。
扉は一度閉められた。
セオディア達が席に着くまでは待つことになる。
「カイル様」
「ん?」
「エスコート役を引き受けてくださりありがとうございます」
「僕でよければ、お安い御用だ」
「ひとつ夢が、かないました」
それはどんな――とカイルが聞く前に近衛の声が響いた。
「ファーレンシア・エル・エトゥール並びにカイル・メレ・アイフェス・エトゥールのご入場」
二人で会場に足を踏み入れると会場に再びどよめきがおこる。今度は好意的なものであるから、ファーレンシアの美しさが巻き起こしたものであろう。
カイルは少女がゆっくりと階段を降りるのをエスコートし、拍手が起こる中、会場を二人で奥まで歩いた。セオディアの横に用意された席まで導き、彼女のために椅子を引いた。二人が着席したことを合図に晩餐会が始まった。




