(11)取引⑪
「別のこと?」
「例えば、貴方がカイルを西の地で匿うでしょ?カイルの指摘した通り私達の知恵と技術力は魅力的ね。でも、それ以上にやっかいごとも起こるわよ」
「やっかいごと?」
「なぜ、ハーレイの氏族だけが、賢者の恩恵を受けるのか、って、周囲の嫉みを買うわけよ」
「――」
「事実、エトゥールはそう非難されている。エトゥールは、その嫉みに耐えうる国力がある。メレ・エトゥールはそこまで計算して、私達を保護しているの。カイルの存在は――水場より大きな火種になるわ。単に自分が火種になることを回避しただけよ。火種を消しに来たのに、自分が火種になるとは本末転倒じゃない」
「そんなことは考えなかった」
「貴方は若長の立場で、きっと悩むことになる。自分の村の危機にさらすことになるのよ。だから、カイルは――」
突然、真上の木々の枝がしなり、羽音とともに白い影が目の前に現れた。話題の主の降臨に二人はギョッとした。
ハーレイは止まり木として左腕を出した。
『ハーレイ、作戦変更だ。ちょっと予想外の事態だ』
カイルの念話がハーレイの頭に響いた。
「予想外とは?」
『四つ目が山ほどいる。三百くらい』
「そんな馬鹿なっ!西の地の全四つ目が集まっているとでも言うのか!?」
ハーレイの言葉に付き従っていた全員が足を止めた。皆が驚き、若長を見つめている。
カイルの思念を聞きとったイーレがハーレイを見上げた。
「ハーレイ、これは異常なこと?」
「異常すぎる。四つ目はこれほど、群れない」
「なんで群れているか、心当たりは?」
「わからない」
「南の氏族はあきらめる?こちらに犠牲が多数でるかもしれない状況よね?」
「……放置はできない」
「なぜ?」
「これが動きだしたら、恐ろしいことになる。四つ目は牙と爪に毒を持つ。弱い女子供が恰好の餌食になる。この周辺の氏族の半数が全滅するだろう」
「集団暴走ね」
『……』
イーレは冷静だった。
「ねえ、ハーレイ、今、戦力として五十人いるわね。一人一匹は倒せるわよね?先に弓矢で奇襲して二十匹倒せるとして、私と貴方のコンビで二十匹ぐらいいけそう?」
――ふたり と いっぴき で さんじゅう
二人の前にカイルの白いウールヴェが突然現れた。
「はい、これで百は退治できそうね」
「簡単に言う」
「あら、できないとでも?」
挑発とわかっていながら、ハーレイはイーレの言葉にのった。
イーレが挑発し、鼓舞しているのは付き従う五十名だった。彼女は人をのせ、その気にさせるのが上手だった。
「百までは容易い」
「そうこなくっちゃ」
「……あと二百か。周辺の氏族に警告して、人を出してもらうか」
「そっちは逃げた四つ目の始末をさせましょう。私達に後始末をする余裕はないわ。あと二百、カイル、何かアイデアはある?」
『ないこともない』
二人はあっけにとられて白い隼を見つめた。
「え?あるのか?」
「え?あるの?」
『リスクもデカい。成功するかわからない。どのくらい、四つ目が倒せるかわからない。大騒ぎになる。当然、村にいる敵にもバレる――あと、多分僕はヘロヘロになって、このあとの同調はままならなくなる。南の氏族の救出と敵の捕縛は、ほぼイーレとハーレイにお任せになるよ、いいね?』
「何をするの?」
『言わない方がいいかな……。弓部隊は上から、四つ目だけを狙うように厳命して。僕も素体の心臓を射抜かれたら、死ぬかもしれないし』
露骨な例えに、ハーレイは焦った。
「いったい何をする気だ!?」
『大騒ぎになるから、静かに人質を解放できるとは思わないで。そのかわり四つ目の注意は完全に引いて時間を稼ぐから、弓矢で数を減らして。トドメはイーレとハーレイの判断にまかせるよ。何が起きても動揺せずにいてね』
「ちょっとカイル、何をする気!?」
『イーレは怒るから、言わない』
「怒らないわよ」
『でも、殴るでしょ』
「殴らないわよ、……多分」
『ほら』
「……貴方、あの時のことを根に持っているわね?」
『当たり前だよ。あんな理不尽なことは、忘れられない。ハーレイ、配置が完了したら、トゥーラに言って。こっちも準備してくる』
「こら、待ちなさい、カイルっ!」
隼はイーレの手を逃れ、飛び去った。
ハーレイはやや呆れたようにイーレを見た。
「怒って殴るって……何をしたんだ?」
「……だって、カイルが私の実年齢を当てるんだもん」
拗ねた子供がそこにいた。




