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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第8章 精霊の絆
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(38)閑話:胸

なぜセオディア・メレ・エトゥールに例の絵が渡ったのか、のネタ

 侍女のマリカは、さっきから同僚に(ひじ)でつつかれている。なんとかして、の合図だ。


 ファーレンシア・エル・エトゥールがおかしかった。


 ぼぉっと考えごとをしていたり、刺繍糸と一緒に布を切ってしまったり、それでも黙々と刺繍をしたあげく下絵とは程遠い図案が仕上がったり、何よりも会話が皆無だった。

 いつもは楽しいおしゃべりの場が、聖堂の中より静かで空気が重かった。


――誰か、助けてぇぇぇ


 侍女達もここ数日のこの暗い雰囲気に限界がきていた。皆の目線がマリカに集中する。彼女は、エル・エトゥールに信頼されているからだ。

 当の本人は、押しつけないで欲しいと嘆いていた。だが主人の様子が気になるのも事実だ。


 ファーレンシア様はいったいどうしたのだろう。


 エル・エトゥールの想い人が不在なのだが、それはよくあることだった。

 金髪の青年は最近、不在が多い。

 数日前まで帰還に間に合うように新しい長衣(ローブ)を用意しようと、張り切っていたはずなのに、少女は今、果てしなく暗かった。


「ファーレンシア様、何かありましたか?」


 思いきったマリカの問いかけに、ファーレンシアはビクリとする。でかしたっ!と、侍女達の賞賛の視線をマリカは感じた。


「最近、おかしいですよね?どうされたのですか」

「別に、何も――」

「ごらんください。ここ数日の姫様の作品です」


 失敗した刺繍布が山積みされていた。


「サイラス様の養い子の衣服に、仕立て直すにしても限界があります。いったいどうしたというのです」

「……マリカ」

「お話を伺わせていただきます」


 ファーレンシアは迷っていたが、マリカに向き直った。


「マリカ」

「はい」

「お、男の人は、胸の大きな人がいいのでしょうか?」

「はい?」


 胸?!

 脈絡のないファーレンシアの質問に見守っていた皆が驚いた。

 なぜ胸?


「あー、そうかもしれませんね、私の兄なんか巨乳が大好きです」


 空気を読め、とマリカは答えた同僚リーエの頭を軽く(はた)いた。彼女の兄は専属護衛で独身だ。


「個人の好みだと思いますが」

「シルビア様もそうおっしゃってました」

「男の方に聞いてみるしかないのではありませんか?」

「兄に、聞いてみたのですが――」


 聞いたんかーい、と全員が心の中で突っ込んだ。


「メレ・エトゥールはなんと?」

「肉体の優劣より、教養、品格、性格を重視すると」


 それは銀髪の女性のメレ・アイフェスのこととしか、思えない。ある意味、メレ・エトゥールも露骨なほど、わかりやすかった。


「でも、シルビア様は胸が大きいので参考になりません」


 うんうん、と侍女達は頷いて同意する。


「ファーレンシア様の胸は、標準だと思いますが……」

「――標準では、勝てないのです」

「……誰にですか?」

「カ、カイル様の想い人に」


 え、ええ――――っ!!!!

 侍女達に衝撃が走った。


「どういうことですか、姫様っ!」

「まさか、故郷に妻子がいるとかいうパターンですか!?」

「姫様をもて遊んだなんて許せないっ!」

「さくっと()りますか?」

「ちょっとお待ちください、姫様。カイル様は、二股をかけれるような器用な性格ですか?」


 マリカは冷静に突っ込んだ。

 青年は、むしろ不器用すぎて、ファーレンシアに関して侍女達はイライラしていた。とっとと結婚の申込みをして、我々に婚約式の準備をさせろ、と毎日のように念を送っているが青年には通じない。


「……そんな性格ではないと思います」

「ですよね?そんな浮ついた性格なら、侍女の一人や二人、口説いていると思います」

「口説かれた侍女がいるのですか!?」

「いません。ファーレンシア様、迷走しないでください」


 はあっと、マリカはため息をつく。


「姫様、そう思われた根拠は?」


 黙り込んだファーレンシアは、ためらったあげく引き出しから一枚の羊皮紙を取り出した。

 一組の男女が描かれている。マリカは女性の方が商売女(プロ)だ、と気づいた。


「胸、でかっ」


 素直すぎる感想を口走ったリーエの頭をマリカは再び無言で叩いた。


「この女性がどうかしましたか?」

「……カイル様は……この方に会うために……命の危険までおかしたと……」


 再び侍女達に落雷のような衝撃が走った。同時にカイルの株は大暴落した。


「エル・エトゥール、御安心ください。そのような不埒な(やから)は、私が葬って差し上げます」


 侍女の姿をしているが、セレーネは専属護衛だ。だが、頭が硬すぎて、たまに間違った方向に走る。


「セレーネ、落ち着いて」


 マリカが諌める。城内で導師(メレ・アイフェス)殺人事件が発生しかねない。


「なるほど、この絵が原因で『胸』なのですね」

「私はカイル様に女性として見られてないのかもしれません。妹か娘か孫ぐらいにしか……」

「娘とか孫はないでしょう」

「……」 

「ファーレンシア様、この絵をしばらくお預かりしていいですか」

「え、ええ」


 メレ・エトゥールに相談しよう。マリカは決意した。


「教えて、マリカ。胸ってどうしたら、大きくなるの?」


――それは、私も知りたい。

 

 侍女全員が心の中で思った。


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