(13)先見⑬
「星が落ちてくるとなると、我々に為す術はない。座して死をまつだけになる」
メレ・エトゥールは、なぜここまで冷静なのだろうか?カイルは彼の態度に不安になった。ファーレンシアもただ俯いているだけだった。
それに比べてハーレイやリル、専属護衛の反応はまともだった。皆、顔色を失い動揺をしている。
エトゥール王族は、滅びを享受し、諦めてしまったのか?
「メレ・エトゥール、運命に抗うのを諦めるの?」
「まさか」
セオディアは嗤った。
「私は往生際の悪い人間だ。これに関してはメレ・アイフェスの協力を期待していいのか?」
「もちろん」
セオディアはカイルの絵を拾いあげた。
「この見るに耐えない絵は、大災厄後の情景か?」
「多分」
「世界の番人が伝えてきた?」
「彼には語ってはいけない、という誓約がある。だから番人の領域で僕にこの光景を見せてきた。僕は凄惨さに耐えきれず、それを拒絶してしまったんだ。でもこの記憶のどこかに、滅亡を回避する手がかりがあるんだ。ナーヤがそう言ってた」
カイルは描きかけの絵を指で叩いた。
メレ・エトゥールは若長ハーレイを振り返った。
「西の民の占者はなんと?」
「――未来は一つではない、と」
「名言だな。私も常々、そう思って生きてきた。我々は何をするべきだろうか?」
「食料の備蓄と作物の種の確保」
「種?」
「もともと初代のメレ・アイフェス達はそれが目的でこの地に来てたはずだ」
「――人の命よりも植物の種だと?」
「返す言葉もないよ」
「腹立たしいのは初代に対してだ。君達ではない」
「私達は、天上に様々な技術を持っています。例えば、陽の光の必要がなく、植物を育てることができたり、防寒着の作成や建物の断熱方法を。作物の種さえあれば、育てることができます」
シルビアが告げる。
「五年の間にそれらを準備をする必要があります」
「準備の外貨が足りない。備蓄はすさまじい量になるはずだ」
「アドリーの貴石を流通させる」と、カイルは即答した。
「まだ、足りない」
「薬品を作ります」
提案したのはシルビアだった。
「万能薬のようなものなら、他国は飛びつきませんか?」
「どうやって」
「薬草から有効成分を抽出して、あとはチップを混ぜます」
「ちょっと、シルビア。それ、さすがにまずくない?!」
シルビアのいつにない大胆な提案に、黙って聞いていたイーレの方が慌てる。
「カイルと共に負傷者を治療したのに、今更でしょう?」
「シルビア様、商業ギルドを抱き込めば、多分もっと薬品で利益を出せると思います」
リルの言葉に皆が彼女を見つめた。
「でも今流通している薬がつられて値上がりします。貧乏人が治療できずに苦しみます」
リルのもっともな意見に答えたのもシルビアだった。
「施療院はどうでしょうか?」
「施療院?」
「準備に対して協力してくれた民衆への対価として、怪我や病気の治療を無料でするのです。もちろん私がそれをします」
「シルビア、深入りしすぎじゃないです!?」
クトリが驚きの声をあげる。
「バレたらただではすみませんよ!?」
「私がしたいから、するのです。治療した者に薬草や種の収集を頼むこともできるかもしれません。カイル、どうですか?」
「いいと思う」
カイルはあっさり賛同した。
「正直、シルビアの行動はありがたい。なるべくエトゥール内の協力者は欲しい。メレ・エトゥール、施療院の件はかまわないかなあ?」
「あ、ああ……」
メレ・エトゥールの反応はやや遅れたものとなった。
カイルは、ふと思い出した。
「ファーレンシア」
「はい」
「君と初めてあったとき、君は滅びの前兆の夢を見ると言った」
「……はい」
「この光景は一致している?」
「……」
ファーレンシアは黙った。
「ファーレンシア、教えてくれ」
「……海ではなく、陸に火の玉が多数降り注ぎました」
「辺りが火の海になる?」
「……はい」
「人々が逃げまどう?」
「……はい」
それは、カイルが初探索で意識を失う前に見た情景だった。あの時、無意識にファーレンシアの先見の内容に踏み入れてしまったのだろうか?




