(15)同調①
あの白い毛玉が、巨大猪になり、狼もどきになる。シルビアのウールヴェなど小型のフェレットに近い姿をしている。遺伝子情報を無視した個体成長をディムもサイラスも理解できなかった。
ウールヴェの完全な説明ができないシルビアは視線でファーレンシアに助けを求めた。
「ウールヴェの成長は使役している人間側の影響に左右されますので、姿が変化することは不思議なことではありません」
護衛のミナリオがファーレンシアの言葉を引き継いだ。
「セオディア様も子供の頃は、そこのトゥーラより大きいウールヴェをお持ちでした」
『……………………トゥーラ?』
ディム・トゥーラの声の温度が一気に氷点下まで冷え込んだのを、シルビアは感じた。
「えっと……」
『……………………シルビア、「トゥーラ」とは?』
「あ、あの……カイルが名付けて……」
『……………………その、枕元の白い獣に?』
「……あの……そ、その通りですが……」
『……ほほぉ、彼はずいぶんふざけた地上生活を送っていたようだな……』
「ごめんなさい、ごめんなさい」
『シルビアに怒っているわけではない。サイラス、カイルが目覚めたら一発殴っておけ』
「了解」
「サイラスが殴ったらカイルが死んでしまいます!」
エトゥールの姫は、聞こえるぶっそうな会話に顔を引きつらせている。やはり少女はエトゥール語ではない会話も理解しているようだ、とディムは気づいた。
『サイラス、その獣をどけてくれ』
サイラスが寝台に近づきウールヴェを持ち上げようとしたができなかった。
「なんだ、こいつ。動かないぞ」
「あの……護衛3人がかりでも動かせなくて……」
ミナリオが既に試した事実を告げる。
どういう生物か研究対象にしたい欲求は、名付けにより極端に目減りしていた。ディム・トゥーラは厄介な存在の処遇について考え込んだ。
『シルビア、この獣に知性は?』
「あります。命令を理解するのでかなり高いと思われます」
『シルビア、一度イヤリングをはずしてくれ。音量をあげる』
シルビアはイヤリングをはずし、手のひらにのせた。
『どけ獣、カイルを助けるのにお前は邪魔だ』
ディムは思念とともに肉声で命じた。声に不機嫌さが加わったのは仕方がない。すべては獣に名付けられた名前のせいだ。カイルを殴ろう、少なくとも一発は――と彼は決意した。
威圧のある声にカイルのウールヴェは素直に立ち上がると、寝台を降りてファーレンシアの方に向かった。
突然の部屋に大きく響いた謎の声にファーレンシア達は驚きを隠せない。
だが、リルだけは慣れていたので平然としていた。
イヤリングをつけ直すとあらためてシルビアは椅子に腰をおろし、カイルの右手を握った。ディムはシルビアを経由して、カイルの意識を探った。
『――何かと同調している』
「西の民との同調が切れていないのでしょうか?」
『西の民とは?』
「和議のためにきた西の民族の代表です。問題を解決するためにカイルが相手の記憶を読みました」
『違う。もっと別なものだ。目覚めないのは同調状態が続いているせいだ。同調を解除する必要がある』
「できますか?」
ディム・トゥーラは考えこんだ。直接、思念を放ってみる。
『エトゥールの姫君』
ファーレンシアははっとした。
『カイルを起こすために力を借りたい』
「やります。やらせてください」
彼女の返答に迷いはなかった。




