(16)再同調①
ファーレンシア、シルビア、ハーレイが馬に乗って、ライアーの塚に駆けつけたところ、サイラスは現れた三人に軽く手をあげ、合図をした。
問題の青年は、そのそばの崩れた石壁あとに腰をおろして項垂れていた。ここまで案内してきたカイルのウールヴェは主人に駆け寄り、その足元に踞る。
「カイル様、大丈夫ですか?」
ファーレンシアの問いかけに、カイルは力なく頷いた。
彼の右肩には、大きな赤い精霊鷹がおり、その鉤爪は青年の肩に食い込んでいた。
ファーレンシアは、カイルから精霊鷹を引き取ろうと、手をのばした。
その行為にサイラスが警告を発した。
「姫、鷹の爪は鋭い。怪我をするぞ」
はっ、としたようにカイルは顔をあげ、ファーレンシアの手を握ることで遮った。
「……大丈夫、コレに僕の肩から退くように言い聞かせてくれないか?さっきからずっと離れないんだ」
その言葉に革の手甲をつけているハーレイが腕を出し、ファーレンシアが何かを告げると、精霊鷹は素直に若長の腕に移動した。
ハーレイとシルビアは視線を交わした。
「精霊鷹に怯えて、私達を呼び出したのですか?」
「怯えてなんか――」
「いますよね?」
カイルは視線をそらした。
「――今から同調するから呼んだんだ。ハーレイ、前に水場の問題を言っていただろう。それも一緒に調査する」
カイルは木の枝を拾って、地面に簡単な地図をかいた。
「水に困っている氏族の位置を、だいたいでいいから知りたい」
カイルは基準になるライアーの塚を中心に、精霊の泉や、ハーレイの村の位置を書いていく。
見つめていたハーレイは石片を地面の上に落としていく。
「かなりの数だね……」
「急だな、どうしたんだ?」
「ライアーの塚を上空から見るついで、だよ。後日、調査するより、今がいい。コレに2回も同調するなんて嫌だ」
「――」
言われた鷹は、カイルの言葉を無視するかのように優美に羽繕いをしている。それはカイルの子供のような暴言を、大人の態度で聞き流しているようにも見えた。
「精霊鷹に同調――するのか?」
「僕は嫌でたまらない」
「いや、だから、精霊獣をコレ扱いするのと、嫌がるのはいかがかと――」
「嫌だよ、二度と同調するつもりがなかったのに――」
がぶり。
ウールヴェのトゥーラが、カイルの手を噛んで続く暴言を止める。
「〜〜〜っ!!!」
「貴方もイーレ並に学習能力がありませんね。同じ失言をメレ・エトゥールの執務室でして、ウールヴェに叱られてませんでしたか?」
「……ほっといて」
カイルは拗ねた。
「敷物を持ってきて正解でしたね」
シルビアが皆が腰をおろせるよう、敷物を広げた。それだけではなく、お茶の用意まではじめた。簡易のコンロに鉄瓶をかける。茶葉や茶器やら、やたらと準備がいい。
「シルビア、それは――」
「占者のお婆様に持たされました。謎でしたが、このため、だったのですね」
「僕には、お婆様の方が謎すぎる」
「まあ、ナーヤ婆だからな」
「そうですね」
なぜかシルビアまで同意する。
「カイルが同調している間、待つのは退屈なので、お茶とお菓子でも――いかがですか、ハーレイ様」
「いただこう」
その間にファーレンシアは体勢を整え、カイルは彼女の膝に頭を預け、寝転んだ。
サイラスがその光景に唖然とした。
「姫の膝枕だと?」
「――悪い?」
サイラスの非難に、カイルは開き直った。
「メレ・エトゥールに殺されるぞ」
「メレ・エトゥールは知ってるよ」
「メレ・エトゥール公認の仲かよ、面白くもない」
サイラスは、ちっ、と舌打ちする。
「サイラス、やかましいよっ!」
「公認なんですが、カイルがヘタレなんです」
シルビアが余計な一言を放ち、当事者であるファーレンシアは真っ赤になった。
「君達っ!同調している間に、好きなだけ悪口を言えばいいだろう!ちょっと黙っててっ!」
皆が黙るとカイルはすぐに意識を落とした。
と、同時に鷹は羽根を広げた。ハーレイは慣れているようで、鷹を大空に向かって放つ。
鷹は彼らの頭上を3回ほど周ると、飛んでいった。
ハーレイは言葉をなくし、鷹を見送った。
「……本当にあれが、カイルなのか?」
「カイルですよ。……まあ、まさかあんなに苦手としていた精霊鷹と再同調を選ぶとは思いませんでしたが」
「さっきなんて、半分パニックってたぜ?」
サイラスが暴露する。
「わたわたとウールヴェを姫に送ろうとしていた」
ファーレンシアが頬に手をあて、ぽっと頬を染める。
「……シルビア様、どうしましょう、カイル様がかわいいです」
「……」
やや呆れた視線をシルビアは投げた。
「それは、あばたも靨と言うものです、ファーレンシア様」




