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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第7章 精霊の贖罪
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(27)エピローグ

 水場を失った氏族に、井戸を与えることは、思いの他、順調だった。カイルの作った地下水脈の地図が正確だったからだ。西の民の視点から言えば、指定された場所を掘れば水が豊かに湧くことは、精霊の奇跡に等しかった。


 他の氏族への交渉は、若長ハーレイが行い、メレ・アイフェスとして村に残留したイーレが同行した。

 子供姿のイーレが、向けられる様々な質問に堂々と答えることは、彼女が精霊の御使いであることを印象づけた。


 おまけに彼女は強かった。


 正当性をかけて、代表同士で手合せをすることもあったが、その代表にイーレが名乗りでた。左手が完治した彼女は当然無敵だった。

 子供が大人を武力で制圧する姿が、精霊の祝福を受けた者であることを周囲に知らしめた。



「立ち会いなしに手合わせをしたと知られたら、メレ・エトゥールとカイルの逆鱗に触れるのではないか?」

「あら、立ち会いが必要なのは、()()()()()()()()ですもの」

「――」

「世の中にはね、抜け道なんて、いくらでもあるのよ」


 にやっと笑うイーレは違う意味無敵だった。




 確かに彼女は、精霊の祝福を受けているかもしれない。ハーレイは密かにそんなことを思った。

 彼女が同行すると、狩りの成果が倍以上違ったりする。また膨大な知識を所持しており、村の問題を見事に解決したりもした。

 村の住人は異国の賢者(メレ・アイフェス)を、不思議なほど好意的な受け入れた。皆、古の賢者の再来と思っているのかもしれない。


 イーレは生き生きとしていた。西の地は、彼女の双子の姉が亡くなった可能性がある(いわ)くつきの土地ときいていたが、彼女はそれを気にしているそぶりはなかった。

 一度ハーレイはその件について、尋ねたことがある。

 この土地はイーレにとって、忌わしい土地ではないのか、と――。


「別に彼女が死んだ土地だろうが、無関係よ」

「関係ないということは、ないだろう」

「私は彼女と直接会ったことはないのよ。だから例えるなら初代エトゥール王並みに、伝聞でしか知らないの」


 ハーレイは驚いた。


「血が繋がっているのに?」

「血が繋がっているから、やっかいよね。周りで彼女を知っている人間は同一視するのよ。同じ血が流れていることを理由に、同じ才を求めてくるの。私はそれが嫌いだった」

「まあ、双子では、よく聞く話だな……」

「だからね、私のことしか知らない人に囲まれている『今』の方が好きなのよ。『私』を求めてくれる。幸せを感じるわ」

「それならいいが」


 西の地に好意的なイーレに、ハーレイはほっとした。


「無理をしているのかと思って気になっていた」

「無理なんかしてないわよ」


 イーレは笑った。


「……そうね。彼女が何を見て、何を感じたのか知りたいと思ったことはあるわ。彼女はこの地をどう思っていたのかしら」


 会話の断片から、イーレは死んだ双子の姉と遺恨があるようだった。ハーレイはそれ以降、その話題に触れるのはやめた。




 イーレは考えていた。

 原体(オリジナル)の記憶の欠落は、クローンとして致命的な欠陥だった。過去の十体のクローンの記憶は共有できても、どのクローンも原体(エレン)の記憶を取り戻すことはできなかったのだ。

 原体(エレン)の記憶さえ、手にいれれば、自分は原体(エレン)から解放されると思っていた。


 だが、占者ナーヤとの出会いが彼女を変えた。一つの疑問が彼女の中で芽生えていた。

――果たしてそれは自分が本当に望むことなのだろうか?


 自我が確立されている自分が、原体(オリジナル)の記憶を得た時、そこにいるのは「自分」ではなく、まったく別の存在ではないだろうか?

 「自分」という存在はどこに行くのだろうか?


――望むものは手に入る。苦痛と絶望と共に――。


 占者の言葉が、イーレに疑念を抱かせた。望むものは間違いなく原体(エレン)の記憶だった。手に入ると予言された。苦痛と絶望と同時に手に入る。苦痛と絶望をしてまで、その記憶は価値があるのだろうか?





 その日、ハーレイ達一行は南に向かっていた。ハーレイは途中、見覚えのある場所を通った。


「気をつけろ、四つ目が出た場所だ」


 ハーレイは警告を出した。それは精霊鷹を救出した場所だった。


「――」


 イーレは違和感を感じ、馬をすすめた。何かある。


「イーレ」


 ハーレイはイーレを呼びとめた。


「ハーレイ」

 イーレの声がやや堅かった。

「ごめん、やっかいなモノを見つけちゃったかも」


 イーレが馬を止めた少し先に何かがあった。

 近づいたハーレイはそれが死体であることに気づいた。

 馬から降りて確かめる。若い男の死体だった。すでに腐敗が始まっている。だが、衣服の紋様でどこの氏族かは、すぐにわかる。


「ヌア、連中に教えてこい。我々はここで待機する」


 世話役のヌアを伝令で走らせる。

 イーレも馬から降り、ハーレイに近づいた。


「ちょっと見せてくれる?」

「無理するな」

「大丈夫よ」


 イーレは落ちついた様子で死体を検分した。


「……やっかいなことになったわね」

「まったくだ。訪問予定の氏族の若者の死体と遭遇するとは、不吉以外の何物でもない」

「いいえ、そういう意味じゃないの」


 イーレは首を振った。


「これは精霊鷹を撃ち抜いたものと、同じ武器の可能性があるわ」

 イーレは死体の胸元を指さす。




 そこには精霊鷹と同じような貫通痕があった。

いつも読んでいただきありがとうございます。

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