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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第4章 精霊の商人
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(20)対話④

 ディム・トゥーラが激怒しているのはわかった。だが次の一言はカイルの予想を越えていた。彼はにやりと嗤って言った。


「エトゥールの姫君も一緒にか?」

「え?ファーレンシア?」


 カイルの方が激しく動揺した。


「なんでファーレンシアがいるんだ?巻き込んだのか?」

「お前、この修羅場(しゅらば)の最中にどっちの味方をしているんだ?」


 呆れたようにディムが言う。


「当事者なんだから巻き込むのは当然だろう?」

「それとこれは話が別だろう。この腹黒番人をやり込めるのに、ファーレンシアを巻き込むのは間違っている」

「腹黒番人とはなかなかいいネーミングだ。おい、腹黒番人、エトゥールの姫君にお前との会話は筒抜けだ。俺と姫君は繋がっているからな」


 いきなり風が吹き抜けたような印象があった。


ちっ、とディム・トゥーラは舌打ちをする。


「――この野郎。姫を(はじき)き飛ばしやがった」

「なんだって⁈」





「ファーレンシア様!」


 のけぞって意識を戻した自分をシルビアはしっかりと支えてくれた。ファーレンシアは息をついた。


「……カイル様が同調しているのは精霊です」

「え?」

「私は跳ね飛ばされました。もう一度戻ります。シルビア様、先ほどと同じようにお願いします」

「大丈夫ですか?」

「ディム様の見様見真似(みようみまね)ですが、いきます」


 この対立は絶対に止めなければならない。ファーレンシアはカイルとディム・トゥーラの痕跡をたどるために目を閉じた。





「姫に聞かせるには後ろめたい、ってか。子供を盾にする卑怯な行為は」

「ディム、ファーレンシアは?」

「問題ない。遮蔽(しゃへい)はかけてある」


 カイルはほっとしたが、彼の精神感応能力に舌をまいた。彼は自身とカイル、ファーレンシアに遮蔽をほどこし、かつ番人の領域で自我を保つ安全地帯を作り出している。しかも彼はブチ切れという言葉がふさわしいほどの精神状態だ。それでもカイルとファーレンシアに対する繋がりは維持されている。

――イーレ並みに最凶すぎるだろう


「やかましい」


 筒抜けだった。


 ディムは見えない番人に言い放つ。

「人を(こま)のように操れるとは思うな。人を利用するな。思い通りにするには選択を誤ったな」


 カイルは彼の言葉に何かが引っかかった。駒――盤上遊戯(ばんじょうゆうぎ)。だがこの存在からは悪意は感じない。やり方が強引なだけだ。強引すぎてディムの怒りを買った。

 ディム・トゥーラは何かに気づき笑い出した。


「弾き飛ばした姫は、自力で戻ってきたぞ。しかも同調をマスターしてだ。聞かれたくなかったようだが、無駄だ」


 カイルはギョッとした。こんな短時間で能力が開花するなど異常すぎる。場の影響なのかカイルにはわからなかった。


「なんでそんなに冷静なの⁈ あきらかにおかしいだろ⁈」

「規格外はお前で慣れている」

「いや、全然違うでしょ⁈」

「姫は何度でもくるだろう。俺の遮蔽(しゃへい)はやがて切れ、本人の身体に負荷がかかる」


 ディムは番人がエトゥールの姫に手を出せないのを正確に見抜いていた。


「俺達を足止めするなら、大災厄(だいさいやく)より先に姫は死ぬな。子供と等価交換だ」

「彼女を巻き込まないでくれっ!腹黒すぎるだろ!」

「最高の褒め言葉だ」

「ちーがーうー!」

「ほら、来たぞ」


 いつのまにかファーレンシアが立っていた。


「彼等を巻き込んだのは、兄と私ファーレンシア・エル・エトゥールの責です」


 静かにファーレンシアは訴えた。


「大災厄が己の力で回避できない時は、滅びを受け入れる覚悟はできています。ですからメレ・アイフェス達に強制させることは、本意ではありません。どうかご理解を」


――――彼等がいなければ大災厄は回避できぬ


「ならば、滅びは運命です。自然のあるべき姿ではありませんか?」


「僕達がいれば回避できるのか?」


 カイルが割り込んだ。


――――できる


「どうやって?」


――――隠された痕跡を探せ。


「もっと具体的に」


――――誓約により言えぬ。大災厄を止めるか?


 誓約?誓約って何だ?

 カイルは交渉の糸口を手放すつもりはなかった。


「止めてもいいが、こちらも条件がある。地上に降りたシルビアの帰還は邪魔しないでくれ」

「サイラスも降りている」とディムが囁く。

「僕以外の人間の帰還を邪魔しないなら協力する」

「お前を含めないでどうする!」

「この番人は僕を返す気はさらさらないよ。この条件がのめないなら僕はこの空間を出ない。滅亡は止められない。さあ、どうする?」


――――本人が望む帰還なら邪魔はしない


「確定座標に干渉するな」とディム。


――――それはわからない。必要な場所に飛ばす


「必要だと?」


――――お前が子供と縁を結んだように全ては必然だ


カイルは問いただす。

「もう一つ聞きたい。エトゥールを滅ぼそうとしている存在だ」


――――()()については関知していない。あれはあれの思惑で動いている


「同族じゃないのか?」


――――違う


「敵対してもいいんだね?」


――――エトゥールを守れば、自然と対峙する。気をつけるといい


 最後の奇妙な忠告の言葉とともに番人の領域は消失し、あとには静寂が残った。


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