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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第9章 精霊の誓約
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(5)先見⑤

「それで、ここまで調べきった時に、トラップが発動しちゃったんです」

「トラップ?」

「量子コンピュータでこの恒星間天体を調べてたら、中央(セントラル)の管理局がきたんです。どうもデータファイルに通報システムが組み込まれていて、アクセスを感知されたみたいです」

「――なんで、その情報が監視されているんだ?」

「知りませんよ。ディムはこれを予測していたらしく、解析データを僕に一式もたせて、逃してくれたんです。絶対、カイルに会って渡せ、って。逃亡ルートも事前に用意してくれていました。用意周到というか、彼らしく抜かりがないというか――僕は研究都市をでて、シャトルで観測ステーションにつくと、そのまま降下したんです。観測ステーションは完全閉鎖状態です。でも解析用の小型端末といくつかの道具はちゃんと――」


 クトリはそこで青ざめた。


「あ、ヤバい!荷馬車におきっぱなし!」

「あのアタッシュケースだな。俺がとってこよう」


 サイラスがすぐに聖堂から出て行き、クトリは安堵の吐息をつく。


「カイル、どうするのですか?」


 シルビアが青ざめた顔で振り返った。


「明日、メレ・エトゥール達に話をしよう。その前にすることがある」


 カイルは恐ろしいほど冷静だった。シルビアは彼が遮蔽(しゃへい)をしていることにようやく気づいた。カイルは立ち上がった。


「シルビア、クトリを頼む。今日はゆっくり休ませてくれ。明日は同席を頼むことになる」

「カイル?することって何です?」

「ナーヤ婆に会いに行く。お婆様なら何かを知っている」

「……私も同席していいかしら?」


 イーレがカイルの袖をつかんだ。彼女の手が震えていることにカイルは気づいた。


「もちろん」


 カイルとイーレが離宮に向うため足早に聖堂を出て行った。見送ったクトリは首をかしげた。


「……ナーヤ婆って、誰ですか?」

「イーレの滞在先の西の地にいるお婆様で、未来予知できる能力者です」


 シルビアが簡潔に説明をする。


「未来予知?なんで文明レベルが低いのにそんな能力者がいるんですか?」

「不思議なことにいるんです」

「なんかおかしくないですか?」

「おかしいです。ここはそういう惑星(ほし)です」

「僕の移動装置は東国(イストレ)に定着しちゃったんです。とても治安が悪くてびっくりしました。皆で帰るのも一苦労ですね」


 クトリは皆がどうやってステーションに帰還するかを案じる。


「……クトリ、五年後に天体衝突が本当にくるのですか?」

「本当ですよ。ちゃんと端末も持ってきました。あとで解析結果を見せます」

「……落下地点は?」

「今のところ、海ですね。1kmは誤差の範囲ですが」

「……それで、高さ二百メートルの津波が?」

「はい、そうです」

「……今いるエトゥールは?」

「ほぼ波の下です。水没地域もちゃんと解析をしてあります」


 自分の解析を自慢するかのようにクトリは胸をはるが、シルビアを見てぎょっとした。シルビアは涙をこぼしていた。


「シルビア?なんで泣いているんです?」

「え?」


 指摘されてシルビアが自分が泣いていることに初めて気づいた。指で目元をなでると濡れていることに彼女自身が驚いていた。


「私は泣いていますか?」

「泣いていますよ。まだ五年あるし、ステーションには無事戻れるでしょうから、大丈夫ですよ。心配ありませんよ」

「……そうですね」


 シルビアは自分の胸をしめつける深い悲しみの正体がよくわからないまま、頷いた。





 ハーレイの村にたどり着いた二人は、ナーヤの家に直行した。

 占者はお茶を二人分用意して待っていた。そこにはハーレイまでもが待ち構えていた。


「ハーレイ?」

「ナーヤに呼ばれた。カイル達が大災厄の正体をつかんで、こちらにくると」

「お婆様、何もかもお見通しか……」


 カイルは苦笑した。


「まあ、座れ」


 ナーヤは、息をきらしている二人に座ることをすすめた。


「明日、滅びるわけではない。落ち着け」


 ナーヤの言葉に、カイルは、とりあえず腰をおろすと、ぐっと手を握りこんだ。

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