(19)対話③
殴った本人の方も驚いていた。手をみつめ、感心するかのようにつぶやいた。
「すごいな、この空間領域では実体化しているようだ。どういう仕組みなんだか……」
「……僕を殴って確かめないで」
手加減がまったくなく、精神だけのはずなのに、肉体を伴っているかのように痛みがあった。
カイルの抗議は藪蛇になった。怒りの波動をまとってディム・トゥーラに見下ろされ、睨まれた。
「……あ?ウールヴェにふざけた名前をつけやがって、足りないくらいだぞ?」
「なんで知ってるのっ!」
「なるほど、バレなきゃいいと思っていた確信犯か?」
「ごめんなさいごめんなさい」
会話を交わしてカイルは事態に気づいた。目の前に立つ人物を凝視する。
「え?本物のディム?」
「何を今更……」
「餌に釣られちゃダメでしょう!」
「何の話だ?」
ディムはあらためて辺りを見まわした。
「で、ここは何だ?何と同調した?」
「よくわからない。ウールヴェは『番人の領域』と言っていた」
「番人?」
――――ようやく揃った
唐突に声が響き、二人は身構えた。声は空間全体に響いていた。
「揃っただと?」
――――この者が囚われなければお前はこなかった。
「は?」
「だから言ったでしょ。僕はディムを引きずり出す釣り餌らしいよ」
「こんな不味い餌なんかいらん」
「……言い方……」
――――事実、きただろう
「成り行きだ」
――――まいた種は刈り取れ
――――お前達の責だ
「まいた種とはなんだ?カイルが地上におりたことか?」
――――違う
「じゃあ、なんだ?」
――――お前たちが狂わせたすべてだ
「狂わせた?」
カイルは呆然とした。心当たりはない。だが見えない圧が押し潰そうとするかのように、じわじわと増える。やがて圧が止まった。ディム・トゥーラがひそかに周囲の遮蔽を強化したようだった。
「カイルを地上に転移させたのはお前か?」
――――そうだ
カイルは背筋が凍った。衛星軌道から自分を転移した驚異的な力をもつ存在がここにいる。すべてがここから始まっているのだ。
「目的はなんだ?」
――――大災厄を止めろ
「……大災厄って何?」とカイルが問う。
――――お前達は知っている
――――知っているのに止めなかった大罪
――――許されない
知っているか、とディムが目線でカイルに問い、カイルは首をふった。が、カイルは思い出した。
「初めてあったときにファーレンシアが滅びの前兆の夢を見ると言ってた」
心当たりはそれしかない。
「サイラスの確定座標への着地を妨害したのもお前か」
「は?」
確定座標への着地を妨害?カイルは知らない間に起きている事件に耳を疑った。それはありえないことだった。
――――必要だから飛ばした
「必要だと?」
――――お前は地上にしばる存在がなかった
――――大災厄を止めねば、あの子供も死ぬ
「子供?」
カイルは訳がわからずディムを見たが、ぞっとした。彼は怒っていた。間違いなく彼の逆鱗にふれたのだ。
「地上への干渉は禁じられている」
低い声でディム・トゥーラは応じた。
――――それはお前達の世界の法だ。関係ない。
――――大災厄は迫っている
「止める義理はない」
――――子供が死んでもか?
「くどい!」
冷淡に言い切る彼の心情は真逆であることをカイルは気づいていた。
カイルの脳裏に先ほどの映像が蘇った。ファーレンシアもセオディアもミナリオもアイリも死んだ世界。あれは大災厄後の世界なのか?未来の世界なのか?
「まってくれ、あれはエトゥールの未来なのか?僕に見せた映像はそうなのか?」
――――そうだ
「何をみた?」
「エトゥールが消滅していた。人が飢えて死んでいく。あれを回避するには何をしたらいい?」
「カイル!」
――――大災厄を止めろ
「拒否したら?」
――――永遠にこの場にとどまるといい。滅亡の日まで




