(1)仮説
観測ステーションの中では、ディム・トゥーラとイーレの二人が失望のあまり指揮卓に突っ伏していた。
カイルとシルビアが戻ってくる、とメイン・スクリーンから視線をはずした瞬間、凄まじいエネルギーが移動装置を直撃したのだ。
確認できる映像記録はそこまでだった。
けたたましい警告音が移動装置が消滅したことを告げ、通信障害が復活したため、やがてそれもと途絶えた。
関係者は呆然とした。
カイルに引き続き、シルビアまで地上で遭難したことになる。
メイン・ルームは完全にお通夜状態だ。
「……最後の最後でどんでん返しを食らったわね……」
「……あと少しだったのに、なんだよあれは……」
メインスクリーンを占拠し、二人に呼びだされたクトリが最後の記録を何度も再生していた。クトリ・ロダスの専門は気象学だ。
「これ自然現象じゃないですね」
クトリが結論をくだす。彼は画面を示し講義を始めた。
「当日の現地の気象映像がこちら。雷雲もない穏やかな天気です」
クトリは映像をコマ送りにし、一点を示した。
「ここに急激にエネルギーが発生して、地上に向かってまっしぐらです。正確にシルビアの移動装置を貫いてます」
むくりとイーレが顔をあげる。
「どういうこと?」
「電位差による放電現象ではなく、純粋なエネルギー体みたいなものじゃないかと。地上では音もなかったんじゃないかなあ。面白い」
「面白くない」
ディムは不機嫌だった。
「救出作戦が粉砕されたんだぞ」
「いや、面白いよ」
クトリにサイラス・リーは同意した。
「シルビアは死ぬこともなく、地上に降りれたんだ。しかも移動装置が定着している間は電波妨害が消滅した。カイルとも思念コンタクトがとれていただろう?」
「まあ、確かに」
「地上から一度は起動して、物とは言え転移が成功している。シルビアが言っていた仮説も興味深い。生命体には手をだせず機械だけを破壊している」
「確かにカイルとシルビアが粉砕されてないものね」
イーレがぼそりと怖いことを言う。
彼女の発言に男達は怯んだ。
「降りることはできる。座標を確保したから確実だ。問題はどうやって妨害されずに帰還するかだ」
「妨害?」
「明らかに妨害だろう。こう露骨に移動装置を破壊しているんだからさ」
サイラスの意見にディムは考え込んだ。
妨害――そういう発想はなかった。
帰ることを妨害した。帰らなけれは移動装置は無事だったのだろうか?
クトリがつぶやく。
「移動装置の定着を建屋内にするとか?上空からの雷撃もどきは回避できますよね?」
「破壊攻撃を想定して強度もあげる必要があるよな」
「先程の映像と移動装置の耐久から、破壊力を逆算してみましょう」
「地上での通信機も欲しいわ」
「体内インプラントか、装飾品に偽装するのはいいかもしれませんね。人間を攻撃できないと仮定するなら有効です」
「ディムが言うように多民族がはびこる乱世なら、降下するなら防衛手段も欲しいなあ」
「防護癖の強化は必要ね」
「発動設定を変更するのはどうだろう」
「シルビアの仮説を証明するには、実証実験が必要だな」
「再現性を確認する必要がありますね」
――こいつら研究馬鹿すぎる。いつのまにか事故を研究課題にすりかえている。
ディムは討論に呆れたが、静聴していると悪くないアイデアが多数でた。
「どうするの?これだけの準備は少人数では大変よ」
イーレがディムの方を振り返る。
「協力者をつのる」
イーレは眉をひそめる。
「大丈夫、でかい釣り餌があるんだ」
ディム・トゥーラは記録装置を弄びながら嗤った。
ディム・トゥーラは観測ステーション残留組の目的の専門家に一人ずつ声をかけていった。
実は非合法に現地の書物が手に入った。なかなか興味深い内容だ。コピーを渡してもいいが、中央には内緒にしてほしい。そのかわり手伝って欲しいことがあって――ああ、もちろん中央には内緒で。
大漁だった。
「さて、準備に時間がかかるが、先に降下希望者をつのる」
さっと、サイラスとクトリがさっと手をあげる。地上嫌いのイーレは首をふる。
この状況で希望する二人にディム・トゥーラは呆れたような視線を投げた。
「物好きだな」
「先発降下は俺の専門だ。退屈で死にそうなんだ」
サイラスは強請るように言った。
「餅は餅屋って言うだろ?」
「死亡リスクはあるが?」
「かまわないよ。クローン申請はしてある」
「その言葉、忘れるなよ。言質はとったからな」
ビシっとサイラス・リーを指さす。
「どうするの?」
「超絶縁仕様の棺桶だ。破壊できないよう移動装置を改造する。確定座標はあるんだ。準備には釣った研究員をこき使う」
イーレはあきれたように評した。
「貴方、最近悪賢さに磨きがかかってない?」
「イーレを参考にしている」
ディムはイーレにかなり強めに頭をはたかれた。




