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恥ずかしい事実と男のプライド

「待て。何故そうなる。俺は婚約解消しないと言ったんだぞ? 婚約破棄するわけがない。まして公の場で、そんなことをするはずもない」


「でも、それでは婚約解消できませんよ?」

「だから、しないと言っている」


「でも、それでは婚約したままですよ?」

「ああ、それでいい」


 何だろう、どうも話が通じない。

 そこでふと、セアラはある可能性に気が付いた。



「愛人はありえないのですよね。気が変わりました?」

「馬鹿を言うな」


「え、では……普通に浮気ですか? 選りすぐりの理想の花嫁候補をぞんざいに扱われるのは、心外です。きちんとけじめをつけてください」


 長年婚約者として認知されているセアラとの婚約解消は、ギルバートにもそれなりに影響があるだろう。

 だが、だからと言ってセアラをお飾りの妻に据えたまま、理想の花嫁候補を囲うというのはさすがに賛成できない。


「そんなわけがあるか。……大体何なんだ、理想の花嫁候補というのは。俺の妻になるのは――セアラ、おまえだろう」

 水色の瞳にじっと見つめられ、セアラはびっくりして数回瞬いた。


「……はい? あの。でも、いくらノーマン公爵の意向で婚約したとはいえ、気持ちのない結婚生活を送るのはどうかと思います。幸い、政略結婚としての価値はありませんし、ギルバート様が訴えればすんなり解消してもらえると思いますが」

 すると、ギルバートは眉を顰め、深い深いため息をついた。


「……わかった。全然わかっていないのが、わかった。いちから説明する」

「はあ」

 ギルバートは用意されていた水をグラスに注ぐと、一気に飲み干した。



「セアラは俺達の婚約がどうして結ばれたか、知っているか?」

「それは……小さい時に公爵邸で犬に襲われている女の子を助けて。それを気に入った公爵が、息子であるギルバート様と婚約させたんですよね」


 今思い出しても、酷いとばっちりだ。

 貴族の結婚は本人の意向を必ずしも反映しない。

 それでも、親戚を助けたという理由で婚約相手が決まったギルバートは、やるせなかっただろう。


「うん。まず、そこが違う。ずっと言っていなかったが、この婚約は俺が望んだことだ」

「ええ?」

 そんなはずはない。

 だって、セアラは両親からきちんと話を聞いたのだから。


「あの時、犬に襲われていたのは……俺だ」

 気まずそうに視線を逸らしながらギルバートが呟く。

「ええ? だって、あれは女の子で。髪にリボンをつけて、スカートで」

 セアラがちらりと見ると、ギルバートがうなずく。


「……まさか、そういう趣味があったとは知りませんでした」

「――違う! あれは、母のいたずらだったんだ。ちょうど髪が伸びて切るところで、少しだけって……。でも、嫌になって逃げだして。そこにちょうど犬が来た。匂いで俺だとわかって遊ぼうとじゃれてきたんだが、スカートに足を取られて転んで、泣いて。……そこに、セアラが来たんだ」


 そう言われてみれば、あの女の子は芥子色の髪だった気もする。

 だが親類の女の子と聞いていたし、まさかギルバート本人だなんて思うわけもない。

 つまりあれが、セアラとギルバートの初対面ということか。


「俺よりも小さい女の子なのに、必死で俺を庇って、犬を追い払って、怪我までして。何故逃げなかったのかと聞いたら、セアラは言ったんだ。『逃げません。立派な騎士は、逃げません』って」


 当時のセアラは、父と兄の影響で剣を持ち、騎士に憧れている年頃だ。

 普通に考えれば貴族令嬢が言うことではないので、少し恥ずかしい。


「それから、自分も泣きべそをかきながら、俺を抱きしめてくれた。――俺はあの時、セアラに惚れたんだ」



「ほ、惚れ?」

 理解不能な言葉を思わず繰り返すと、ギルバートは小さくうなずいた。


「だから、すぐに父にセアラと婚約したいとお願いした。身分は少し低いが、エリオット子爵は騎士団長だし、評判もいい。父と子爵が個人的に親しいこともあって、婚約することができたんだ」


「で、でも。そんなことは今まで一度も」

 すると、ギルバートは決まりが悪そうに視線を逸らした。


「……女の格好をして、犬に追いかけられて、泣いて、助けてもらったのは俺です――なんて、言えるか。格好悪い。……男のプライドだ」

 まあ、そう言われてみれば何ひとつ格好良い要素はない。

 恥ずかしいので言いたくないという気持ちは、わからないでもない。


「そうだったんですね。私は、ノーマン公爵の意向で婚約していたのだと思っていました。……最後に、救われる思いです」

 結局は嫌われてしまったけれど、始まりに好意はあったのだ。

 それを知れただけで、もう十分満たされた。


「恥ずかしい事実は口外しません。安心して、婚約解消なさってください」

「だから、婚約は解消しない! ちゃんと聞いていたか?」

 首を傾げるセアラを見たギルバートは、肺を絞り切ったかのような深いため息をついた。



「――つまり、俺は昔からずっと、セアラのことが好きなんだ!」





ランキング入りに感謝を込めて、夜も更新です。


本編は明日の夜で完結です。

その後にはギルバート視点の番外編、それから愉快な後日談の予定です。

引き続きよろしくお願いいたします。


感想・ブックマーク・メッセージ等とても励みになっています。

ありがとございますm( _ _ )m


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― 新着の感想 ―
ギルバートは一体全体何様の立場でため息をついてるの?? セアラの自己評価の低さも暴走の原因も、元はと言えば全部あなたの所業ゆえなのに??
[良い点] どうしても噛み合わない二人。どこまでも平行線で笑ってしまいました。
[良い点] 西根さんが書かれるかっ飛んだキャラが大好きです。 最終話、後日談のかっ飛びも楽しみにしています。 [一言] ギルバートのつまらないプライドをさっさと捨て去れば、ここまで拗れなかった気がしま…
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