(3)先見③
サイラスが東国でクトリを保護した――カイルはすぐに、西の地のイーレにウールヴェを飛ばした。
イーレはすぐに移動装置でやってきた。
「どういうこと?」
離宮に到着したイーレは、待ち構えていたカイルに鋭い視線を投げた。
「サイラスには高級紙の調達を頼んでいたんだ。それで彼は東国に行ってた。クトリを保護したのは偶然に近い」
「彼は無事なの?」
「サイラスが言うには、眠りこけているらしい」
二人はクトリが眠る部屋に向かった。そこではシルビアがすでに彼の手当を終えていた。
「クトリは?」
「相変わらず寝ていますが、貴方と違って大丈夫です。脳内リンクを活用していて、そちらに意識をとられているのです」
「観測ステーションとリンクしている?」
「それ以外、考えられません」
「起こしてもいいかな?」
「カイルなら彼に負担をかけず起こせるでしょう」
カイルは眠っているクトリの額に掌をあて、直接彼の意識に接触した。
――クトリ、起きてくれ。事情が知りたい。
カイルの呼びかけに反応し、クトリは目を見開き、跳ね起きた。それから傍にいるカイルの姿を認めると、強くしがみついてきた。
「カイル!!ああ、カイル!!会えてよかった!!会えないままだったらどうしようかと!!」
クトリは安堵したようだった。が、安堵しすぎたようにも見られた。
「聞いてください、カイル。だいたいひどいんですよ。ディムは僕をこき使うし、確定座標がずれるし、気づいたら見知らぬ国だし、習得したエトゥール語は一部の人にしか通じないし、強盗や殺人は日常茶飯事だし、僕も何度おそわれたことか、いや親切な人もいたから生きてられたんですけど、もうサイラスに会った時は、夢か幻かと――」
べらべらべらべら。クトリの愚痴は止まらない。
「でもディムが絶対にカイルに情報を渡せ、と僕を逃してくれたんです。もう、中央はとんでもないですよ。いや、とんでもないのは、どっちかと言うと――」
「待て待て待て、クトリ、落ち着いて。時系列がめちゃめちゃだ」
カイルは慌てた。貴重な情報が垂れ流し状態だった。
興奮したクトリを落ち着かせるには、どうしたらいいか。
「サイラス、とりあえずクトリを聖堂に連れて行こう」
「聖堂?」
「あそこは、癒しの力が流れている。落ち着かせる必要がある」
サイラスはクトリを再び毛布でくるみ、抱き上げた。全員で、静かに移動する。カイルは邪魔が入らないように、ミナリオとアイリに聖堂の入口の見張りを頼んだ。
聖堂の長椅子に座らせると、クトリは落ち着いてきたようだった。初めて周囲を確認する余裕ができたらしい。
「不思議な場所ですね。何ですか、ここは?」
「エトゥール城の聖堂だよ。精霊樹からの癒しの力が流れている」
「ああ、最初の移動装置が壊されたそばの建物ですね」
「よくわかるね」
「僕は、あの落雷現象を百回くらい再生して、検証したんです」
「そういえば、そうだったわね」
イーレも当時を思い出した。
「さて、クトリ。聞きたいことは山ほどある。まず、今回、地上に降りたのはクトリだけ?」
「そうです。ディム・トゥーラは中央で拘束されました」
「拘束……」
「僕たちは一度、中央に戻ったのです。ほぼ、イーレが地上に降りると同時期に」
カイルがイーレを振り返ると、彼女は頷いた。
「なんでまた?」
「中央の量子コンピューターで大災厄を解析予想するためにです」
「なるほど。それで解析の結果は?」
「データの量が膨大すぎるのと、大災厄の定義が曖昧すぎて解析は失敗しました。火山や地震による津波は、地域が限定されて大災厄と言えないでしょ?」
その報告にカイルは落胆した。
「でもね、ディム・トゥーラが別の方面からのアプローチで見つけたんです。僕も知らなかったんですが、『特例措置』って、ヤツです」
「特例措置?」
「滅亡が確定している文明には接触が許されるんです」
その言葉にイーレとカイルは顔を見合わせた。
「イーレ、知ってた?」
「初耳だわ」
カイルは、シルビアとサイラスを見たが、彼らも驚いた様子で首をふった。
「種の保存とかそういう理由づけみたいです。つまり、僕達は結構ヤバいほど、好き勝手をしたけど、罪は問われないってことです」
「待ってくれ、この惑星は中央でも滅亡が予測されていたってことなのか?」
クトリは頷いた。
「その特例措置とやらで、過去の探索でこの惑星の文明と接触してた?」
「そうです」
「それは五百年前?」と、イーレ。
「そうです。なんでわかるんですか?」
クトリは不思議そうな顔をする。
「でも探査記録はなかったわ」
「探査記録がないのは当たり前です。まだ継続しているプロジェクトですから。探査記録はプロジェクトが終了したら作成されるでしょう?」
「継続している!?」
「ええ、死亡者や行方不明者をだしているから、中断していますが継続扱いでした」
死亡者はイーレの原体に違いない。行方不明者はアードゥル達か?




