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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第5章 精霊の守護者
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(4)離宮①

 それからの日々は忙しかった。

 特にシルビアは何度もファーレンシアと侍女達に拘束された。仮縫いだ、髪飾りだ、靴だ、とかいろいろ理由はつけられていたが、服飾文化に疎いカイルには、なぜそこまで時間がかかるかよくわからなかった。

 そこまで力をいれたドレスは当日までお披露目されることはないらしい。


「領主の私ですら、見たら女性全員を敵に回すレベルだ」

「……何、その怖い世界」

「男が口を出さない方が平和な領域だ。当日まで放置に限る」

「女性がこだわる伝統なのかな?」

「まあ、そうだが、こんなのは序の口だ。とにかく、この時期の侍女の要求には逆らうな」


 まだ、あるのか。女性の熱意と宮廷作法を舐めていたことをカイルは深く反省した。





 一方、問題のあった南部の領地を直轄地(ちょっかつち)にしたことで、セオディア・メレ・エトゥールの執務は激増した。そこに晩餐会(ばんさんかい)の準備が加わった形だ。


「何も忙しさに拍車をかけなくてもいいだろうに」

「今、晩餐会(ばんさんかい)を開催するほうが後腐(あとくさ)れがなくてよい」


 さすがにカイルは無条件で期間限定の手伝いを申し出た。カイルは政務のうち、陳情や災害支援など、過去の事例を参考にできるものを引き受けた。一番の犠牲者はミナリオだった。


「この執務室の警護は完璧だし、ミナリオの実家は商家だろう。計算は得意だよね」

「私は専属護衛ですよ⁉︎」

「僕の世界には『立っている者は親でも使え』と素晴らしい名言があるんだ」


 メレ・エトゥールが振り分け可能な業務をカイルに渡し、カイルは隠れた才を持つ専属護衛達を見抜いて、さらに数名ほど強引に引きずりこみ、分担した。

 欠けた専属護衛の分は、ウールヴェのトゥーラにまかせた。戸口に鎮座する純白の狼もどきの警護に、お茶を用意しに来た侍女が茶器を取り落とすという事故は発生したがおおむね順調だった。


 南の情勢も落ちついてきたのか、日々、陳情は減っていく。


 セオディア・メレ・エトゥールは、同時にカイルの教育も忘れなかった。地理情報と各代表者の名前、称号、関係性を記した羊皮紙の山が積まれた。それに晩餐会の出席者のリストが加えられた。


「当日までに記憶して、シルビア嬢に伝授しておいてくれ」


 周囲はその量に蒼白になったが、カイルは平然と受け取り、翌日には暗記してきた。宮廷作法にダンスと、講義も続いたが、なんとか形になったと思われた。





 カイルが城でサイラスと再会したのは、ミナリオに会場となる離宮を案内されている時だった。

 彼は舞踏会場になる広いホールに立ち、天井画を眺めていた。


「サイラス、年貢の納め時?」

「残念、追加討伐依頼で舞踏会は免除だ」


 サイラスは、にやりと笑った。

 ちっとカイルは舌打ちをした。

 どうやらメレ・エトゥールはサイラスを捕獲することが出来なかったようだ。裏取引により免除とは、そんな手があったのかと悔やまれる。


「何を見ていたのさ?」

「天井画。灯台下暗(とうだいもとくら)しだぜ。あれは精霊と初代エトゥール王の寓話(ぐうわ)じゃないか?」

「よくご存知ですね」


 サイラスの指摘に、感心したのはミナリオだった。

 意外なところに世界の番人とエトゥール王の神話がかかれていた。探していた題材がこんな身近にあったとは全く盲点であった。


「ミナリオ、こういう天井画は城内にいくつあるかな?」

「……数えたことはありませんね。エトゥールの創世神話は割と一般的な意匠ですよ。聖堂とか隣の晩餐会用の部屋にも絵ではない意匠があります」

「見たい」


 カイルは即、希望を述べた。


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