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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第8章 精霊の絆
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(28)愚者⑩

「古来よりエトゥールの防衛の(かなめ)であるアドリーは、そのように維持に努めてまいりました」

「アドリーの歴史は古いのですか?」

「初代エトゥール王の命で、アドリーの基礎となる砦が築かれたといわれています」

「それに関しての書はありませんでした」

「ほぼ口伝ですね」

「アドリーの城砦の建設にメレ・アイフェスが関わっているために、書が残されていない可能性はありますか?」

「面白い発想です」


 辺境伯は小さく笑った。


「だから、口伝として残された可能性はあるかもしれません。しかし先人については、メレ・アイフェス達の方が詳しいのではないですか?」


 アドリー辺境伯は切り返してきた。カイルは辺境伯の頭の回転の速さに驚いた。彼は違うメッセージを言葉に乗せている。


――なぜ、メレ・アイフェスの歴史を知らないのか、と


 これは困った問いだった。どこまで、どうやって説明するべきだろうか。


 イーレの原体(オリジナル)が初代エトゥール王に仕えた導師(メレ・アイフェス)の一人である可能性は大いにあるが、確定した証拠があるわけではない。イーレ自身が持つはずの原体(オリジナル)の記憶があれば、話は簡単だったはずだ。だが、彼女の記憶は失われている。

 しかも世界の番人が示唆する大災厄も絡んでいる。

 メレ・エトゥールの政治的な思惑もあるだろう。


 ましてや、衛星軌道に鎮座している観測ステーションから来ました、などは言いようがない。


「なぜ、メレ・アイフェスの伝承にこだわるのです?」


 辺境伯は追求の手を緩めない。


「……どうやって説明したらいいのか、わかりません」

「――」


 馬鹿正直に答える青年にエルネストは呆れた。

 何か誤魔化す発言をしたら、突っ込むつもりだったのに、メレ・アイフェスは正面から受けたち、かえって己を窮地(きゅうち)に立たせている。不器用このうえない。


「メレ・アイフェス?」

「はい」

「馬鹿正直すぎませんか?」

「そうかもしれません」

「政治家としては、致命的ですよ?」

「僕は政治家ではないし、政治家になるつもりもありません」

「そうはいかないでしょう」

「政治家にはなりません。そのような才はありません。メレ・エトゥールのように権謀術数(けんぼうじゅっすう)が得意なわけでもありません」

「メレ・エトゥールほど狡猾(こうかつ)になれ、とは言いませんが、少しは学んでもいいのではありませんか?」

「無理です」


 カイルはきっぱりと言い切った。


「あんな狡猾(こうかつ)で腹黒な策士なんかになれません」

「腹黒……何がありました?」

「……いろいろと」


 辺境伯はカイルの憮然とした表情に吹き出した。


「本当に馬鹿正直ですね。まあ、メレ・エトゥールに()められているところは想像できますが」


 アドリー辺境伯は、カイルを見つめた。


「もう少し貴方が狡猾(こうかつ)な人物ならよかった。こういう素直な反応をされるとは思いませんでした。貴方が本物か見極めたかったのですが」

「実を言うと、僕がエトゥールに降りたったのは事故に近いものです」

「事故?」

「世界の番人に拉致されただけです」

「世界の番人!」


 辺境伯は目を見張る。


「――それを信じろと?」

「普通はそういう反応だと思います。メレ・エトゥールとファーレンシア姫は受け入れてくれました。ファーレンシア姫は僕が来ることを先見(さきみ)していたそうです」

「……」

「メレ・アイフェスと呼び始めたのは、周囲です。僕はその言葉が翻訳できず、意味に気づかなかった。この珍しい髪と瞳の色が、それに拍車をかけました」


 カイルは小さく息をついた。


「本当は導師でも賢者でもない、ただの――」


 研究馬鹿と言おうとして、口をつぐんだ。


「だが、聖堂で多数の命を救った」

「治療に()けた仲間に助けてもらっただけで僕の功績ではありません」

「エトゥールに監禁された西の民を救出した」

「たまたま僕も拉致監禁されていた場所に彼等がいたからです」

「舞踏会場ではメレ・エトゥールを襲撃から(まも)った」

(まも)るために戦って活躍したのは仲間です」

「西の民との和議を実現した」

「相手の若長が理解ある人物だったからです」

「自分の功績(こうせき)を認めないとは、筋金入りの頑固ですね。おまけに無自覚ときている。さぞ、メレ・エトゥールは苦労なさったことでしょう」


 辺境伯はカイルを言葉で一刀両断する。反論できない青年を見て、彼は笑いをもらしつつ歩き出した。


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