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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第五章

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98話 エルフの里防衛戦⑨

3日連続更新3日目です

 そこからはひたすらの塔の防衛だ。他のところに応援はいらないのかと思ったが、俺たちをここに固定して、その分他に戦力を回す作戦なようだ。とにかく、何がなんでもこの地点は死守して欲しい。そう、オブラートに包んで言われた。俺たちは指揮系統にはないし、あくまでお願いだ。


 二時間。俺たちは踏みとどまって戦った。もっと長時間戦っていた気がするが、時間を確認するとまだたった二時間。ようやくおやつの時間だ。さすがに余裕がないのか、空気を読んだのか、プリンを出せとはエリーも言わなかった。


 敵は俺たちの場所が手強いと見たのか、かなりの戦力を向けてきていたが、サティの獅子奮迅の働きでなんとかしのげていた。危険な場面は何度もあったが、まだ一人として傷ついていない。

 だが俺の魔力は再びのメテオでまた空になり、弓は撃ち過ぎで弦が切れてしまった。俺が使ってたのは安物だったし、酷使に耐え切れなかったのだろう。幸い、近くで戦っていたエルフが同じくらいのサイズのを貸してくれた。エルフの弓は白っぽい木材で作られており、しなやかで強靭。サティのほど飾りっけはないから高級品でもなさそうだったが、ずいぶんと使いやすかった。


 ティリカはたいがを地上に放って、そのたいがも先ほどダメージを食らったようなので一旦引っ込めた。またあとで働いてもらうつもりだ。

 唯一がんばっているサティももう体力の限界を越え、気力だけで一発一発を放っているような状態だ。

 いまはメテオで殲滅したばかりで少しは余裕はあるが……


「敵、減らないな」


 エリーにそう声をかけてみる。そろそろ逃げ出す気になってくれないだろうかと、ほんの少し期待して。

 だが俺ですら、今俺たちがここを離れたら戦線が崩壊しかねないことは理解できるので、逃げたくてもそんなことはとても口には出せない。いよいよとなって逃げるにしても、ほんとうにギリギリのタイミングになってしまいそうだ。


「ハーピーはだいぶ減ったわよ」


「サティが活躍したからな」


 それに矢がほとんど飛んでこなくなった。恐らく敵は矢が切れたのだ。普通だと矢は持ち運ばなければならない。防衛側ほど多量には用意できないだろう。

 だが、矢だけあっても機械じゃないのだ。延々と撃ち続けることもできない。エルフは魔力だけでなく、体力もとっくに限界にきている。

 何か打開策はないものだろうか。いっそアンやエリーにも弓術を取ってもらうか? でもレベルがあがってポイントはあるが、弓手が3人増えたところで戦力としては微妙か。ちょっとみんなで相談して、増えた分のポイントで何かスキルを――


「マサル様っ」


 サティの叫びで思考は中断され、その指差すほうを見ると、遠方に巨大なドラゴンが二頭、森から姿を現した。陸王亀ほどではないが、どらごの倍近くはありそうだ。

 二頭は並んで悠々とこちらに歩いてくる。そして、周辺には多数の魔物が付き従っている。今までほとんど見かけなかった、トロールやオーガも多数まじっている。ここまで温存していたのか。

 

「こっちの魔力が完全に切れるのを待ってたのか」


「いよいよあっちも戦力がなくなったのかもしれないわよ?」


 どっちにしろ、敵は今まで隠していた大型種を投入して一気に攻めようというのだろう。


「わたしの最後の魔力を使えば一頭は……」


「ダメだ!」


「でも」


「もうよい。いよいよとなったらお主らだけでもゲートで逃げよ。兄上も最後まで戦うと言っておる。砦にはすでに救援を求めた。すぐに助けが来るじゃろう」


 助けがそんなにすぐ来るはずもないのだ。救援が来るにはどんなに早くても明日の午後以降になる。その頃には里はドラゴンに完全に蹂躙されているだろう。


「リリ様も逃げましょう」


「切り札があるのはやつらだけではない。妾にもある。精霊魔法じゃ」


「でもそれは……」


 精霊魔法は攻撃に向かないんじゃなかったか?


「主が倒れれば、精霊は暴走する」


 つまり突っ込んでいって自爆しようっていうのか。


「ドラゴン一頭を倒す対価じゃ。妾の命など、安いものじゃろう?」


 もちろん里には精霊魔法の使い手は何人もいるが、自爆技を使うにしても魔力があってのことだ。魔力を使い果たした精霊が暴走したところで、大したダメージを与えられるわけもない。精霊の魔力は人のそれより膨大なだけあって、回復にも一週間以上かかる。王族で、俺たちががっつり護衛していてこそ、リリ様の魔力の温存が可能だったのだ。他の精霊魔法使いにそのような余裕はなさそうだ。

 フライで脱出用に温存してるのかと思ったら……


「俺が一頭やります。だからそれはほんとうに最後の手段にしてください」


 ドラゴンの周囲に魔物は多いが、隠密でなんとか気が付かれずに接近できれば、魔法剣で首を落として倒せるかもしれない。そのあとどうなるかは考えたくもないが。

 あとの一頭はエルフたちになんとかしてもらうしかない。


「サティは残れ。みんなの護衛だ。絶対にみんなを守れ」


「でも……」


「大丈夫。俺一人ならフライでも使えばなんとか逃げられる。エリー、あとのことは頼んだ。もしまずいことになったら絶対に逃げるんだぞ?」


 もし失敗して俺が死んでも、あとのことはエリーがなんとかしてくれるだろう。

 隠密と忍び足が戦場でどれくらい効果があるだろうか。つい勢いで言っちゃったけどやめとけばよかったな。

 徐々にドラゴンが近づいてきた。城壁まで到達する時間を考えると魔力の回復は期待できそうもない。

 剣に魔力を込めて準備しようとして気がついた。ドラゴンのさらに後方になにか……


「あ……」


 サティも気がついたようだ。一頭,二頭,三頭。同じようなドラゴンが里に向かって進んできている。


「あー、リリ様。後ろからもう三頭、ドラゴンが来ています」


 全部で五頭。無理だなこれ。逃げよう。


「エリー、いつでもゲートが出せるように」


「……わかったわ」


 最初のドラゴンのうちの一頭はまっすぐここに向かってきている。そいつをなんとか倒しても、あまり意味は無いだろうな。ここに至ってやっとエリーも諦めたようだ。リリ様はどうしよう。説得する時間はない。無理やりにでも連れていったほうがいいのだろうか。


「マサル様、あれを」


 またサティの指差す方を見る。後から来たほうのドラゴン? どこか動きがおかしい。魔力反応? 何かと戦って……一頭倒れた!?


「冒険者ですよ!」


 俺の鷹の目だとそこまで詳細は見えないのは慣れか、元の目の性能の違いでもあるのだろうか。サティには戦う冒険者の姿が見えたようだ。


「きっと救援がきたのよ!」


 エリーはそう言ったが、救援は早くても明日ってことじゃなかったのか?


「間違いなく救援よ。わたしたちが出発したすぐあとに強行軍で来れば、今くらいについてもおかしくないわ」


 少数の冒険者であれば、馬を調達するなり、全力で走るなりすればこの短時間での到達は難しくはない。

 あ、二頭目も倒れた。三頭目と戦っている人がちらちらと見える。

 二頭を倒した早さを見れば、三頭目も問題なく倒してくれそうだが、問題は目の前の二頭のドラゴンだ。救援の冒険者は間に合うまい。敵はドラゴンだけではない。間には多数の魔物もいるのだ。それを突破してここに来るまでに、最初の二頭のドラゴンに城壁を食い破られるかもしれない。

 エルフの里の城壁はかなりの分厚さを誇るが、大型のドラゴンに対してどれくらい耐えられるか。破壊されなくても乗り越えられでもして内部に突入されればどんな悲惨な事態になるかわからない。


「一頭は俺がやる!」


「マサル! わたしもっ」


 エリーが温存している魔力があればもう一頭は倒せるかもしれない。だが、それで敵の戦力が終わらなかったら? だが魔力を温存して突破されては……


「エリー、やれ!」


 アンの魔力も合わせれば一時間もあればゲート分の魔力は回復するはずだ。俺が無事戻れれば、その分も合わせてさらに時間短縮はできる。

 救援にきたのは間違いなく高ランクの冒険者だ。彼らが里に到達するまでもたせられれば、きっとなんとかなる。そう信じるしかない。


 剣に風の魔力を込め、塔から飛び降りる。火の魔法剣は派手で目立つし、風でも切れ味はほとんど同じだ。

 そのままレヴィテーションで堀を越え、オークの死体のそばに隠密で身を潜める。

 だが迫り来る大型のドラゴンを見て、一瞬で後悔した。魔法剣でオークキングをあっさり倒せたからって調子に乗りすぎた。20mはある大型の生物が全力で走ってくるのだ。高速道路を走る大型トラックや線路を通過する電車の迫力を数倍に増した感じだ。いくら魔法剣の切れ味がよくても正面からなど絶対に無理だ。

 地響きをたて更に速度をあげて、まっすぐこちらに突っ込んでくるドラゴンを見て俺は死を覚悟した。倒すなんてとんでもない。きっと踏み潰されて死ぬ。

 俺のメテオで出来た穴ぼこも、小型の魔物にはいい感じの障害となっていたんだが、大型のドラゴンにとっては何ほどのこともなく走り抜けて迫ってくる。

 中級の攻撃魔法を一回使えるくらいの魔力は戻っている。だがあの勢いがそんなもので止まるか……?


 土魔法だ! 手持ちの全ての魔力を込め、メテオで出来た穴も利用し深い穴を掘った。そしてドラゴンの進路から飛び退く。

 突っ込んで来たドラゴンの右の前足が、突然できた穴にすっぽりと嵌まり、その勢いのままにつんのめり、くるりと回転しつつ、堀を飛び越え、そのまま背中から城壁へ、轟音を発して激突した。大型種の全力の激突に城壁は揺れ、びしびしとヒビが走る。だが城壁は持ちこたえ、ドラゴンは堀に落ち、盛大に水しぶきをあげた。

 堀からの大量の水に押し流されそうになったのを堪えて顔あげると、目の前に背中から堀にすっぽり嵌って、抜けだそうともがくドラゴンが見えた。

 手にはまだ剣を持ち、風の魔法剣はかかったままだ。ドラゴンに随伴していた魔物も、ドラゴンの全速力についてこれず、はるか後方。ドラゴンはこちらには気がついてもいない。

 頭のほうへと素早く回り込み、堀に飛び込み、首の付け根あたりを狙い深く切り裂いた。俺はそのまま深い水堀にドボンと沈む。

 重い鎧のせいで一気に水底に沈み、そしてドラゴンが暴れた余波の水流に翻弄される。

 やばい、後先考えなさすぎた。水は濁って何も見えないし、水流に転がされて、どちらが上か下かもわからなくなった。もう息が……溺れ……


 その時、ぐいっと腕を取られ、空中に引っ張りあげられた。


「マサル様っ、マサル様っ!」


「がはっ、げほっげほっ……サティ……だ、大丈夫だ」


 ちょっと水を飲んだくらいで奇跡的に無傷だ。いや、これ大丈夫か? すっごい汚い、死体が浮いてる堀の泥水飲んじゃったぞ。いやいや、そんなことよりドラゴンは……


「トドメをさしておきました。エリザベス様が行けっておっしゃってそれで」


 ドラゴンの首は千切れかけ、血を吹き出し、堀の水を赤く染めていた。もうぴくりとも動いていない。


「ああ、助かったサティ」


 エリーもいい判断だ。

 他の敵は……!? やばい、だいぶ迫ってきてる。


「サティ、逃げるぞ」


 その前に。倒したドラゴンをアイテムボックスに回収しておく。死体が堀を埋めた状態で、そこを敵が渡ってきても面倒だしな。

 そしてサティを抱えて、みんなの待つ塔の上に戻る。


「マサル、無茶をして!」


 アンが心配して駆け寄ってきた。


「でもなかなかやるじゃない。ぎりぎりまで引きつけてから穴を作って引っ掛けるなんて。その後の手際がちょっと悪かったけど」

 

 と、エリーが冷静に評価する。まああれは作戦じゃなくて、とっさの思いつきだったんだけどな。ドラゴンが穴にちょうどはまったのも、かなり運がよかった。

 ちなみにエリーのほうは、ここから風魔法で一撃で、俺の方を観戦する余裕まであったようである。同じ一匹を倒すのに、これが戦士とメイジの格差か……もう二度と大型種に接近戦など挑むまい。


「ああもう、泥だらけじゃない。【浄化】」


「ありがとう、アン。サティを寄越してくれたんだな、エリー。助かったよ」


「ほっといても飛び降りそうだったしね」


 だがあんまり悠長に話してる場合じゃないな。


「状況は?」


「見よ。冒険者たちの突入で敵は大混乱じゃ」


 五頭のドラゴンは全て倒れ、冒険者の一団が魔物を殲滅しつつ、里へと進軍してきている。

 どうやら一息つけそうだ。魔力の残りは……穴作るのに使ってまた底尽きかけてるな……今のでまたレベルもあがったし、スキルポイントがまた増えてるな。結構ポイントたまってきたし、なにかスキルを――

 スキルリストを開けようとした時、ぽこっと10P、ポイントが増加した。なんだ……?


「クエストがクリアになってる!」


「クエスト?」


 突然の俺の叫びに、リリ様がきょとんとした顔で聞き返す。しまった。少し口が滑ったが、クエストだけじゃ何のことかわかるまい。たぶん大丈夫だろう。


「やったんですよ! 俺たちが勝ったんです! ほら!」


 残っていた魔物は散り散りに、算を乱して逃げはじめていた。


「お、おお……」


「つ、疲れた……」


 俺はその場に崩れ落ちた。もう無理。


「マサルッ」


 その俺をアンがぎゅっと抱きしめてくれた。鎧越しなのが残念だが……いや、もう戦闘も終わったし、脱げばいいのか。


「帰ろう」


 抱きついているアンに言う。そうだよ。帰ってアンに、がんばったご褒美をもらおう。よし、ちょっと元気が出てきたぞ。


「え、うん。そうね」


「エリー、ゲートを頼む。帰ろう」


「ええ!? でも……」


 エリーも驚いたような顔をして言う。


「リリ様。俺たち疲れたんでもう帰りますね。ほら、戦場も落ち着いてきたようですし」


 見れば数十人の冒険者が西門の前に集まりつつあり、跳ね橋式の鉄製の巨大な門が開かれようとしていた。西門付近の掃討は早くも終わったらしい。


「ああ、しまった。魔力の回復待ちか」


「そうだけど。でもほんとにすぐに帰るの?」


「もうクエストは終わったし、やることもないだろ」


「でもほら、エルフの里を救ったんだし色々とあるじゃない」


「そ、そうじゃ。きちんと礼をせねばならん。盛大な式典とか……」


 式典。そういうのってすごく面倒くさそうなんだけど。大体こんな戦闘のあとで、すぐにできるものでもないだろう。


「いや、礼とかはほんとうにいいです」


「いいってことはないでしょ!」


「だってこれ。すごい量になってるぜ?」


 と、エリーにギルドカードを示す。記録された討伐数はどれくらいだろうか。数えるのも面倒だ。討伐報酬は相当な額になっているだろう。これ、ちゃんと支払ってもらえるのかね?


「あ、エリーの倒したドラゴンも持って帰ろう。俺が倒したのもあるから、どっちか一頭売ればいいよ。いいですよね、リリ様」


「え、ああ。それは全然構わんのじゃが」


「よし、サティ。ついて来い」


「はいっ」


 サティを抱いて、城壁の外へとふんわりと着地する。もう城壁の近くには魔物はいないはずだが、サティを連れてきたのは一応の用心のためだ。


 エリーの倒したドラゴンのところへは直接向かわず、ぐるっと戦場を遠回りする。道々、大量に転がっている魔物の死体から状態のよいのを回収していき、最後にドラゴンのところへ。

 ドラゴンは全身をズタズタに切り裂かれて絶命していた。風魔法で切り裂いたのか。全身ボロボロであんまり高く売れそうにないな。こっちは食う用にするか。回収。


「それにしても疲れたな」


「はい。お腹が空きました」


「いまのドラゴン。あとで料理して食おうな」


「はいっ」

 

 サティが嬉しそうに返事をした。

 そういえば、疲れただけで今回無傷だな。最後は溺れかけたけど、結局かすり傷一つ付いてない。他のみんなも怪我とか全くしてないはずだ。


「サティは怪我とかしなかったか?」


「はい、大丈夫です。あ、でもこれ」


 と、手のひらを見せてくれた。豆ができて潰れている。すぐに【ヒール】をかけてやる。

 これだけの激戦で、唯一の負傷がサティの血豆一つか。


「うん、サティは今日はよく頑張ったな。特に最後はほんとうに助かった」


「わたし、役に立ちましたか?」


「大活躍だったじゃないか」


「でも、みんなはすごい魔法で……」


 どうなんだろう? 範囲魔法は派手だったけど、敵はばらけてて思ったより数は稼げなかったし、下手したらサティのほうが討伐数が多いんじゃないだろうか。


「サティがみんなをしっかり守ってたから、みんな安心して魔法を撃てたんだ。今回一番よく働いたのはサティだよ、間違いなく」


 それでサティも納得してくれたようだ。ほんとうにずっと弓を撃ちっぱなしだったもんな。

 そして後日、討伐数をカウントしたら(ギルド職員の人が)、驚いたことにサティの討伐数が俺の次に多かった。




 みんなの所に戻るとリリ様が満面の笑みで出迎えてくれた。


「マサルの言うとおりじゃった。魔物どもは全て逃げ出しておるそうじゃ」


「じゃあもう大丈夫ですね。ドラゴンの死体も回収しましたし、家に帰ります」


「しかしじゃな。礼もせずにというのは」


「エルフも今回の戦いで色々大変でしょう? 俺たちは本当にいいですから、その分復興に役立ててください」


「マサル、よく言ったわ。リリ様、我々は本当に何もいらないのです。こうやって里を救えたのもきっと神のお導きですよ」


「そうじゃな、アンジェラ殿。そなたらと引きあわせてくれた神に、感謝するとしよう」


 まあお礼はアンにしてもらえるし、金銭面でもドラゴンが二頭もいれば何の問題もないからな。いや、ドラゴン二頭も持って行って大丈夫か? メテオで城壁の外をかなり破壊しちゃったし、復興に資金がいるなら……


「あ、やっぱりドラゴンは一頭置いていきますか? 俺たちそんなにたくさんいりませんし、なんなら二頭とも置いていっても……」


「いい、いい。いいから持っていくのじゃ!」


 そうやって話していると、リリ様のお付の騎士のティトスさんが駆け込んできた。あの冒険者たちと一緒に戻ってきて、リリ様の居場所を聞いてすっ飛んで来たらしい。


「おお、貴様ら! よくやってくれた。リリ様を最後まで守ってくれたのだな」


「あの冒険者たちはティトスさんが?」


「うむ。姫様が冒険者を雇うのなら私たちもと思ってな。募集をかけてみたら一〇〇名近く集まってくれたのだ。Sランクパーティも二組もいるのだぞ」


 ほほう。それであのドラゴンの瞬殺か。


「報酬は確約できん。命の保障もできんと言うのに喜んで付き従ってくれたのだ。エルフのためなら命は惜しまない、と皆言ってくれてな」


 ああ……あれか。エルフ好きの冒険者。エルフ関連の依頼は人気があるとかそういう話だったものな。


「貴様らにも感謝する」


「ええ。じゃあリリ様の護衛はお任せしますね。俺たちはこれで砦に戻ります」


「お、おい。ほんとうに礼は良いのか? せっかくじゃし今日は王宮に泊まっても」

 

 もう日暮れが近い。普通なら泊まりのところだが、ゲートですぐ帰れるしな。


「里は復旧とかでこの後も色々大変でしょう? 落ち着いた頃に様子を見にきますよ」


 王宮でお泊りとかになったら、絶対にアンがやらせてくれない。ここはやっぱり自宅に戻らないと。


「姫様、帰るというのですから無理に引き止めることもないでしょう。貴様ら、この礼は後日必ず。さっ、リリ様。我らを救ってくれた冒険者たちにお声を。是非姫様にお会いしたいと言うのです」


「あ、俺たちのことは内密でお願いしますよ」


「わかっている。ゲートのことだな。行きますよ、姫様」


「わかったわかった。おい、マサル、絶対また来るのじゃぞ!」


 リリ様はティトスに引きずられて行ってしまった。ゲートのことだけじゃないんだけど、まあリリ様はわかってるだろうし大丈夫か。


「そろそろ魔力回復した?」


「もうちょっとね」


「んじゃ俺が補充するから帰ろう。なんでもしてくれるって言ってくれたアンにご褒美もらわないとな!」


「えっと……なんでもするって言ったけど、お手柔らかにね?」


 だがなんということだろうか。塔の小部屋でこっそりゲートを使い、新居に帰宅した俺たちだったのだが、装備を脱いでベッドに横になったとたん、そのまま朝までぐっすり寝てしまったのだった。

次回 防衛戦、後始末回(タイトル未定)




ニトロワ②巻、いよいよ12月25日発売です。

①巻は場所によっては品薄だったようですし、

あらかじめ予約しておくと幸せになれるかもしれません。

1巻同様ストーリーの変更はあまりありませんが、そこそこ改訂。

今回も書きおろしが丸々一話ついております。

挿絵ももちろんさめだ小判氏に素晴らしいものを描いてもらってますよ!

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