表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第6章 精霊の審判者
103/1015

(21)和議の使者⑤

 カイルが機嫌を直したウールヴェに同調して、再び西の民の村を訪れると、村の様子が変わっていた。


 村の中央に多人数が入れそうな巨大な天幕が築かれつつあった。午前中にエトゥールの使者の来訪を告げたことを考えれば早い対応といえた。

 白い獣が現れても村人は今度は冷静だった。

 敬うような深い礼と共に、天幕の中を指さす。言葉は通じなくても、なんとなく理解はできた。


 予想通りに天幕の中で、家具や人々の座る位置決めの指示を出しているのは若長だった。ハーレイは白い精霊獣が姿を現したことに笑った。


「意外に早く戻ってきたな。もう少し時間がかかるかと思ったぞ。どうやって、精霊獣の機嫌をとったんだ?」

『パンケーキ20枚』

「は?」

『機嫌を直すのにパンケーキ20枚ほど費やした』

「それは美味いのか?」

『ここに着いたら、作ってもらおうか?シルビアの専属護衛の腕はたいしたものだよ。限られた材料から美味しいものを作りだす才にたけている。もっとも、まだ()ねていたが、妹姫の懇願に機嫌を直したよ』

「精霊獣も妹姫には弱いのか。飼主に似たのかな?」

『……そんなことはない……と思う』


 やや自信の欠けたカイルの返答にハーレイは笑いを噛み殺す。


「不思議なものだな。エトゥール人とこんなたわいのない話を交わすようになるなど、想像していなかった」

『僕も不思議な気分だ。初めて会った時は、飢えた猛獣の餌として捕まったかと思ったよ』

「まあ、殺すつもりだったからな」

『ハーレイが加護持ちでよかったよ。こればかりは、世界の番人に感謝してもいい』


 ハーレイは笑い、歩き出した。


「女性達の宿泊所は、あちらに別の天幕を用意している」

『手数をかけてすまない。この和議に反対するものはいないのかな?』

(おさ)の決定に逆らうものはこの村にはいない」

『他の村にはいると?』

「西の民で俺達の氏族が一番大きく、権力はあるが、敵がいないわけではない。西の民が統一されていたのは、はるか昔の話だ」

『氏族間の争い?』

「土地や水場の問題だな」

『水場……』

「南の魔獣が増えて、水場が使えなくなった氏族がある」

『水は深刻な問題じゃないか』

「そうだな。うちはナーヤがいるから、狩場や水場の確保ができるが、他の氏族には必ずしも優秀な占者(せんじゃ)がいるわけではない。そうなると、狙うは、他の氏族が持つ水場だ」

『……』

「エトゥール人には理解できない争いだろう」


 ハーレイは自嘲気味に笑う。


「だから、この和議は我々にも利はあるのだ。エトゥールと敵対することがなくなるのだからな」

『僕は別のことを考えていた』

「別のこと?」

『水場の情報を提供して、小さな氏族を取り込めないかと』

「――」


 ハーレイは呆気にとられたように精霊獣を見下ろした。


「水場をどうやって?」

『必ずしも難しいことではない。地形の高低差や気象、地下水脈からある程度は予測できる。そういう専門のメレ・アイフェスもいる』

「そんなことが?」

『そのメレ・アイフェスとは、今連絡がとれないから、それについては後日だな。でも上空から水場を探すことはできるよ。今、僕がウールヴェに同調していることを、野生の鳥でやればいい』

「……面白い」

『とりあえず和議が終わってからの話だけどね』

「そうだな」


 ハーレイは思い出したように、カイルに告げた。


「イーレは俺の家に移した。会うか?まだ眠っているが」

『うん』




 ハーレイの家は、若長という地位にもかかわらず意外と小さかった。カイルはすぐに気づいた。ここは、ハーレイが妻と子を亡くしてから過ごした家で、彼は10年以上も一人で住んでいたのだ。


 質素であまり生活感がなかったが、以前カイルが羊皮紙に描いた絵が壁に飾られていた。カイルがハーレイの記憶から拾い出した彼の亡くなった妻子の絵だった。あとは彼の物であろう弓や槍、剣が置かれていた。

 イーレは奥の部屋に寝かされていた。カイルはそっと近づいた。棚には一羽の(ふくろう)がとまっており、ハーレイのウールヴェだとすぐにわかった。(ふくろう)は獣の出現にもおとなしかった。


『……イーレ?』


 彼女はまだ眠ったままだった。


『ファーレンシア、シルビアに聞いてくれるか?イーレは眠らせたままの方がいいのか?』


 しばらくしてからファーレンシアから返事があった。


『シルビア様は眠らせたままがいいと言っています』

『わかった。遮蔽(しゃへい)をかけておく』


 カイルはイーレに遮蔽(しゃへい)をかけ、それから部屋を癒しの波動で満たした。

 ハーレイは戸口でカイルを待っていた。


「彼女はどうだ?」

『僕たちが着くまで、まだ眠らせておく』

「そうか。ナーヤ婆がカイルの言葉を教えるといってるが、このまま向かうか?」

『そうだね、お婆様に聞きたいこともあるし』

「彼女に何かあれば、俺のウールヴェが気づく。いってくるといい。俺は準備の方で手が離せない」

『わかった』


 カイルは占者(せんじゃ)の家に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ