(12)野生のウールヴェ③
サイラスは木に素早く登ると槍を幹に刺した。
『視界を奪え』
「順当な攻略提案だねぇ」
助言通りに、弓を構え、接近してくるウールヴェの目を狙った。1本目は外し、2本目は右目を貫いた。
痛みに対する巨獣の咆哮に、森全体がビリビリと震えるような錯覚をサイラスは覚えた。
「古代種の生き残りの希少種ってオチはないよな?」
『捕獲してみるか?』
「冗談でしょ。命がいくつあっても足りないよ」
『残念だ』
「マジに残念がってない?同僚の命と希少種のどっちが大事なんだよ?」
『当たり前のことを聞くな』
ディム・トゥーラが即座に答える。
『希少種に決まっているじゃないか』
「この研究馬鹿の人非人めぇぇぇ」
すぐに枝から移動する。時計周りに枝から枝へと移動しながら、弓で左目と右脚の腱を狙った。皮は柔らかく矢は確実に刺さったが巨大なウールヴェの勢いは止まらない。サイラスが足場にしていた大木をなぎ倒していく。
左目を射抜いても、獣はサイラスの場所を察知した。
「これ、なんで?」
『体温感知か、匂いか――それとも幼体の感知か』
魔獣の四つ目の方がまだ可愛げがあるとサイラスは思った。
足場がなくなる前に決着をつけなければならない。
――これは本気で行くしかないだろう。
サイラスは一本目の槍を掴むと上空に跳躍し、真上から巨獣の首を狙った。槍は深々と刺さったが、まだ倒れない。
すぐに着地した背中から逃れ、二本目の槍を掴む。そのまま矢の刺さった右目を再度狙う。狙いは命中したが、同時にウールヴェは激しく首をふり、頭の上のサイラスの身体を跳ね飛ばした。
「生意気だなっ!」
サイラスは木に激突する瞬間に身体を回転させ、幹を蹴った。木と木を移動し、三本目の槍を手にするとサイラスは自分の身体をウールヴェの真上のはるか上方の空間に自身の身体を瞬間移動させた。そのまま自分の防御を発生させ、手にした槍に自然落下の重力加速度を乗せる。
心臓を貫く攻撃にウールヴェはようやく倒れた。
『お見事』
師である女性のめったにない賞賛で能力を行使した疲労も吹き飛ぶ達成感があった。
『おかしな生き物だな』
「全くだよ。ここまで手こずるとは思わなかったなあ。矢を消費しすぎた」
『まだお前についてるぞ』
その言葉にサイラスは白い毛玉を回収した。
『どうするんだ、それ』
「売るに決まってるじゃん」
『……お前、間違いなく地上で暮らせるな』
呆れたようにディム・トゥーラが評した。
「すごい、すごいよ、サイラス。ウールヴェを倒せるなんてすごいよ」
リルは大興奮だった。
「あたし、村で人を集めてくる」
「なんだって?」
わざわざ村まで声をかける意図がサイラスには理解できなかった。
「人を集めてどうするんだ?」
「食べるの――っ」
リルは手をふって駆け去る。
「……食べる……だと?」
自分の背後にあるマンモスもどきの死体を見上げ、サイラスは愕然とした。
野生のウールヴェはご馳走らしく、近くの村人が総出の解体ショーになった。リルは格安とは言え、ちゃっかり金を取った。退治した労力からすると、金を取るのは当然らしい。
放置しておくと大部分の木を喰われる大食漢で、退治したことを感謝され、村長から報奨金が受け渡された。さらに持ち金が増えた。
「これを飼おうとするお貴族様って物好きだよね」
「……どうやって飼うんだ?」
「知らない」
さすがに疲れたサイラスに、リルは無邪気に焼けた串を差し出す。
非常に悔しいことに、味は超極上だった。
「……おかわりが、たくさん欲しい」
「はーい」
「……美味しそうだな」
「……ちょっと食べてみたいわね」
観測ステーションの二人は地上のバーベキュー祭りを羨ましそうに眺めていた。




