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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第8章 精霊の絆
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(2)取引②

「そこを突っ込まれるとつらいわね」


 イーレは真顔で返した。


「私も脳筋(のうきん)だから、弟子も当然、脳筋(のうきん)だと思うわ」

「だけど、養い子の手を握らない理由が骨折させるから、と言うのは問題じゃない?」

「問題だと思うけど、事実、骨折させる恐れもあるしね?」

「いや、そこがおかしいでしょ!?」


 イーレの背後で、ハーレイが笑いをこらえている。カイルのそばのミナリオも同様である。


「で、サイラスのつぶした卵のことで文句をいいにきたわけ?」

「文句はあるけど、師匠(ししょう)として何か解決策はないのかな」

「ないわね。いっそう握ったら手が傷つくタイプのペン軸でも開発したら?」

「例えば?」

「ペン軸が鋭利な刃物とか」

「握りしめたら血だらけになるじゃないかっ!」

抑制(よくせい)にちょうどいいんじゃない?」

「イーレに聞いた僕が馬鹿だったよ」


 カイルは不貞腐(ふてくさ)れた。

 サイラスの件で西の地を訪れたが、サイラスの師であるイーレにこの件で危機感はないらしい。脳筋の育ての親は、やはり脳筋だった。

 おまけに傍聴者の二人は、笑いで悶絶(もんぜつ)している。


「二人とも、笑ってないで、なんか策を考えてくれ。サイラスの養い子の初社交(デビュタント)がかかっているんだから」

「握力が強いのは仕方ないだろう。しかしイーレの弟子に、そんな可愛い一面があるとは思わなかったな。初対面時の俺に対する敵意は凄まじかった」

「あ、気づいてた?」

「気付くだろう?だから、皆で露骨に引き離してたのだろう?」

「だって、ハーレイも喧嘩を売られたら買うだろう?」

「買わないという選択肢があるのか?」


 返答にカイルはため息をついた。


「――それが、西の民の性質と、頭の片隅にメモっておくよ。やっぱり引き離して正解じゃないか」

「養い子以前に、女性に対してどうなんだ?モテそうな容貌だが?」

「モテるよ」

「つきあう女性の手も、握って骨折させるのか?」

「それはない」

「すると、杞憂(きゆう)では?」

「興味のない対象だから意識してないだけよ。多分、交際相手の顔も覚えてないわよ?」


 イーレの意見に男性陣が愕然とする。


「なんだって?」.

「来る者は拒まず、去る者は追わずをして、最終的に私のところに苦情が多数来るの。困った弟子よ」

「なんで?」

「師匠の私をいつでも最優先にするから誤解が生まれるの。おかげさまでこちらは逆恨みの嵐を受けるのよ」

「イーレの教育が悪かったのでは……」

「女子供に優しくしろ、って間違ってる?」

「間違っては、ないけど……」

「無関心な対象と身内に対する態度のギャップが、ひどいだけよ」

一筋縄(ひとすじなわ)ではいかないことはよくわかったよ」


 カイルは早期解決を諦めた。


「そういえば――井戸掘りに問題はない?」


 話題の転換をはかったつもりだったが、その質問にイーレとハーレイは顔を見合わせていた。反応が明らかに変だった。


「……何かあったの?」


 ハーレイは壁に貼られているカイルが作った地形図を(こぶし)で軽く叩いた。


「カイル、撃たれたのはどの辺りだ?」

「この辺りかな?」


 カイルは指で示した。


「俺が精霊鷹を保護したのは、この地点だ」

「ああ、その辺りだと思う。なるべく襲撃地点から離れようとしたから」


 ハーレイは襲撃地点と落下地点の中間を示した。


「ここで死体を発見した。見つけたのはイーレだ。南の氏族の男で、胸に貫通痕(かんつうこん)があった」

「……平和じゃない話題だね。精霊鷹と同じ貫通痕?」

「同じだと思う」

「その死体はどうしたの?」

「氏族の村で荼毘(だび)にふされた」

「村人の反応は?」

「特に何も」

「――その氏族はもしかして、井戸を断ってきた?」

「よく、わかったな」

「西の民の中でも、保守的かな?」

「そうとも言える」

矛盾(むじゅん)している」


 ボソリとカイルがつぶやく。


「村の男が、奇妙な傷跡を残して死んだのに騒がなくて受け入れる――普通は犯人が誰か騒がない?殺されたら黙っていないでしょ?」


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