(8)予言
実体はない存在……カイルの言った通り理解しがたいものだった。
「姿形のないものが存在すると、どう証明されているのでしょうか?……すみません、我々の概念にない存在でして理解ができないのですが……」
「では姿形のあるものを呼ぼうか?」
「え?」
セオディア・メレ・エトゥールは立ち上がり、東屋から中庭に降りたつと右手を上げた。
どこからか羽音が聞こえた。
鳥。赤い鷹だ。あれはカイルが言っていた精霊獣ではないだろうか。見たいと言ったら、彼は露骨に嫌がったが。
赤い鷹がするりと彼の腕に舞い降りる。
それはまるで一枚の絵のような光景だった。青い髪の領主が緑豊かな庭で、腕に赤い鷹を従えている。祝福するかのように太陽の光がそこに降り注ぐのだ。なんと美しいのだろう。
シルビアはその光景に見とれた。
「エトゥールを守護すると言われる精霊鷹だ」
「……呼べるのですか」
「もちろん。貴女に理解してもらうためにと言えば、応じてくれた」
「カイルが言っていた精霊獣の一種ですね?精霊獣は知性があるというのですか?」
「間違いなくある。ついでに言うと、カイル殿があまりにも毛嫌いするから、嫌がらせでつきまとい認知させようとしているようだ」
「……」
それは人間並に知性と感情があるということではないだろうか。
「うちの馬鹿な子が失礼いたしました。代わってお詫び申し上げます」
謝罪とともにシルビアは精霊鷹に頭を深々と下げる。
赤い鷹は高い声で鳴いた。なんとなく謝罪を受け入れてもらえたような気がした。
「貴女の方が、カイル殿よりはるかに頭が柔軟なようだ」
セオディアは精霊鷹を空に放った。鷹は城の上空を滑空すると再び東屋に戻りその屋根にとまった。
「我々エトゥールの王族は、古来より精霊の言葉をきく能力に秀でている。その最たるものがファーレンシアだ」
「ファーレンシア様が?」
「あの子は幼い頃から先見の能力があった。精霊の言葉も聞ける。それで災厄を免れることもある。カイル殿の来訪もファーレンシアが予知した」
「――」
未来予測はシルビアの世界でもあるので、不可能なことではない。エトゥールの妹姫は予知能力を持っている、とシルビアは理解した。
「カイルについてはなんと予言されたのですか?」
「『今夜、聖堂に救い手が現れる』」
シルビアはため息をついた。
「私達の世界では、カイルが消えて大騒ぎだったのですが」
「それは悪いことをした」
セオディアは謝罪したが、言葉と表情が伴っていない。彼は少し笑っていた。
あのとき生体反応を追跡していたシルビアとしては、心的外傷レベルだったので恨めしい。
「カイルをエトゥールに連れてきたのは『精霊』ですか?」
「我々はそう信じている」
「なんのため?」
「エトゥールを救うため」
「救済の定義がよくわかりません。過去にも戦争や災害はあったのではありませんか?なぜ、今に限って、救い手を欲するのです?」
「――」
シルビアの質問にセオディアは口を覆って笑いを漏らした。
「本当に貴女は賢いな」
「意味がわかりません」
「ここだけの話にしてほしい」
セオディアは身をわずかに乗り出した。
「ファーレンシアがエトゥールの大災厄を予知している。エトゥールは滅びるらしい」




