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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第8章 精霊の絆
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(11)取引⑪

「別のこと?」

「例えば、貴方がカイルを西の地で(かくま)うでしょ?カイルの指摘した通り私達の知恵と技術力は魅力的ね。でも、それ以上にやっかいごとも起こるわよ」

「やっかいごと?」

「なぜ、ハーレイの氏族だけが、賢者(メレ・アイフェス)の恩恵を受けるのか、って、周囲の(ねた)みを買うわけよ」

「――」

「事実、エトゥールはそう非難されている。エトゥールは、その嫉みに耐えうる国力がある。メレ・エトゥールはそこまで計算して、私達を保護しているの。カイルの存在は――水場より大きな火種(ひだね)になるわ。単に自分が火種(ひだね)になることを回避しただけよ。火種を消しに来たのに、自分が火種になるとは本末転倒(ほんまつてんとう)じゃない」

「そんなことは考えなかった」

「貴方は若長の立場で、きっと悩むことになる。自分の村の危機にさらすことになるのよ。だから、カイルは――」


 突然、真上の木々の枝がしなり、羽音とともに白い影が目の前に現れた。話題の(ぬし)の降臨に二人はギョッとした。

 ハーレイは止まり木として左腕を出した。


『ハーレイ、作戦変更だ。ちょっと予想外の事態だ』


 カイルの念話がハーレイの頭に響いた。


「予想外とは?」


『四つ目が山ほどいる。三百くらい』


「そんな馬鹿なっ!西の地の全四つ目が集まっているとでも言うのか!?」


 ハーレイの言葉に付き従っていた全員が足を止めた。皆が驚き、若長を見つめている。

 カイルの思念を聞きとったイーレがハーレイを見上げた。


「ハーレイ、これは異常なこと?」

「異常すぎる。四つ目はこれほど、群れない」

「なんで群れているか、心当たりは?」

「わからない」

「南の氏族はあきらめる?こちらに犠牲が多数でるかもしれない状況よね?」

「……放置はできない」

「なぜ?」

「これが動きだしたら、恐ろしいことになる。四つ目は牙と爪に毒を持つ。弱い女子供が恰好の餌食(えじき)になる。この周辺の氏族の半数が全滅するだろう」

集団暴走(スタンピード)ね」


『……』


 イーレは冷静だった。


「ねえ、ハーレイ、今、戦力として五十人いるわね。一人一匹は倒せるわよね?先に弓矢で奇襲して二十匹倒せるとして、私と貴方のコンビで二十匹ぐらいいけそう?」


――ふたり と いっぴき で さんじゅう


 二人の前にカイルの白いウールヴェが突然現れた。


「はい、これで百は退治できそうね」

「簡単に言う」

「あら、できないとでも?」


 挑発とわかっていながら、ハーレイはイーレの言葉にのった。

イーレが挑発し、鼓舞しているのは付き従う五十名だった。彼女は人をのせ、その気にさせるのが上手だった。


「百までは容易(たやす)い」

「そうこなくっちゃ」

「……あと二百か。周辺の氏族に警告して、人を出してもらうか」

「そっちは逃げた四つ目の始末をさせましょう。私達に後始末(あとしまつ)をする余裕はないわ。あと二百、カイル、何かアイデアはある?」


『ないこともない』


 二人はあっけにとられて白い(ハヤブサ)を見つめた。


「え?あるのか?」

「え?あるの?」


『リスクもデカい。成功するかわからない。どのくらい、四つ目が倒せるかわからない。大騒ぎになる。当然、村にいる敵にもバレる――あと、多分僕はヘロヘロになって、このあとの同調はままならなくなる。南の氏族の救出と敵の捕縛は、ほぼイーレとハーレイにお任せになるよ、いいね?』


「何をするの?」


『言わない方がいいかな……。弓部隊は上から、四つ目だけを狙うように厳命して。僕も素体の心臓を射抜かれたら、死ぬかもしれないし』


 露骨(ろこつ)な例えに、ハーレイは焦った。


「いったい何をする気だ!?」


『大騒ぎになるから、静かに人質を解放できるとは思わないで。そのかわり四つ目の注意は完全に引いて時間を稼ぐから、弓矢で数を減らして。トドメはイーレとハーレイの判断にまかせるよ。何が起きても動揺せずにいてね』


「ちょっとカイル、何をする気!?」


『イーレは怒るから、言わない』


「怒らないわよ」


『でも、殴るでしょ』


「殴らないわよ、……多分」


『ほら』


「……貴方、あの時のことを根に持っているわね?」


『当たり前だよ。あんな理不尽なことは、忘れられない。ハーレイ、配置が完了したら、トゥーラに言って。こっちも準備してくる』


「こら、待ちなさい、カイルっ!」


 (ハヤブサ)はイーレの手を逃れ、飛び去った。

 ハーレイはやや呆れたようにイーレを見た。


「怒って殴るって……何をしたんだ?」

「……だって、カイルが私の実年齢を当てるんだもん」


 ()ねた子供がそこにいた。


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