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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第7章 精霊の贖罪
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(9)交錯⑨

 基本的な指導のあと、カイルの剣術は頭打ち状態になった。運動神経と戦闘のセンスは、一朝一夕(いっちょういっせき)で養われるものではない。それは仕方がないことだと、カイルは二人に説いたが、指導者達の方が諦めが悪かった。


「飲み込みがいいから、もう少し集中して教えたいものだ。俺の弟子になるか?」

「私と一緒に、ここに残る?」

「弟子とかそういう話はやめて。イーレ、どうして残ることが前提なんだ!?」

「だって、ここは面白いし。私は、まだ剣術を学んでないし」

「その思考は間違っている」


 イーレは考え込んだ。


「……ハーレイの戦闘の記憶を読んで、腕は上達しないかしら」

「……斬新(ざんしん)な発想だね」

「ねえ、ちょっと実験してみない?」 


 カイルはハーレイを見た。


「それで上達するなら、俺はかまわん」


 ハーレイは相変わらずあっさりと承諾した。






 結論から言うと、この同調実験は失敗だった。

 ハーレイの記憶から戦闘の経験を学んでも、身体の反応の方が追い付かなかったからだ。


「結局、肉体は鍛えないとダメ、と」

「だが、便利な習得手段だ。身体的に優れていても経験不足の若者向きだな」

「多少『精霊の加護』を持っている人間なら、カイルから伝授できるかもしれないわ」


 同調実験に付き合ったミナリオとファーレンシアも頷いた。


「メレ・エトゥールやサイラス様には伝授できるのでは」

「その前に私でしょ」

「――」


 全員がイーレを凝視(ぎょうし)した。


「イーレには不必要でしょ!?」

「あら、初期の被験者として最適でしょ?」

「イーレが強くなると公平な手合わせができないから後日にしてほしいな。だいたい不公平だ。俺もイーレの棒術を学びたいぞ?」

「交換ってことで、どう?」

「それなら悪くない」

「――当事者を無視して、勝手に話をすすめないでくれる?」


 カイルはむくれた。


「だいたい僕の剣術を上達させる話から脱線しているし」

「カイル様が強くなってしまうと、私がお役御免になってしまいます」


 ミナリオは複雑そうにため息をつく。


「正直、ここまで剣を使いこなせるようになられるとは思いませんでした」

「何、言ってるの? ミナリオが辞めたら僕が困る。僕はミナリオ以外の専属護衛は嫌だよ?」

「――」


 思わぬ言葉に顔を赤らめて照れるミナリオに、イーレは言った。


「気をつけてね。この子は天性無自覚の人たらしだから、凶悪よ?」


 ハーレイと、あろうことかファーレンシアまでが頷き同意したので、カイルは不本意だった。





 ハーレイは、その日はそのままミナリオとカイルに訓練し、ファーレンシアはイーレと共にそれを見学していた。ハーレイはミナリオの腕に感心していた。


「こんなに逸材(いつざい)が豊富なのに、二国の距離がありすぎて、交流がなかなかできないのが、残念だ」


 ハーレイが吐息をつく。


「……」

「……」

「ねえ……カイル?」

「ダメ」

「でも……」

「絶対にダメ」

「まさか、何か手段があると?」

「――ないこともない」


 ハーレイがカイルを見た。


「メレ・アイフェスの(わざ)か?」

「まあ、そう。でも、ダメだ」

「なぜ?」

「カイル以外が帰還する時の手段をつぶすからでしょ?」

「どういうことだ?」

「今、地上にメレ・アイフェスが降りた地点が三箇所ある。一箇所は南の森、あとはエトゥールの離宮とここの精霊の泉だ。イーレはそのうちの二箇所の登録者だから、繋げることができる」

「よく、わからん」

「もしかして、舞踏会場にイーレ様が現れたようなことができると?」


 ファーレンシアは察した。

 首を傾げるハーレイに彼女は補足した。


「エトゥールの離宮と、こちらの西の地を簡単に行き来できるようにする手段があるということです」

「そんな馬鹿な」


 ハーレイは笑ったが、ファーレンシアもミナリオも笑わなかった。


「あの時、イーレ様は突然現れて、戦いが終わると去っていかれましたね。でも、こことエトゥールは500km以上離れてますよ?」

「私はその70倍の距離を移動してきたのよ」


 ミナリオもハーレイもぽかんと口をあけた。


「メレ・アイフェスの国は、そんなに遠いのか!?」

「まあ、もっと、遠いわけだけど……」

「メレ・アイフェス側にも問題点(デメリット)がある。地上用に変更すると、イーレ達が帰るのに使えなくなる」

「私は別にいいけど」

「イーレ」

「サイラスは反対しないわよ?私が承諾すれば」

「イーレ」

「シルビアが同意するかどうかね」

「イーレ」

「ちょっと、シルビアに聞いてくるわ」


 カイルはイーレの(えり)をつかんで、引き留めた。


「どうして、そう自分の欲望に忠実なんだっ!貴方は僕達を監督する立場でしょ!?」

「監督がいいって言っても、反対するんだもの」

「認めて、ディムに怒られるのは真っ平だっ!」

「いいじゃないの、私が勝手にしたってことで」

「エトゥール城の中に他国への道を作るなんて、メレ・エトゥールが許さない」

「あっ、そうか」

「あの……」


 おずおずとファーレンシアが割ってはいる。


「シルビア様の同意を得るのは、もちろんですが、とりあえず兄に聞いてみるのは、いかがでしょう。防衛上、問題がなければ、案外、了承しそうな気がします」

「ファーレンシア、そこは止めてよっ!」

「あ……その……ちょっと、この西の地と自由に行き来できれば、素敵かなぁ、と……」

「姫様もそう思いますわよね?」

「はい」

「ここには、僕の味方は誰もいないのか!?」



 慰めるように、ハーレイはカイルの肩を優しく叩いた。


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