(22)閑話:残留
世界の番人との対話から一夜明けたあと、カイルの部屋にシルビアとサイラスは再び集まった。
専属護衛達には席をはずしてもらう。
番人の領域であったやり取りの「大災厄」を簡単に漏らすことはできないからだ。
「ふーん」
関心がなさそうにサイラス・リーは聞いていた。が、違った。
「その番人とやらを殴るにはどうしたらいい?」
かえってきた台詞が物騒すぎて、カイルは内心、冷や汗をかいた。
「サイラス、ここの会話も筒抜けだと思うから物騒な発言はやめて」
「世界の番人にこっちの感情も筒抜けかね?」
「サイラスの感情は?」
「『とりあえず一発殴らせろ。話はそれからだ』」
「……師匠の影響を受けすぎだよ……」
『さすが、わが弟子』
「イーレも煽らないで」
『俺の分も追加で』
「ディムがブチ切れたことはよく理解しているから、元に戻って」
カイルは頭が痛くなった。誰も世界の番人に協力的ではない。
当たり前だと言えば、当たり前だ。世界の番人は、絶対者であるかのように――事実、絶対者なのだろうが――カイル達に大災厄に対峙するように強要してきた。
だが、カイル以外は地上に無関心であることに気づいていない。いや、気づいているかもしれない。
だから、ディム・トゥーラと『子供』の関わりを突いて、結果、彼を激怒させたのだ。
前途多難な幕開けだった。しかし、カイル自身が精霊に強い拒否感があるから、人のことはあまり言えなかった。
「シルビア達は早く地上を離れた方がいい。大災厄がどういうものかわからないから、危険だと思う。今なら戻れることができる」
「私は地上に残りますよ」
シルビアがあっさりと告げる。
「シルビア」
「カイルは残るのでしょう?」
「僕は取引をしてしまった身だからね」
「浅はかです」
『全くだ』
「自覚はあるから、責めないでよ。シルビア、重要な問題だからそんなにすぐ結論を出さなくても」
「結論はでているから、時間の無駄です」
「サイラスは?」
「残るよ。ただしリルのそばにいることが条件だねぇ。止められず大災厄になれば、リルと上に転移する」
『腹が立つな。あの腹黒番人は二人に帰還の意思がないことを見抜いていたんじゃないか?』
「ありうるかもね。『本人の望む帰還なら』という条件付きだったから。そういう存在なのかなあ」
『今、クトリに地上の観測データをまとめさせている。大災厄が地震か噴火かはたまた津波なのか、可能性は一つずつつぶす予定だ。中央の量子コンピューターにかければ自然災害は予測できる』
「あとの可能性は戦争かそのサイラスが遭遇した魔獣がらみとかかな?」
「疫病かもしれません」
「戦争なんてこの世界日常茶飯事じゃないのかい?」
「それを私達に止めろとは違和感がありますね。多分違うでしょう」
『それから、中央が取締りにでてきた場合、ステーションからの援助ができなくなる可能性があることを留意してくれ。そこで先手をうってイーレを地上に降ろす』
え?と地上組が驚く。イーレの地上嫌いは研究都市でも有名だったからだ。
「いいんですか?イーレ」
『しょうがないでしょ。指揮系統がなくなるのは困るでしょ?それにね、私、世界の番人が気になっているのよね』
「何が気になるの?」
『彼、誓約があるから語れないって言ったんでしょ?誰とどういう誓約をしたのかしら』
「……考えてみなかった」
『確定座標を必要な場所に飛ばすというなら、それは大災厄の回避のヒントでもあると思うのよ。私が降りるのが王都の確定座標か、どこに飛ばされるか楽しみね』
「危険な場所だったらどうするのさ」
『え?私になんか心配な要素あるの?』
「ない……の……かな?」
「なぜ、疑問形」とサイラスが突っ込む。
『私がおりるまでに番人の伝承でも集めておいてちょうだい』
「やってみる。明日、セオディア・メレ・エトゥールと話す予定だから、その時間だけあけておいて」
『わかった。口を出す気はないからそのつもりで』
「了解」
『あ、そうそう。ディムが貴方の絵を地上に持っていけとしつこいんだけど、本当にいるの?』
「僕が悪うございました。許してください」
カイルは全力で謝った。




