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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第4章 精霊の商人
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(8)予言

 実体はない存在……カイルの言った通り理解しがたいものだった。


姿形(すがたかたち)のないものが存在すると、どう証明されているのでしょうか?……すみません、我々の概念にない存在でして理解ができないのですが……」

「では姿形(すがたかたち)のあるものを呼ぼうか?」

「え?」


 セオディア・メレ・エトゥールは立ち上がり、東屋(あずまや)から中庭に降りたつと右手を上げた。

 どこからか羽音が聞こえた。


 鳥。赤い鷹だ。あれはカイルが言っていた精霊獣(せいれいじゅう)ではないだろうか。見たいと言ったら、彼は露骨(ろこつ)に嫌がったが。


 赤い鷹がするりと彼の腕に舞い降りる。

 それはまるで一枚の絵のような光景だった。青い髪の領主が緑豊かな庭で、腕に赤い鷹を従えている。祝福するかのように太陽の光がそこに降り注ぐのだ。なんと美しいのだろう。


 シルビアはその光景に見とれた。



「エトゥールを守護すると言われる精霊鷹だ」



「……呼べるのですか」

「もちろん。貴女に理解してもらうためにと言えば、応じてくれた」

「カイルが言っていた精霊獣(せいれいじゅう)の一種ですね?精霊獣(せいれいじゅう)は知性があるというのですか?」

「間違いなくある。ついでに言うと、カイル殿があまりにも毛嫌いするから、嫌がらせでつきまとい認知(にんち)させようとしているようだ」

「……」


 それは人間並に知性と感情があるということではないだろうか。


「うちの馬鹿な子が失礼いたしました。代わってお()び申し上げます」


 謝罪とともにシルビアは精霊鷹に頭を深々と下げる。

 赤い鷹は高い声で鳴いた。なんとなく謝罪を受け入れてもらえたような気がした。


「貴女の方が、カイル殿よりはるかに頭が柔軟なようだ」


 セオディアは精霊鷹を空に放った。鷹は城の上空を滑空(かっくう)すると再び東屋(あずまや)に戻りその屋根にとまった。


「我々エトゥールの王族は、古来より精霊の言葉をきく能力に秀でている。その最たるものがファーレンシアだ」

「ファーレンシア様が?」

「あの子は幼い頃から先見(さきみ)の能力があった。精霊の言葉も聞ける。それで災厄(さいやく)を免れることもある。カイル殿の来訪もファーレンシアが予知した」

「――」


 未来予測はシルビアの世界でもあるので、不可能なことではない。エトゥールの妹姫は予知能力を持っている、とシルビアは理解した。


「カイルについてはなんと予言されたのですか?」

「『今夜、聖堂(せいどう)に救い手が現れる』」


 シルビアはため息をついた。


「私達の世界では、カイルが消えて大騒ぎだったのですが」

「それは悪いことをした」


 セオディアは謝罪したが、言葉と表情が伴っていない。彼は少し笑っていた。

 あのとき生体反応(バイタル)を追跡していたシルビアとしては、心的外傷(トラウマ)レベルだったので恨めしい。


「カイルをエトゥールに連れてきたのは『精霊』ですか?」

「我々はそう信じている」

「なんのため?」

「エトゥールを救うため」

救済(きゅうさい)の定義がよくわかりません。過去にも戦争や災害はあったのではありませんか?なぜ、今に限って、救い手を(ほっ)するのです?」

「――」


 シルビアの質問にセオディアは口を覆って笑いを漏らした。


「本当に貴女は賢いな」

「意味がわかりません」

「ここだけの話にしてほしい」


 セオディアは身をわずかに乗り出した。


「ファーレンシアがエトゥールの大災厄(だいさいやく)を予知している。エトゥールは滅びるらしい」

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