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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第8章 精霊の絆
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(39)閑話:受難

侍女軍団だけは敵にまわしちゃいけない。

「ファーレンシア様はご不在です。お帰りください」


 ファーレンシアの侍女はブリザードが似合いそうな冷たい視線を向ける。彼女達は、主人に対して粗相(そそう)をした青年を許してなかった。

 ファーレンシアに面会を申し込んで、侍女軍団の厚い壁に阻まれたのは何度目だろうか?全く、突破できる気がしない。


 今もまた、鼻先で扉を閉められる。


 誤解は誤解を産み、カイル・メレ・アイフェス・エトゥールは辺境のアドリーで夜遊びをしまくった、という不名誉な噂にまで発展していた。

 イーレなどそれをきいて、大爆笑したものだった。


「笑わないでくれ、僕にとっては重要な問題だ」

「姫様の好意に胡座(あぐら)をかいていた報いね」

胡座(あぐら)なんて、かいてない」

「あら、そうかしら。結論を先延ばしにしてなかった?あんまり問題を放置すると、姫様のお輿入れを見る羽目に陥るわよ?」


 ぐうの音もでないとは、まさにこのことだった。


「メレ・エトゥールが後押ししているのだから、突き進めばいいのに」

「後押しって……」

「辺境伯を名乗るっていうのは、正式に貴族になるってことでしょう?姫様の相手として、申し分のない地位だと思うわ」

「……まさか、メレ・エトゥールはそこまで計算して?」

「煮え切らない二人に対して、外堀を埋めていることはよくわかります」


 黙ってきいていたシルビアがぼそりと言う。


「ここまで、お膳立てされて、何もしないの?」


 イーレが(あお)る。


「ここまで相手に拒否されていたら、お膳立て以前の問題だよ」


 がっくりとカイルは項垂(うなだ)れる。

 ファーレンシアに渡すつもりで手に入れたイヤリングとネックレスは出番のないまま、長衣(ローブ)衣嚢(いのう)の中だ。

 居留守を使われる、口を聞かない、露骨に避けられる――拒否のオンパレードだった。

 シルビアは呆れたような視線をカイルにむけた。


「カイル、貴方はファーレンシア様と約束をしたことを、忘れていますね?」

「約束?」

「ほら、忘れている」

「え?ちょっと、まって。忘れている約束ってなに?」

「ファーレンシア様の補助なしに、危険な同調はしないって、ヤツです」

「――」

「矢を射られるのは、危険な同調に入りますよね?」

「――」

「ファーレンシア様はどうするって言ってましたっけ?」

「……口をきかない」

「まさに現状ですね」


 カイルは絶望した。


「誤解をとくことにくわえて、約束をやぶってたなんて、難易度があがる一方じゃないか」

「自業自得でしょう」


 イーレは面白そうに見ている。


「若々しい悩みでいいわね」

「いえ、単にカイルがヘタレなだけです」


 シルビアは容赦なかった。





 今日も侍女軍団の鉄壁の守りに敗退した。そもそも彼女達に勝てることがあるのだろうか?


「カイル様」


 小声で呼びとめられ、物陰からさしまねく手がある。顔馴染みの侍女のマリカだった。


「マリカ」

「今、ファーレンシアにお会いするのは、無理です。侍女達が皆、怒っていますから」

「そんな気はしてた」


 カイルはため息をついた。


「誤解をぜひ、ときたい」

「誤解とは?」

「歌姫はアドリー辺境伯のお相手で、僕とは無関係だ」

「無関係なのに、命をかけたとお聞きしましたが」

「矢を射られたのは、僕のウールヴェだ」


 同調うんぬんを知らないマリカに説明をはしょる。彼女はやや疑わしそうな視線を向けてきた。


「歌姫の件は、メレ・エトゥールに確認してもらってかまわない」

「わかりました」

「あと、ファーレンシアにこれを渡してくれ。アドリーで見つけたんだ。直接渡せないのは残念だけど」


 カイルは首飾りの包みをマリカに託した。イヤリングはまたの機会をまとう。受け取ったマリカは何かを考え込んでいた。


「カイル様、質問があります」

「なんだろう?」

「胸の大きな女性は好きですか?」

「………………は?」

「女性の好みについて質問です」

「なぜ胸?」

「胸の大きさにこだわる殿方が多いので」

「胸の大きさって重要?」

「女性にそれを言いますか」


 やや呆れたようにマリカは突っ込む。


「あんまり考えたことないな」


 正直すぎる答えに、マリカはぷっと噴出した。


「そうだと思いました」

「質問の意味がわからないよ」

「てっきり歌姫の豊満な胸に陥落(かんらく)したのかと思っていただけです」


 カイルは再びため息をついた。


「マリカの誤解はとけたかな?」

「はい。アドリー辺境伯と歌姫のことはファーレンシア様に伝えておきますので」

「ありがとう」


 去っていく青年を見送ったあと、マリカはおもむろに観葉植物の鉢の陰にひそむ小さなウールヴェを摘んで捕獲した。


「姫様?こっそり覗くなら会ってあげたらいかがですか?」

『……』


 恥じ入ったように、返事はなかった。

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