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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第7章 精霊の贖罪
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(28)閑話:観測ステーションの思い出④

規格外×規格外→∞限界突破ネタと、上司も研究馬鹿である話

 無茶苦茶な理論だった。


 エド・ロウが、カイル・リードは同調能力をもっていて、ある程度の距離は思念波を飛ばせると主張したことに端を発する。

 それはディム・トゥーラも認めた。

 むしろ飛ばしすぎるから、未熟な精神感応者(テレパシスト)が昏倒する事態になる。要は彼の思念力の強さに『負ける』のだ。


 ディムですら、たまに彼の規格外の思念の強さで頭痛を覚える。常時、遮蔽(しゃへい)を張っているにもかかわらず、彼は無意識にその遮蔽(しゃへい)を突き破るのだ。

 常識では考えられない。精神感応者(テレパシスト)に対するプライバシーの侵害にも等しい。例えるなら個人の家に連絡艇(シャトル)を突っ込ませるような破壊行為だ。


 これについては、彼によく文句を言っているのだが、カイルは平謝りするばかりだった。

 彼(いわ)く、『油断する』と言うのだが、その言い訳すら舐めているのか、と思う。油断しつつ、人の遮蔽(しゃへい)を突き破るとは、どういう了見だ。


――この規格外の馬鹿め


 ディム・トゥーラは心の中で(ののし)った。

 おかげでこちらの自尊心(プライド)はボロボロだ。少なくとも中央(セントラル)で5本の指に入る精神感応者(テレパシスト)と自負していたのに、カイルに出会ってから自信を粉砕されるばかりだ。

 

 今回の討論は、その思念波は、衛星軌道上から惑星上の素体に同調できるのでは、という仮想理論についてだった。


 あまりにも突飛な発想にディム・トゥーラは、ぽかんと口をあけた。そんな発想が沸くとは、エド・ロウも研究馬鹿の変人か。だが、優秀だから責任者の地位にいるのだ。

 天才と馬鹿は紙一重とは、よく言ったものだ。天才と研究馬鹿の変人も紙一重に違いない。


「どう、検証するのです」

「シャトルに素体を乗せて、同調できる距離限界をはかる」


――まあ、順当だな

 限界を正しく把握するのは、データ収集の基本である。個人に左右される同調能力において、カイル・リードの能力を見極めたいのだろう。


「被験者の安全はどうするのですか?」

「君だよ、君」


 エド・ロウはストレートに告げた。


「トゥーラ、君が遮蔽(しゃへい)担当だ」


 やっぱりそうきたか、とディムは諦めの吐息をついた。

 腹が立つことに、被験者本人はあっさりと実験に同意した。


「お前、わかってるのか?実験動物(モルモット)扱いされているんだぞ?」

「今に始まったことじゃないよ」


 カイルは肩をすくめると、その後のミーティングで詳細を詰めていく。

 本番中はディム・トゥーラはカイル・リードの遮蔽(しゃへい)に徹した。彼がどんどん思念の距離を伸ばしていることは、わかった。

 カイルの限界とはどのあたりなのだろうか?

 それはディムにも常々、興味のある点だった。




「あ、切れた」


 同調していたカイルが実験寝台で目をあける。


「距離は?」


 エド・ロウがシャトルの移動位置を問う。


「――」


 オペレーターが固まっている。


「距離は?」


 エド・ロウがもう一度問う。


「――八万kmです」

「衛星軌道距離をはるかに超えるな……」

「実際はもっと短くなるよ」


 被験者本人が半身を起こし、意見を述べる。


「今のは同調している素体と、どこまで繋がっていられるか、になるでしょ?実際は、遠方の素体に同調できるか、になるわけだから」

「もっともな意見だ」

「しかも、ターゲットは『シャトルの中』と、認識しやすい状態にある。これが無作為に分布している素体候補から一点を同調するとなると、難易度があがると思う」

「他に意見は?」

「あと、ディム・トゥーラだから、できているというのもある。完璧な遮蔽(しゃへい)がないなら、僕は実験を断固として断る」


 思わぬ言葉に、ディムはカイルを見た。


 エド・ロウが指示を出す。


「追加実験だ。戻ってくるシャトルの中の別の素体を認知できる距離だ」

「……ディム、疲れてない?」


 その言葉にディム・トゥーラは青筋をたてた。


「――俺を馬鹿にしているのか?上等だ」


 カイルはその反応に、にやりと笑った。





 結局、疲れたのは周囲の人間だった。


「平均四万kmか……」


 結果を検分するため、最初から最後までつきあったエド・ロウもけろりとしている。いろいろ項目が追加されて、あげくの果てには、同調の耐久継続時間にまで至ったが、カイルもディムも平然としていた。


「なかなか見込みのある結果だ。ご苦労」

「だから、完璧な精神感応者(テレパシスト)がいれば、だからね」


カイルは珍しく、くどい程、釘を刺した。


「他の精神感応者(テレパシスト)とやることは?」

「やりたくない」


 カイルは拒絶した。


「僕は一ヶ月以上寝込むことになる」

「わかった。考慮しよう」

「明日からの予定はキャンセルで」


 ディムが告げる。


「休ませてもらえますよね?」


 その要求に安堵したのは、実験に参加した補助人員(スタッフ)だった。


「もちろんだとも。その間に追加の検討項目を吟味しておこう」


 さらりと不吉な言葉が出たが、ディムは聞かなかったことにした。上司が研究馬鹿の変人だと、割りを食うのは部下だ。

 欠伸(あくび)をしているカイルの腕をつかみ、実験寝台から引き起こす。本人(モルモット)を隔離しないと、いつ上司の気が変わるかしれない。


「ほら、とっとと休むぞ」


すでに同調酔いの兆候が出ているカイルは眠そうだった。


「……なんで、ディムは平気なわけ?」

「お前の同調酔いに巻き込まれて、たまるか」

「……この規格外めっ!」

「お前が言うな」


 カイルを彼の個室(コンパートメント)に放り込むと、ディムも自室に引きこもる。

 平気な振りをしているのは、ほとんど見栄だった。人の限界実験で、己の限界まで試すのはいい機会だったが、一つ悟ったことがある。

 規格外の人間と限界は試すべきではない。自分の限界値があがるだけだ。


「……規格外の馬鹿め」


 つぶやくとディム・トゥーラはベッドに倒れ込み、爆睡した。


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