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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第6章 精霊の審判者
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(18)和議の使者②

「さあ、どうぞ」


 馬車の座席に腰をおろし、ファーレンシアは自分の(ひざ)を軽く叩く。


「えっと……ファーレンシア、膝枕(ひざまくら)はさすがに……」

「でも、馬車の中で身体を安定して支えるには一番この態勢がいいのです」

「……メレ・エトゥールに殺される」

「あら、兄が最初に指示をしましたのよ」

「!?」


 メレ・エトゥールは何を考えているのだ!妹の膝枕を許容するなど!これは罠か?新手のメレ・エトゥールの罠か?


 カイルは疑心暗鬼の塊りに陥った。


「早くしてください。出立できないのは困ります」


 馬車に乗り込み、向かいに腰をおろしたシルビアが容赦(ようしゃ)なくカイルを追い立てる。


「……シルビア」

「ぐだぐだ言わないでください。私は早くイーレの元にいきたいのですよ。それ以外の最優先事項はありません」


 知らない間に膝枕をされているのと、素面(しらふ)のまま膝枕をされるのでは天と地ほどの差があった。

 カイルは羞恥(しゅうち)に耐えかねた。このあとちゃんとウールヴェに同調できるのだろうか。


「ハーレイ様への先触(さきぶ)れの件をお願いしますね」

「う、うん」


 馬車の座席に横たわり、結果、ファーレンシアの膝枕を享受しながら、カイルはウールヴェに意識を飛ばすために目を閉じた。

 補助のためにファーレンシアが(ひたい)に手をあててくる。相変わらず心地よい。どこか精霊樹の癒しに似ていた。


 シルビアが、ファーレンシアに親指を立てて合図をしたのを見たのは気のせいだろうか?





「……行きましたか?」

「はい、同調されたようです」


 にこにこにこ。ファーレンシアは本当に楽しそうだった。

 シルビアは外の近衛兵に合図を送った。馬車はゆっくりと動き出す。


「ファーレンシア様はカイルを甘やかしすぎです。お身体に負担はありませんか?」

「それが不思議なことにないのです。カイル様が遮蔽(しゃへい)の仕方を教えてくれたからでしょうか?」

「まあ、こういう能力を持つ者の基本訓練は、遮蔽(しゃへい)ですからね。それを知らずに能力を使いこなしていらしたメレ・エトゥールとファーレンシア様にはびっくりです」

「こうして、カイル様のお力になれて嬉しいですわ。膝枕(ひざまくら)も私だけの特権ですわね」

「ですから、甘やかしすぎですって」

「でも、シルビア様は私の味方をしてくださるとおっしゃったではありませんか」


 にっこりとエトゥールの妹姫は微笑む。シルビアは白旗(しろはた)をあげた。


「味方ですが、カイルは相当鈍いですよ?苦労すると思いますが」

「それ、兄にも言われました」

「さすが、メレ・エトゥール。人の本質を見抜く才に抜きんでてますね」



 

 ウールヴェは命令通り、イーレに寄り添って休んでいた。

 同調したカイルは、イーレの顔色と呼吸が正常であることを確認してから寝台より降り立った。


「ほら、来たぞ」


 ハーレイはちょうどナーヤ婆の元で、眠っているイーレの様子を見つつ、朝食をとっているところだった。どうやらナーヤ婆はカイルの登場を予見(よけん)していたらしい。


「おはよう、カイル。食事はどうだ?」

『おはよう、ハーレイ、お婆様。僕はいらないけど、あとでウールヴェ(このこ)が欲しがると思うので頼むよ』

「ナーヤ婆とも話していたが、イーレは俺の家に移そうと思う」

『いろいろ迷惑をかけて、すまない。でもハーレイが見てくれるなら安心だよ』

「それより、とっとと要件を言った方がいい。時間は貴重だ」


 ナーヤがカイルに促す。この老女には本当に適わないとカイルは苦笑した。


『和議の使者団が昨日、エトゥールを出立した。使者はメレ・エトゥールの妹姫、ファーレンシア・エル・エトゥールだ』


 ハーレイは食べていたパンを取り落とした。


「……エトゥールの妹姫が……来るだと……?エトゥールの王族が西の地にくるなど、前代未聞(ぜんだいみもん)だぞ?!」

「あたしゃ、昨日言ったはずだが」

「ナーヤ婆、そういう重要なことは、もっと詳しく忠告してくれっ!」

「そうしたら、つまらんだろ?驚くことも、また人生」


 ナーヤは平然と茶を啜る。


『僕もお婆様の能力には、感服しているんだけど……まさか、メレ・エトゥールの動きが、ここまで早いとは思わなくて…』


 ウールヴェに同調したカイルが申し訳なさそうに告げる。


「いつ到着予定だ?」

『昨日出立で7日で走破する予定だと言っていた』

「すると今日から6日か。ずいぶん急いでいるな」

『イーレの保護も目的としているので』

「……規模は?」

『近衛兵20名、姫、侍女2名、僕を含むメレ・アイフェス2名、専属護衛は計5名だ』

「……総勢30名か……」

『近衛兵は村の外で野営ができるので、数に含まなくていい。女性が6名いる』

「ん?姫と侍女2名とメレ・アイフェス1名と……」

『専属護衛の2名は女性だ』

「……護衛が……女性?」

『護衛対象が女性だと身の回りの関係上、女性が都合がいいこともある。まさか風呂で男性が護衛するわけにはいかないだろう?』


 赤裸々な例えにハーレイは納得した。


『女性に対する粗相(そそう)だけは絶対に困る。メレ・エトゥールのことだから、西の民に偏見のないものを選んだと思うが、異文化であることはよく通達してほしい』

「わかった」

「あたしが目を光らせておくよ。あたしに逆らう者などいない」

『ありがたい』


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