(18)取引⑱
セオディア・メレ・エトゥールは、ミナリオの報告が終わっても黙ったままだった。
執務室には、カイルをはじめ、シルビア、イーレ、ファーレンシア、西の民を代表してハーレイが同席していた。ミナリオの騒動の報告は重かった。
魔獣の四つ目を自由自在に操る人物がいる、という事実は脅威以外の何ものでもない。
「これはあくまでも相手とカイル様の会話の中でいわれた内容であり、実際、操るところを見たわけではありません」
「だが、あの四つ目の集合は異常だった。操れるというなら納得する」
ハーレイはミナリオの見解を支持した。
「そうね、多分、カイルが野生のウールヴェと同調しなければ、甚大な被害が出ていたわ。私達も怪我を負っていたかも」
イーレが考えつつ、客観的な事実を告げる。
「あれは集団暴走の一歩手前だったわ」
メレ・エトゥールはカイルを見た。
「カイル殿、その男の人相書きはできるか?」
「できるよ」
カイルはすぐに部屋の片隅に移動した。ファーレンシアが侍女に羊皮紙とインクを持ってくるように指示をする。
「南の氏族を人質にとっていた一味は、どうなっているんだ?」
「捉えたが、何も話さない。南の氏族は報復のため、殺したがっているが止めている状態だ」
ハーレイが答える。
「エトゥール人か?」
「いや、東国の奴隷商人のようだ」
「西の民は、もっとも奴隷に向かないと思うんだが」
「その通りだ」
「どうやって、氏族を脅したんだ?」
「フードの男が大量の四つ目と奴隷商人を従えてきたらしいわ」
イーレが人質になっていた人々から聞きだした話を伝える。
「四つ目が長と占者を切り裂いたそうよ」
「つまり、イーレ嬢達が井戸掘りに行かなければ、その氏族を中心に西の地は、四つ目に蹂躙されていたわけか。君達が問題のど真ん中に着地するのは、精霊獣の導きか?」
やや呆れたようにエトゥール王は、賢者達を見たが、全員が明後日の方向に視線を逸らした。
「ファーレンシア、この件で先見があったか?」
「ありませんでした」
「西の民の先見役は?」
「西の民の占者は、他の氏族を干渉してはいけない類の制約があるらしい」
カイルが絵を描きながら、口をはさむ。
「つまり、ファーレンシアの先見はエトゥールに関することだけで、西の民の先見は己の氏族が関わることのみの可能性があると?」
「ナーヤ婆は見ていたけど、ね」
カイルは小さく息をついた。
「他の氏族が滅びる先見を伝えることができない、とはつらい制約だね。あのお婆様には頭が下がる」
「西の民の占者が、カイル様を弟子に迎えたいそうです」
ミナリオが余計なことを言い、メレ・エトゥールは若長に冷たい視線を投げた。
「条件は、西の地への定住か?冗談ではない」
「……相変わらず、鋭いなあ」
「私ならそうするからだ」
なんとナーヤ婆の腹黒さは、メレ・エトゥール並だったようだ。用心しよう――いまさらながら、カイルは思った。
出来上がった絵を、カイルはまずミナリオに手渡した。ミナリオは感嘆する。
「あの男にそっくりだ」
メレ・エトゥールは頭をふる。
「見覚えはない男だな」
イーレは首をかしげた。
「どこかで見たような――サイラスがやさぐれて、陰気になったら、こんな感じかも」
「同じ黒髪だもんね。東国は黒髪が多いんだっけ?リルが言っていた」
「カイル殿、もう何枚か同じものが描けるか?地方の領主に配りたい」
「時間をくれれば」
「俺も1枚ほしい。南の氏族に見せたい。できれば捕まえた奴隷商人にも」
「わかった」
「では絵を複写する前にこちらの問題を片づけてよろしいですか?」
微笑して静かに立ち上がったのはシルビアだった。
「カイル、体内チップがかなり減っている件について説明をしてください」
忘れかけていたネタを突然追及され、カイルは動揺してペンを取り落とした。




