表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/27

私にしませんか

「だから、何でそうなるかなあ!」


 デリックはお腹を抱えて笑っているし、目には涙すら浮かんでいる。

 いつものようにデリックとパトリシアに呼び出されたセアラは、ギルバートとの話を報告したのだが。

 ……結果、第一王子が体を二つ折りにして笑い続けていた。


「ですが、婚約を解消しないと言われたのです。つまりは、婚約破棄の方を選択するということですよね?」

 デリックの背中をさするパトリシアに訴えるが、何やら苦笑されてしまう。


「せっかくこちらは円満な婚約解消に加えて、理想の花嫁まで見つけようとしているのですが。婚約破棄したいというのは、それだけ私のことが嫌いなのでしょうね」


「もう、呆れるしかありませんね。セアラは騎士でいい気がしてきました。……そういえば、剣術大会には出るのですか?」



 パトリシアが言う剣術大会とは、学園の行事のひとつであり、文字通り学生達が剣の腕前を競うものである。

 男女自由参加とはいえ、九割の参加者は男性。

 将来騎士を目指す者はここで名を上げることが必須とも言われる、盛大な大会だ。

 昨年までのセアラは淑女たらんとしていたので、見学すらろくにしていなかったが、今年は事情が異なる。


「そうですね。ギル様のことばかり考えているわけにもいきません。この大会で好成績を収めるのが、騎士団への近道。当然、参加します」

「騎士団はともかく、出るのならば応援しますよ。でも、半年も剣の稽古をしていなかったのでしょう? 大丈夫ですか?」


 ようやく体を起こしたデリックから手を放すと、パトリシアはティーカップに手を伸ばす。

 ひとつひとつの仕草が上品で洗練されている。

 いつかはこうなりたいと思って見ていたのが、今はもう遠い昔のことのようだ。


「確かに以前ほどは動けませんが、仕方がありません」

「無理はいけませんよ」

 向けられた眼差しは優しく、セアラが男性ならば惚れること間違いなしだ。


「ありがとうございます。パトリシア様、デリック様。優勝は難しいでしょうが、入賞目指して頑張ります」

 小さく拳を掲げるセアラを見て、パトリシアが首を傾げる。



「入賞……というのは、一体どのくらいの?」

「およそ百人の中で、上位八人だよ。九割が男性だし、そのほとんどが剣術を習っているし、騎士団見習いもかなりの数がいる」

 デリックの説明に眉を顰めたパトリシアが、恐る恐るという様子でセアラを見た。


「セアラ? その、入賞というのは……頑張る、という意味ですよね?」

「はい、頑張ります。ずっと稽古を続けていれば、優勝を狙ったかもしれませんが……恥ずかしながら、現実を見れば入賞がいいところかなと思います」

 少し照れながらそう言うと、パトリシアの眉間の皺が一層深くなった。


「……デリック様?」

「まあ、見ればわかるよ。……当日、俺とパトリシアは観覧席にいるからね。顔を出してくれると嬉しいな」

「はい。良い結果をお伝えできるよう、頑張ります!」


 ギルバートと共に未来の国王夫妻に仕えることは、もう叶わない。

 だが騎士としてならば、二人に報いることができる。

 これからは、それを目標に生きて行こう。


 何故か苦笑いを浮かべる二人の前で、セアラは決意を新たに拳を掲げた。




「セアラ様も剣術大会に出場するのですか?」

 いつものように稽古をするセアラに付き合っていたランディーが、ふとそう訊ねてきた。


「はい」

 剣を置くと、用意されていた水を一口飲む。

 柑橘の果汁が入った水は、爽やかな香りが鼻に抜けて心地良い。

 昔から稽古の時にはこの果実水を飲むのが習慣になっていた。


「騎士を目指すとも聞きましたが。……本当に、ギルバート・ノーマン公爵令息とは別れるということでしょうか」

「別れるといいますか……婚約がなくなるというだけですね」

 別れるも何も、セアラとギルバートとの間には婚約者という形があるだけで、それ以上のものは何もない。


「――では、私はどうですか?」

「はい?」

 何を言われたのか聞こえず顔を向けると、ランディーの緑色の瞳にセアラが映った。


「ノーマン様と別れるのならば、私にしませんか?」

 今度はしっかりと聞き取れたが、とても正気とは思えない内容だ。



「冗談はやめてください。それとも、慰めてくれているつもりですか?」

「本気です」

 間髪入れずにそう答えると、ランディーは手にしていた剣を置いた。


「あなたの振るう剣を見た日から、ずっと忘れられませんでした。婚約者がいるのだと自分に言い聞かせていました。それがなくなるというのなら、俺のことを見てほしいです」

「そんなの、急に言われても」


「……では、剣術大会で優勝したら。少しは考えてくれますか?」

 ランディーはセアラの手を取ると、恭しくその甲に唇を落とす。

 先日と違って、今度は本当にセアラの肌に柔らかい感触が伝わった。


「約束、ですよ」

 にこりと微笑まれたセアラは、混乱したまま目を瞬かせる。



「――俺の婚約者に、何をしている」


 鋭い声にびくりと肩を震わせると、修練場の入り口には芥子色の髪の美少年……ギルバートの姿があった。



あけましておめでとうございます。

今年も元気に更新予定です。


ランキング入り、ありがとうございます。

感想・ブックマーク等とても励みになっています。m(_ _)m


「竜の番のキノコ姫」同時連載中。

こちらもランキング入りありがとうございます。


「残念令嬢」3/2発売予定。

次の連載は「残念令嬢」第八章の予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


「『理想の花嫁を探して幸せにして差し上げます』と言ったら、そっけなかった婚約者が何故か関わってきますが、花嫁斡旋頑張ります」

「花嫁斡旋」
コミカライズ配信サイト・アプリ
コミックブリーゼ「花嫁斡旋」
ニコニコ漫画「花嫁斡旋」
「花嫁斡旋」公式PV
西根羽南のHP「花嫁斡旋」紹介ページ

-

「花嫁斡旋①」
「花嫁斡旋」コミックス①巻公式ページ

キルタイムコミュニケーション 雨宮皐季 西根羽南

小説家になろう 勝手にランキング ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ