(6)交錯⑥
ハーレイの家を出たカイルは、ファーレンシア達を伴ってナーヤの家に向かった。老女は和議の式典に出席していなかった。
カイルはすでに熟知している村の中を横断し、ナーヤの家を訪れた。
「お婆様、入っていいかなあ」
「遅いぞ」
ナーヤ婆は、クコ茶を、3人前用意してた。
ハーレイがイーレの元に残ったのは、カイルにとっても予想外だったのに、ナーヤはそれを見越していた。この不思議な先見の技には、弟子入りしたい気分だった。
「お婆様、この姿では。はじめましてだね」
「獣だろうが、若者だろうが、魂はかわらん。そんな挨拶は無意味じゃ」
カイルは笑って女性二人を紹介する。
「こちらエトゥール王の妹姫のファーレンシア・エル・エトゥール、あと僕と同じメレ・アイフェスのシルビア・ラリム、――ファーレンシア、こちらは西の民の占者のナーヤお婆様。強い先見の能力をお持ちだ」
ファーレンシアとシルビアは正式なエトゥールの礼を老女にする。
「ファーレンシア・エル・エトゥールと申します」
「シルビア・ラリムと申します」
「ナーヤだ。まあ、座れ」
3人はナーヤの前に腰をおろした。
「ようこそ、おいでなされたなぁ。エトゥールの姫と治療の才を持つメレ・アイフェスよ」
ナーヤはファーレンシアを見て上機嫌だった。
「こちらこそ、お会いできて光栄です。西の民の占者は、エトゥールでも有名ですから」
「――そうなの?」
「はい」
ファーレンシアは何故だか嬉しそうだった。
「こちらも光栄じゃ、世界の番人の守護を持つ者よ」
「世界の番人の守護?」
カイルは聞き咎めた。
「ファーレンシアは世界の番人の守護を持ってるの?」
「西の民のお婆様、それは――」
ファーレンシアは狼狽えた。
「大丈夫、心配せんでもこの若造は、お前さんを嫌ったりはせぬよ。むしろ頑固さが治るかもしれん」
「でも――」
「お婆様、それって――」
――黙れ
カイルはビクリとした。この状況で老女からハンドサインが飛んでくるとは思わなかったからだ。
これは抜き打ちの試験で不合格になると、ハーレイの過酷な訓練が待っているのだろうか?
――出て行け
「カイル様?」
「……僕は邪魔なようだから、外で待っているよ」
カイルは立ち上がってナーヤ婆を伺い見た。
――あとで戻ってこい
カイルはため息をついた。逆らってはいけない雰囲気だった。
ナーヤにあしらわれて追い出されたカイルは、外に出ると石段に腰を下ろした。
――世界の番人がファーレンシアを守護している
ナーヤの言った内容は、初耳だったが納得もした。
確かに世界の番人の領域では、ファーレンシアを庇う気配すらあった。納得はしたが、愉快なものではなかった。
そこに羽音が聞こえた。
カイルはギョッとした。精霊鷹が真横に舞い降りてきたからだ。しかも見覚えのあるオーラを纏っていて、明らかに憑依の状態だった。
「――常に降臨してたら有難味が減るんじゃない?」
――――憎まれ口をたたけるくらい元気なら問題はないな
精霊鷹はすぐに羽ばたこうとした。
「待った!」
――――何か用があるとでも?
「そういう意地悪いところが嫌いだ。世界の番人はエトゥールの王家を守護しているのか?」
――――している
「なぜ?」
――――初代エトゥール王の血筋だからだ
「血筋だけが理由?」
――――そうだ
「でもファーレンシアを特別扱いしている」
――――妬いているのか
「どうして肉体のない世界の番人が、そういう俗っぽい言葉を知っているんだよ!」
――――お前たちから学ぶ
「妬いてない」
――――その割には心穏やかではない
「覗くな」
――――無理だ。お前の思念は強い
カイルは世界の番人に勝つことを諦めた。西の民とエトゥールが和議を結ぶ努力をしたなら、自分もこの得体のしれない存在に歩みよるべきかもしれない。
少なくともファーレンシアの気をもませることは、したくなかった。
「どうしていつも精霊鷹なのさ?僕への嫌味?」
――――四つ足でもいいが、困るのはお前だ
「僕が困る?」
――――お前のまだ幼い白い獣が拗ねる
「ははは、まさか……」
冗談を笑い飛ばそうとしたカイルは固まる。精霊鷹に笑う気配ははなかった。
「……拗ねる?」
――――小麦粉を大量に消費していいなら、試すか?
「あ、いや、今はまずいな。後日にしよう」
――――賢明だ
「どうしてファーレンシアは特別なんだ?……番人の領域でもファーレンシアを庇っていた。世界の番人は、平等ではないのか?」
――――それは勝手に人間が決めつけているだけだ
「答えになっていない」
――――お前はよく似ている
「初代エトゥール王に?」
――――そして彼女も似ている
「……誰に?」




