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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第7章 精霊の贖罪
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(25)水場③

 数日後、エトゥールからの荷馬車は、移動装置(ポータル)を使って大量の煉瓦(れんが)十字鍬(ツルハシ)大円匙(ショベル)を持ってきた。驚いたことに、サイラスはリルを同行させていた。

 リルは初対面の若長に丁寧に一礼をする。カイルはリルの雰囲気がずいぶん変わったことに気づいた。


「……お(しと)やかだね?」

「城で作法とかいろいろ学ばせている。あって困る知識じゃないだろう?」

「……対価は?」

「第一兵団の訓練」


 カイルは笑いを漏らした。


「結局、サイラスもメレ・エトゥールから逃げ切れなかったかぁ。いい気味だ」

「逃げ切れる人間がいたら顔を拝みたいぜ」

「それは言える」


 カイルはリルを眺め、にやにやした。


「――やっぱり(ふところ)にいれた存在は大事にするし、甘やかすね。リルが西の地にきたがって、止め切れなかったんだろう?」

「うるさいぞ」


 図星のようだった。


「で、どこに運べば、いいんだ?」

「西の空き地に荷をおろしてくれるかな?」


 カイルは案内するために歩き出した。




 ハーレイが選んだ村の西の空き地は、新たに井戸を掘るための場所だった。既設の井戸から離れており、この近所に家を持つ者が集まり始めている。水場が近くなるのはありがたいことなのだ。

 カイルは紐を用いて、地下水脈の真上を中心位置として割り出した。測量機械がないこの世界では、原始的な手法に頼らざるえない。

 先に直径3mの正円の井戸枠の地上部分を作らせる。


「いったい何をするの?」


 イーレが興味深そうに見ている。


「実験だよ、実験。世界の番人が見せた映像が正しいか検証するんだよ」

「本当にここで井戸が掘れるのか?」


 若者達に指示しながらも、ハーレイですら、訝しげであった。


「僕の予想だと、ここは地下3m〜5mってとこだけど、地下水脈の色の濃淡でどのくらい差があるかも試したいんだよね」

「……つまり、かなりの深さを掘ることもあると?」


 カイルは邪気のない笑みを見せたが、答えを避けた。



 腰の高さまで、煉瓦を接着剤を使い外側の井戸枠を作る。初日はそれで終わった。

 翌日からは、若者が二名、井戸枠の中に入り、掘るものと土を外に運び出すものと仕事を分担する。ある程度掘れると、土壁の崩落を防止するため、煉瓦で内壁を組ませる。土中の工事で怖いのは生き埋めだ。次回からは板枠を使ってもいいかもしれない、とカイルは考えた。

 1日1メートルほど、掘りすすめ、内壁の煉瓦が3メートルになったときに水が滲み出てきた。


「……水だ」


 そしてツルハシが石を砕いたとき、こんこんと水が湧き出てきた。

 皆が井戸枠から覗きこんでいた。


「本当に水だっ!」

「水が出たぞっ!」


 掘っていた若者が縄梯子で上がってきて、はしゃぐ。

 その場にいた村人達のテンションが高いことに、カイルはたじろぎ、ハーレイにこっそり聞く。


「……ねえ、なんでここまで、はしゃぐの?」

「精霊の泉が近いとはいえ、村に一つしか井戸がないのは不安の材料だったのさ。井戸が枯れれば、村を捨てて、新しい地を求めることになる。それがなくなったんだ。無理もなかろう?」

「そうなのか」

「すごいな、本当に井戸ができるとは思わなかった」

「今度はハーレイ達がこれを作るんだよ。あとで地図の読み方を教えるから」

「やってみよう」





 一週間かけて、最終的にハーレイの村には三つの新しい井戸が完成した。


「もう少し効率のいい掘削(くっさく)道具を作れないかしら?」


 イーレが思案する。


「動力源がないからなあ、ドリルみたいなものがあるといいよね」

「土の掻き出しも効率的にしたいわ」

「滑車の原理でも使う?」

「それなら――」




「なんだか、カイル様もイーレ様も楽しそうですね」


 見学をしているファーレンシアがサイラスに微笑む。


「二人とも研究馬鹿だから、古い道具を再現したり、自説を検証するのが大好きなんだよ」


 サイラスが肩をすくめた。


「徹夜しないだけマシだ。そろそろ捕まる」



 サイラスの予言通り、討論に夢中になって身をかがめて地面に図式を書こうとしたカイルはシルビアから説教をくらい、ひったてられた。



「……どこかで見た光景だ」


 ハーレイがつぶやく。


「カイルも学習能力がないんだよ」

「やはり治癒師の彼女が最強ではないか?」


 シルビアに連行されるカイルを見て、ハーレイが感想を述べる。


「まあ、間違ってないかな。でも、彼女、メレ・エトゥールには弱いんだぜ?ドレスで着飾って、微笑むぐらいだから」

「すると、メレ・エトゥールは、メレ・アイフェス達も勝てない強者か?」

「ある意味、最凶だな。武術ではなく、策謀でメレ・エトゥールに勝てる人間がいたら知りたいよ。そして防御策を伝授してもらいたいね」

「ほう」

「メレ・エトゥールは釣り餌で釣るのが上手いんだよ。それで自由自在に人を動かしつつ義務を負わせる」


 サイラスの言葉に、なぜかエトゥールの妹姫まで激しく同意をする。二人はいったいどんな目にあったのだろうか――ハーレイは首をかしげた。


「姫、そのメレ・エトゥールが痺れを切らしている」

「そうだと思いました。一度エトゥールに戻りましょう」

「そうしてくれると助かるなあ。今回もくどいほど言われた」

「きっとカイル様がいなくて寂しいのですわ」

「……メレ・エトゥールがそんな可愛いタマか?」

「意外にカイル様に関することでは可愛いですわよ?」


 エトゥール王が異国の地でこき下ろされている。ハーレイはその件について口をはさむのを避けた。だが彼が気になることは別にあった。


「イーレはどうするんだ」


 つきつけられた難問にサイラスは顔を(しか)めた。


「エトゥールに帰れ、と言っても聞かないだろうな」

「イーレ様は本人が望むなら、こちらで滞在でもかまいません。ただしハーレイ様との手合わせは、カイル様か兄の立ち会いがないと不可にさせていただきますわ」


 思わぬ提案にハーレイはあっけに取られた。自由なようでしっかり手綱は用意した形だ。


「よろしくお願いしますね」


 にっこりと釘を刺す少女は、やはりメレ・エトゥールの妹だ、とハーレイは思った。


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