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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第7章 精霊の贖罪
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(19)再同調④

 不意にカイルの身体が痙攣(けいれん)し、()()る。


「カイル様!」


 異変があったときは、カイルとの繋がりを維持することを第一優先と教えられていたファーレンシアは、すぐに自分の遮蔽(しゃへい)を強化した。それからカイルの手をつかむ。

 繋がりを維持する、とは、同調しているカイルの受けた衝撃に巻き込まれて失神してはいけないことでもあった。

 支援追跡者(バックアップ)が失神しては本末転倒なのだ。


「何が――」


 ハーレイが突然の事態に腰をうかす。


「わかりません、事故のようです!サイラス、身体を押さえて!」


 サイラスが痙攣するカイルの身体を押さえ込んだ。


「カイル様っ!!」


 ファーレンシアは手を繋いだまま、必死に呼びかけた。




『カイル様っ!!』


 ファーレンシアの叫びに、一瞬の混乱からカイルは自我を取り戻し、立ち直った。


――()たれたっ! この高さでどうやって!


 素体は完全に失神したようだった。カイルは衝撃に耐えつつ、切れかかった同調を維持しようとした。

 同調が完全に切れる前に、着地させないと素体は地上に激突して完全に死ぬ。

 カイルは襲撃地点より離れつつも、少しでもハーレイ達に近い場所に向けて急降下した。地上が近づき、羽ばたくことでスピードを殺そうとしている最中に、同調がままならなくなり、素体のコントロールが失われていく。まだ高さがあった。


 体が素体から引き離される感覚がおこり、落ちていく鷹が見えた。


――誰かこいつを助けてくれっ!!


 同調が切れる寸前、カイルの視界を光が包み込んだような気がした。





「カイル様っ!!」


 目が覚めると地上の肉体だった。

 ファーレンシアが自分に呼びかけている。ファーレンシアは言われた通りに自分に遮蔽をかけつつ、カイルとの意識の繋がりを維持していた。


 声がとっさにでずに、自分の手を握っているファーレンシアの手を握り返し、思念で伝える。


『――大丈夫』


 窒息していたかのように、肺が空気を求め、その反動でカイルは激しく咳き込んだ。口の中に血の味が広がる。カイルはハーレイを見た。


「ハーレイ……撃たれた……」


 不思議なことに、それだけで全てが伝わった。

 ハーレイは即座に馬にまたがり、カイルが指さす方向に駆け出した。それを先導するかのように、トゥーラがすごいスピードでカイルの望む場所に走り出した。

 見送ったカイルは、まだ残る衝撃に再び咳こんだ。


「カイル様っ!」

「何があった」


 サイラスは、カイルの身体を支えた。


「……素体が……撃たれた……撃たれたと思う……矢じゃない何かに……」


 矢など届かない高さだった。

 おかしい、なぜここまでダメージを負うのだ。素体が死ぬ事故は珍しくない。カイルは何回か経験していた。

 だがまるで、カイル自身の肉体が撃たれたかのような、衝撃だった。まだ痛みは消えない。しかも血痰まででている。


「ファーレンシアは……無事?」


 息を切らしながら、カイルは少女に問いかける。


「わ、私は大丈夫です」


 ファーレンシアは青ざめ、泣きだしそうな顔をしていた。


「……よかった」

「サイラス、カイルを横たえてください」


 サイラスはカイルの身体をそっと横たえた。シルビアがカイルの長衣(ローブ)を脱がせ、下に着ている研究員服の前をはだけさせた。


「これ、どういうことだ?」

「同調率が高すぎたのです。多分、素体の受けた衝撃をそのまま受けました」

「そんなことあるのか?」

「今までありませんでした。でも理論上、ないわけではありません」


 シルビアとサイラスは息をのんだ。カイルの胸の中央に大きな痣ができていた。


「痛っ!!」


 シルビアが触れると痛みにカイルはひるんだ。シルビアはかまわず触診を続ける。


「痛いっ!!シルビア、痛いって!!」

「――肋骨が折れています。再生チップで応急処置します」

「え? やだよ、あれ、痛いから――っっって!」


 問答無用でシルビアは治療を施し、カイルはその激痛に涙目になり、次にはぐったりとした。


「カイル様っ!」

「大丈夫です。()()()()痛いぐらいです」 

「………………サド……」

「何か言いましたか?」


 シルビアが無表情で圧をかける。目が黙って治療受けろ、と語っている。


「……なんでもない……」

「応急処置ですからね、あとは村で治療です」

「……素体――精霊鷹の治療も頼むよ……今、ハーレイが連れてくるから」

「わかりました」


 ファーレンシアは、痛みで冷や汗にまみれたカイルの顔を布で拭った。


『心配しないで。大丈夫だから』


 思念での会話の方がはるかに楽だった。ファーレンシアは何度も頷く。泣くのを我慢して、唇をかみしめている。


 また泣かせちゃったなあ――。


 シルビアが処方した鎮痛剤が眠りの世界に誘う。カイルは必死でこらえた。せめて精霊鷹の無事を確認するまでは――。


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