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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第4章 精霊の商人
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(11)野生のウールヴェ②

――遺伝子情報が狂ってないか?


 さすがのサイラスもあっけに取られた。あの小さな白毛玉が成長して、どうやってこの大きさになるというのだ。それに何かがおかしい。


『サイラス、おかしいぞ。こいつ、唐突に現れた』


 そうだ。違和感の正体はそれだ。ディム・トゥーラが二人に近づくものを見落とすはずがない。こんな巨大なものを気付かないということは、ありえない。



「み、見つかっちゃったよ、サイラス、逃げてっ!」

「リル、あいつの弱点は何だっ?!」

「え?あ?し、知らない」

「ディム!(いのしし)の弱点て何?!」


『鼻、耳の後の首、心臓』


「さすが、専門家!」


『って言うか、それを(いのしし)と思っていいのかね?』


「論文の考察は後にしてくれっ!」


 野生のウールヴェはサイラス達に突進してきた。

 ひょいとリルを抱きかかえると、サイラスは木の枝にジャンプして避けた。巨大(いのしし)との戦闘など想定していなかったので剣以外の武器は荷馬車だ。

 遠隔武器など弓しかないが、弓で倒せるとは到底思えなかった。


 巨大猪はそのまま突進して木々を薙ぎ倒していく。

 道ができたような状態を見下ろして、サイラスはつぶやいた。


「すごい破壊力だな……」

「辺りを開拓する時は便利だって、父ちゃん言ってたよ」


 確かに便利かもしれない。コントロールできれば、だが。

 目標を見失なってやりすごせたか、と思ったら巨大ウールヴェはくるりと方向をかえ、再び正確にサイラスのいる木に向かってきた。


「に、逃げて、逃げて――っ」


 サイラスはリルを抱きかかえたまま、木から木へと飛んだ。森の中を逃げたが、追跡が止む気配はない。白い巨大な四つ足が、道なき道を突き進んでくる。


「ウールヴェは執念深くて追いかけてくるんだよ」


(ひぐま)か』


「だってサイラス、幼体を連れているじゃん」


『それだ!』


 いつのまにか幼体が長衣(ローブ)のフードに潜んでいた。ひっぺがそうとしてもガッチリ長衣(ローブ)に爪をたてて剥がれない。

 サイラスは幼体を引き剥がすことを諦めた。

 武器が必要で一度荷馬車に戻らなければならないが、親ウールヴェを荷馬車から引き離す餌は必要だ。幼体を利用するしかない。


「リル、防護(シールド)の張り方は覚えているな?」


 リルは頷く。


「荷馬車を中心に防護(シールド)を張って、その中にいろ。絶対に出るな。ディム、リルを頼む」


『了解』


 荷馬車にたどりつきリルをおろすと、サイラスは3本の槍と弓矢を手にしてすぐに森に戻っていく。彼を追跡する激しい破壊音は荷馬車から離れていった。

 震えながらもリルは教えられた通り、小さな金属球を荷馬車の下に置き、精霊に声をかけた。すぐに荷馬車の周辺に防護(シールド)が張られた。


『そこから出ないように、この中は安全だ』


「う、うん」


 リルはほっと息をついた。まだ追いかけられた恐怖が残っていた。多分、サイラスがいなければ踏み殺されていたに違いない。


『リル、あれは何だ?』


「野生のウールヴェ、そのまま育ってしまったヤツだよ。害獣で、家とか潰したりする超やっかいものなんだ」


『確かにあれでは簡単に潰せるな』


「精霊様、サイラスは大丈夫かな?」


『大丈夫、サイラスは2番目に強い』


 その力強い言葉にリルは安心したが、ん?となった。


「サイラスより強い人がいるの?」


『いるいる。サイラスの師匠(ししょう)が彼の10倍以上強くて、白毛マンモスウールヴェ以上の破壊力を持っていて毎度、犠牲者が多数だ』


 ガツッと妙な音が響いて精霊の言葉はそれっきり途絶えた。

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