(16)先見⑯
「では護衛をつけるが、納得していただきたい」
「護衛?専属護衛としてアイリがすでにおりますよ?」
「アイリ以外にだ」
メレ・エトゥールは辛抱強く言った。
メレ・アイフェス達は自分の安全というものを軽視しがちの傾向がある。これは譲れない条件だった。
「貴女は自分の価値をわかっていない。治癒の能力を持つメレ・アイフェスなど、誘拐して手にしたいと思う人間は山ほどいる。エトゥール内にも国外にも。貴女に何かあれば施療院どころではない。カイル殿といい貴女といい、もう少し身の安全について考えていただけないか?」
シルビアは考え込んだ。メレ・エトゥールの言い分も、もっともだった。
「わかりました。では、治療の手伝いも可能な護衛を優先的に希望します」
「警護の者を治療の補助として使うつもりか?」
「はい。知識は増えますし、技術も学べます。習得するいい機会だと思いますが?」
「……第一兵団の者でもいいか?」
「かまいません。襲撃を計画したとしても、まさか手伝いが護衛だと思わないでしょう。患者を運ぶには力のある男手は大歓迎です。ただ女性である私が命じても、気になさらない方がいいです」
「他には?」
「侍女の方でやはり手伝いを希望したら、施療院の手伝いを認めていただけないでしょうか?」
「侍女?」
「大災厄の時に、私だけでは心もとないので、補助ができる者を鍛えたいと思います」
沈黙が流れた。
「……だめでしょうか?」
「いや、待て。前提条件が違う。貴女は大災厄の時点で、地上に残られる気か?」
「?」
シルビアは怪訝そうな顔をした。
「当たり前じゃないですか」
「当たり前ではないだろう?地上にいてどうする。命をおとす危険性もあるのだぞ?」
「それは地上にいる全ての人間に言えることですよね?」
「それはそうだが――」
「メレ・アイフェスが全員、安全なところで高みの見物を決め込むと思われるのは心外です。私とカイルは少なくとも違います」
「だが――」
「カイルはまだ諦めていません。私もです」
「だが、それは――」
「五年後の話です。その時、論じればいいのではないですか?」
「論じる――いや、そうではなく――」
珍しくメレ・エトゥールは動揺していた。
「どうされたのですか、メレ・エトゥール?大災厄の映像にも動じなかったと言うのに」
「貴女が予想外のことを言うからだ……」
「何が予想外だと?」
「あの先見のメレ・アイフェスと天上に戻るのではないのか?」
「クトリと?彼は残る気はないでしょうけど、私も戻る気はありませんよ?」
「なぜ?」
「――それは私にもわからないのです」
「わからない?」
「この行動の衝動がどこからくるのか、私には全くわかりません」
「――」
「でもこのままエトゥールが滅びるのは見たくないことは確かです」
セオディア・メレ・エトゥールはシルビアを見つめた。
「……五年後の話も、ひとまず保留にしよう」
「わかりました」
「施療院の広さはどの程度を考えている?」
「治療に携われる人がどれほど、確保できるかに左右されますが……」
「それもそうだな。わかった、とりあえずこちらで適当な館を見繕う」
「あと、薬草をどこかで栽培できないでしょうか?その……実験的に」
「庭師と相談してみよう。中庭の一角を使えばよい」
「ありがとうございます」
「礼を言うのはこちらの方だ。メレ・アイフェスの助けがなければ、絶望しかなかった」
「もう一つ、お願いごとがあります。少し謀に近いことですが……」
シルビアにしては珍しい言葉に、セオディアは眉をひそめた。




