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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第9章 精霊の誓約
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(3)先見③

 サイラスが東国(イストレ)でクトリを保護した――カイルはすぐに、西の地のイーレにウールヴェを飛ばした。

 イーレはすぐに移動装置(ポータル)でやってきた。


「どういうこと?」


 離宮に到着したイーレは、待ち構えていたカイルに鋭い視線を投げた。


「サイラスには高級紙の調達を頼んでいたんだ。それで彼は東国(イストレ)に行ってた。クトリを保護したのは偶然に近い」

「彼は無事なの?」

「サイラスが言うには、眠りこけているらしい」


 二人はクトリが眠る部屋に向かった。そこではシルビアがすでに彼の手当を終えていた。

 

「クトリは?」

「相変わらず寝ていますが、貴方と違って大丈夫です。脳内リンクを活用していて、そちらに意識をとられているのです」

「観測ステーションとリンクしている?」

「それ以外、考えられません」

「起こしてもいいかな?」

「カイルなら彼に負担をかけず起こせるでしょう」


 カイルは眠っているクトリの(ひたい)(てのひら)をあて、直接彼の意識に接触した。

 

――クトリ、起きてくれ。事情が知りたい。


 カイルの呼びかけに反応し、クトリは目を見開き、跳ね起きた。それから(かたわら)にいるカイルの姿を認めると、強くしがみついてきた。


「カイル!!ああ、カイル!!会えてよかった!!会えないままだったらどうしようかと!!」


 クトリは安堵したようだった。が、安堵しすぎたようにも見られた。


「聞いてください、カイル。だいたいひどいんですよ。ディムは僕をこき使うし、確定座標がずれるし、気づいたら見知らぬ国だし、習得したエトゥール語は一部の人にしか通じないし、強盗や殺人は日常茶飯事だし、僕も何度おそわれたことか、いや親切な人もいたから生きてられたんですけど、もうサイラスに会った時は、夢か幻かと――」


 べらべらべらべら。クトリの愚痴は止まらない。


「でもディムが絶対にカイルに情報を渡せ、と僕を逃してくれたんです。もう、中央(セントラル)はとんでもないですよ。いや、とんでもないのは、どっちかと言うと――」

「待て待て待て、クトリ、落ち着いて。時系列がめちゃめちゃだ」


 カイルは慌てた。貴重な情報が垂れ流し状態だった。

 興奮したクトリを落ち着かせるには、どうしたらいいか。


「サイラス、とりあえずクトリを聖堂に連れて行こう」

「聖堂?」

「あそこは、癒しの力が流れている。落ち着かせる必要がある」


 サイラスはクトリを再び毛布でくるみ、抱き上げた。全員で、静かに移動する。カイルは邪魔が入らないように、ミナリオとアイリに聖堂の入口の見張りを頼んだ。

 聖堂の長椅子に座らせると、クトリは落ち着いてきたようだった。初めて周囲を確認する余裕ができたらしい。


「不思議な場所ですね。何ですか、ここは?」

「エトゥール城の聖堂だよ。精霊樹からの癒しの力が流れている」

「ああ、最初の移動装置(ポータル)が壊されたそばの建物ですね」

「よくわかるね」

「僕は、あの落雷現象を百回くらい再生して、検証したんです」

「そういえば、そうだったわね」


 イーレも当時を思い出した。


「さて、クトリ。聞きたいことは山ほどある。まず、今回、地上に降りたのはクトリだけ?」

「そうです。ディム・トゥーラは中央(セントラル)で拘束されました」

「拘束……」

「僕たちは一度、中央(セントラル)に戻ったのです。ほぼ、イーレが地上に降りると同時期に」


 カイルがイーレを振り返ると、彼女は頷いた。


「なんでまた?」

中央(セントラル)の量子コンピューターで大災厄を解析予想するためにです」

「なるほど。それで解析の結果は?」

「データの量が膨大すぎるのと、大災厄の定義が曖昧すぎて解析は失敗しました。火山や地震による津波は、地域が限定されて大災厄と言えないでしょ?」


 その報告にカイルは落胆した。


「でもね、ディム・トゥーラが別の方面からのアプローチで見つけたんです。僕も知らなかったんですが、『特例措置』って、ヤツです」

「特例措置?」

「滅亡が確定している文明には接触が許されるんです」


 その言葉にイーレとカイルは顔を見合わせた。


「イーレ、知ってた?」

「初耳だわ」


 カイルは、シルビアとサイラスを見たが、彼らも驚いた様子で首をふった。


「種の保存とかそういう理由づけみたいです。つまり、僕達は結構ヤバいほど、好き勝手をしたけど、罪は問われないってことです」

「待ってくれ、この惑星は中央(セントラル)でも滅亡が予測されていたってことなのか?」


 クトリは頷いた。


「その特例措置とやらで、過去の探索でこの惑星の文明と接触してた?」

「そうです」

「それは五百年前?」と、イーレ。

「そうです。なんでわかるんですか?」


 クトリは不思議そうな顔をする。


「でも探査記録はなかったわ」

「探査記録がないのは当たり前です。まだ継続しているプロジェクトですから。探査記録はプロジェクトが終了したら作成されるでしょう?」

「継続している!?」

「ええ、死亡者や行方不明者をだしているから、中断していますが継続扱いでした」


 死亡者はイーレの原体(オリジナル)に違いない。行方不明者はアードゥル達か?


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