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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第7章 精霊の贖罪
123/1015

(14)交錯⑭

「……名前ぐらい偶然の一致はあるんじゃね?」

「と、思うよね。でもイーレとシルビアがここで死んだ可能性まで言及した」

「……もしかして、左手は自傷?」


 カイルが頷くと、サイラスは頭をかきむしった。


「あ~~、なんでこういう面倒なことが起こるんだよぉ。厄介すぎるぞ。その古墳とやらはどっちだ?」

「この先だよ」

「行ってみよう」





 森の中を歩きながら、サイラスは周囲を視認しているようだった。さすが未知の地点の探索の先陣を司る先発降下隊の一員だった。

 わずかな痕跡で獣の種類を言い当てる才能は、西の民のハーレイに近かった。


「さすがに鋭いね」

「それが仕事だからなぁ。突発の死亡事故は多いぞ。ほとんどの隊員は、クローン申請をしている」

「初耳だ」

「命知らずの脳筋が多いのさ」

「サイラスを筆頭に?」

「否定はできないな。頭を使う仕事は、研究員がすればいい。俺は金を積まれてもごめんだね」


 サイラスはもう一度周辺を視認し、つぶやいた。


「南の森とは全然違うな」

「そうなの?」

「雰囲気がのどかだ。あっちは 魔獣ばかりで、暗い印象があったな」

「今回のことで、残存するのはサイラスの移動装置(ポータル)だけだよ。誰かが降りてこない限り、それを使って帰還するしかないけど」

「メレ・エトゥールと相談して、南の討伐に力を入れるかな――いざという時の保険はあった方がいいだろうし」

「で、サイラスの話は何かな?」

「頼む、この地にいる間、イーレを見はっていてくれ。あの男は危険だ」

「あの男?」

「若長とやらの地位にいる西の民」

「ハーレイが危険?いや、彼はエトゥールに友好的だけど?」

「危険だ。イーレ的に」

「イーレ的に?」

「イーレは自分より強い男に弱いんだよ」


 サイラスは深いため息をついた。


「……イーレが?」

「イーレが」

「……()()イーレが?」

()()イーレが」


 サイラスは顔をしかめた。


「しかもあの男も、強い女が好きな気配がする。やっかいなことになる前に引き離してくれ」

「ハーレイは十年前に妻子をなくしているし、別に手が早いタイプじゃないし――まあ、イーレと手合わせをしたくて、暴走はしているけど」

「ますます危険じゃないか」

「イーレを止めれば?」

「止められるもんかっ!」

「……サイラスに握れない手綱を、僕が握れるわけないでしょ?」


 カイルは首をふった。


「僕だって命が惜しい」

「そんなイーレを猛獣のように……」

「イーレと野生のウールヴェのどっちが強い?」

「イーレ」

「イーレと野生のウールヴェのどっちが怖い?」

「イーレ」

「僕はそんな怖いものを相手にする勇気はない」


 真顔でカイルは答えた。


移動装置(ポータル)ができたんだから、頻繁に監視しにくればいいじゃない」

「口実がない」

「ハーレイの鍛錬(たんれん)を受けるって言えば、イーレも許すよ。ハーレイのひととなりも理解できるだろうし」

「……妙案だな」


 カイルはじっとサイラスを見つめていたが、くすくすと笑いをもらした。


「イーレとサイラスの立場が逆転している」

「は?」

「イーレに対する男女の感情かと思ったけど、サイラスはイーレが悪い男にひっかかることを心配している父親のようだ。サイラスは周囲に無関心で、面白いことにしか興味がわかないかと思ったけど、懐に入ったものはすごく大事にするね。イーレとかリルとか」

「――」

「イーレは『家族』の枠組みだから、娘を嫁にやることを渋る父親みたいだよ。ドライなサイラスがそこまで感情的になるのもすごいね。でもさ――」

「でも?」

「リルが結婚するときの方が、もっと大変そう」

「リルの結婚はまだ先だろう?まだ11歳だぞ?」

「知ってた?エトゥールでは11歳で社交デビューをし、結婚相手を探し婚約、15歳で成人だから、結婚してもおかしくないんだって」


 サイラスはカイルの突然の超爆弾攻撃に衝撃を受け、固まった。





 相変わらずライアーの塚は人気(ひとけ)がなかった。だが空気は不思議なほど、澄んでいた。

 サイラスは、かがんで遺構の石畳を検分した。落ちていた枝を拾いあげ、石畳の目地部分を確認する。


「……先住民族の印象がある西の民が石畳を構築する技術があるのかねぇ」

「おかしい?」

「石畳ってさ、こう表面を平にして、均等に立方体で石を切り出せる技術が必要なんだよ。その加工技術があったら、もっと発展していると思わないか?」

「確かに。本当は専門家のイーレに見てもらうのが一番いいんだろうけど、本人が近づくのを嫌がっている」

「まあ、過去の自分のための墓は見たくはないな」

「でも入り口がない」

「普通こういうのは逆なんだけどなぁ」

「逆とは?」

「これ見よがしに入り口があって、中は罠がいっぱい」

「あと、これも見てほしい」


 カイルは移動装置(ポータル)の痕跡を指さした。


「まごうことなき移動装置(ポータル)の痕跡だな」

「だよね?」

「型は古いかもしれない」

「これがここら周辺にいくつかある。確定座標がぶれているみたいに。イーレはありえない、っていうけど……」

「いや、たまに発生する」


 サイラスは移動装置(ポータル)の痕跡を確認しながら答えた。


「磁場が狂っていたり、移動装置(ポータル)のメンテナンスができていないときに起こる現象だな。よく先発隊が磁場の異常で着地点がずれたりしていた。でも問題はそっちじゃないな。誰が移動装置を使っているんだ?」

「それだよ」

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