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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第3章 精霊の知恵者
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(1)仮説

 観測ステーションの中では、ディム・トゥーラとイーレの二人が失望のあまり指揮卓(コンソール)に突っ伏していた。


 カイルとシルビアが戻ってくる、とメイン・スクリーンから視線をはずした瞬間、凄まじいエネルギーが移動装置(ポータル)を直撃したのだ。

 確認できる映像記録はそこまでだった。


 けたたましい警告音が移動装置(ポータル)が消滅したことを告げ、通信障害(ジャミング)が復活したため、やがてそれもと途絶えた。


 関係者は呆然とした。

 カイルに引き続き、シルビアまで地上で遭難したことになる。

 メイン・ルームは完全にお通夜状態だ。




「……最後の最後でどんでん返しを食らったわね……」

「……あと少しだったのに、なんだよあれは……」


 メインスクリーンを占拠し、二人に呼びだされたクトリが最後の記録を何度も再生していた。クトリ・ロダスの専門は気象学だ。


「これ自然現象じゃないですね」


 クトリが結論をくだす。彼は画面を示し講義を始めた。


「当日の現地の気象映像がこちら。雷雲もない穏やかな天気です」

 クトリは映像をコマ送りにし、一点を示した。

「ここに急激にエネルギーが発生して、地上に向かってまっしぐらです。正確にシルビアの移動装置(ポータル)を貫いてます」


 むくりとイーレが顔をあげる。


「どういうこと?」

「電位差による放電現象ではなく、純粋なエネルギー体みたいなものじゃないかと。地上では音もなかったんじゃないかなあ。面白い」

「面白くない」


 ディムは不機嫌だった。


「救出作戦が粉砕(ふんさい)されたんだぞ」

「いや、面白いよ」


 クトリにサイラス・リーは同意した。


「シルビアは死ぬこともなく、地上に降りれたんだ。しかも移動装置(ポータル)が定着している間は電波妨害(ジャミング)が消滅した。カイルとも思念コンタクトがとれていただろう?」

「まあ、確かに」

「地上から一度は起動して、(キューブ)とは言え転移が成功している。シルビアが言っていた仮説も興味深い。生命体には手をだせず機械だけを破壊している」

「確かにカイルとシルビアが粉砕(ふんさい)されてないものね」


 イーレがぼそりと怖いことを言う。

 彼女の発言に男達は(ひる)んだ。


「降りることはできる。座標を確保したから確実だ。問題はどうやって妨害されずに帰還するかだ」

「妨害?」

「明らかに妨害だろう。こう露骨に移動装置(ポータル)を破壊しているんだからさ」


 サイラスの意見にディムは考え込んだ。

 妨害――そういう発想はなかった。

 帰ることを妨害した。帰らなけれは移動装置は無事だったのだろうか?

 クトリがつぶやく。


移動装置(ポータル)の定着を建屋内にするとか?上空からの雷撃もどきは回避できますよね?」

「破壊攻撃を想定して強度もあげる必要があるよな」

「先程の映像と移動装置の耐久から、破壊力を逆算してみましょう」

「地上での通信機も欲しいわ」

「体内インプラントか、装飾品に偽装するのはいいかもしれませんね。人間を攻撃できないと仮定するなら有効です」

「ディムが言うように多民族がはびこる乱世なら、降下するなら防衛手段も欲しいなあ」

防護癖(シールド)の強化は必要ね」

「発動設定を変更するのはどうだろう」

「シルビアの仮説を証明するには、実証実験が必要だな」

「再現性を確認する必要がありますね」


――こいつら研究馬鹿すぎる。いつのまにか事故を研究課題にすりかえている。

 ディムは討論に呆れたが、静聴していると悪くないアイデアが多数でた。


「どうするの?これだけの準備は少人数では大変よ」

 イーレがディムの方を振り返る。

「協力者をつのる」


 イーレは眉をひそめる。


「大丈夫、でかい釣り餌があるんだ」


 ディム・トゥーラは記録装置(キューブ)(もてあそ)びながら嗤った。





 ディム・トゥーラは観測ステーション残留組の目的の専門家に一人ずつ声をかけていった。

 実は非合法に現地の書物が手に入った。なかなか興味深い内容だ。コピーを渡してもいいが、中央(セントラル)には内緒にしてほしい。そのかわり手伝って欲しいことがあって――ああ、もちろん中央(セントラル)には内緒で。




 大漁だった。





「さて、準備に時間がかかるが、先に降下希望者をつのる」


 さっと、サイラスとクトリがさっと手をあげる。地上嫌いのイーレは首をふる。

 この状況で希望する二人にディム・トゥーラは呆れたような視線を投げた。


「物好きだな」

「先発降下は俺の専門だ。退屈で死にそうなんだ」


サイラスは強請(ねだ)るように言った。


「餅は餅屋って言うだろ?」

「死亡リスクはあるが?」

「かまわないよ。クローン申請はしてある」

「その言葉、忘れるなよ。言質(げんち)はとったからな」


 ビシっとサイラス・リーを指さす。


「どうするの?」

「超絶縁仕様の棺桶(かんおけ)だ。破壊できないよう移動装置(ポータル)を改造する。確定座標はあるんだ。準備には釣った研究員(さかな)をこき使う」


 イーレはあきれたように評した。


「貴方、最近悪賢(わるがしこ)さに磨きがかかってない?」

「イーレを参考にしている」


 ディムはイーレにかなり強めに頭をはたかれた。

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