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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第五章

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97話 エルフの里防衛戦⑧

3日連続更新、2話目です。

「マサル様っ」


 城壁に戻るとサティが駆け寄って来た。


「すまん。オークを始末するのにちょっと手間取った。こっちはどうだ?」


「この辺りはもう大丈夫よ。だけどまだ……」


 そういいつつ、エリーが西門の方を見やる。


「わかっている。行こう」


 西門付近は激戦が続いている。急がないとまた犠牲者が増えるだろう。

 再び弓を装備し、城壁を進んでいく。多少のハーピーはサティに任せれば確実に仕留めてくれる。数が多ければアンかティリカが魔法を放つ。もちろん俺も攻撃に加わっている。エリーは当分温存だ。ゲート分を残しておいてもらわないといけない。

 それに護衛が増えた。リリ様は王族なのに戦場をふらふら移動して、その護衛を俺たち任せだったのがおかしかったのだ。そう考えたのだろう、この付近の指揮官らしきエルフに与えられたのがとりあえず五名。護衛のはずだが、リリ様はナチュラルに指示を出して、直属の部下として戦闘や伝令にこき使う気のようだ。

 戦場を切り拓きながら進み、西門の左右にある塔の屋上に登る。ここのエルフはハーピーの猛攻で一時撤退している。エルフもいないので当然ハーピーもわざわざ無人の塔にはやってこない。

 あっさり塔を再制圧すると、付近に飛ぶハーピーの掃討は他に任せて戦場を確認する。この辺りはエリーの魔法の効果範囲外で、地上は相変わらず敵だらけ。そのうえハーピーが城壁に波状攻撃を加えてきていて、地上の敵はほとんど放置に近い。

 塔の屋上は、ハーピーの死体がごろごろと転がっていた。邪魔なので適当にアイテムボックスに仕舞っておく。これもあとで売ろう。

 

「状況は悪いようね」


 隣で一緒に見ていたエリーがそう言った。

 この塔がそうだったように、城壁の一部は大量のハーピーによって制圧されつつあった。このままでは穴を開けるまでもなく、城壁を乗り越えて突破されてしまう。


「俺がメテオを使う」


 【メテオ】詠唱開始――

 地上の敵を一気に殲滅すべく、効果範囲を広げる。これで魔力がなくなるが、一刻を争う状況だ。


「メテオ!」


 メテオが発動し、戦場が轟音と炎に包まれた。

 だが魔物の数は確実に減ったものの、焼け野原を越え、新たな魔物が進軍を続けている。何度目かの範囲魔法だ。敵もそれくらいは想定して戦力をばらけさせているんだろう。


「いま伝令が戻ってきた。ドラゴンを出してもたぶん大丈夫じゃ」


 安全な場所で座り込んでいる俺にリリ様がそう伝えてきた。本日二度目の魔力切れだ。思ったより疲労がきつく、そのまま寝てしまいそうだ。


「どらごを出す。いい?」


 ティリカが俺に、首をかしげてそう問いかける。

 敵の攻勢が弱くなりエルフが落ち着いているだろう今が、タイミング的には悪くないかもしれない。


「よし、呼ぼう」


 俺の言葉でティリカが即座に召喚魔法の詠唱を始めた。詠唱が完了すると、巨大な茶色いドラゴンが瞬時に塔の前に現れる。


「こ、これが召喚魔法なのか……」


 味方であるとわかっていても、凶暴な面構えの巨大なドラゴンが突然目の前に現れるのだ。エルフたちは皆一様に驚き息を飲んで見つめるのみ。

 精霊魔法も不思議な感じだが、召喚はそれ以上に謎だな。明らかに実体がある、巨大なドラゴンはどこから来るんだろうか。今度、普段どこで何をしているか聞いてみるのも面白いかもしれない。


「主よ。なんなりとご命令を」


「蹂躙せよ」


 ティリカがそれだけ告げるとどらごは着地し、地上の魔物を踏み、ブレスを吐き、薙ぎ払っていった。

 通達はちゃんと届いていたようで、城壁側のエルフからはどらごに対しての攻撃はない。

 さすがの大型種である。雑魚のオークやハーピーなど物の数ではなく、眼前の魔物が蹴散らされていく。どらごにはこのまま暴れてもらって時間を稼いでもらおう。

 リリ様によると、陸王亀を倒した時点で砦には知らせが行ったはずだという。ただ、それで救援が来るとしても軍の編成には時間はかかるし、それから移動するとなると、編成に一日、移動に一日。最速でも明日までは耐えねばならない計算だ。もし救援が来るのだとしても。一度救援は断ってるからな……


 西門付近はもう突破される心配はなさそうだが、それでも敵はしつこく攻撃を加えてきている。だがエルフ側には余力はない。敵は俺やエリーの範囲魔法で当初ほどの勢いはないが、どこから湧いてくるのか圧倒的な数を誇っている。


「マサルが塞いだ穴の他に、もう一箇所突破されていたようじゃ。そちらもすでに塞いだのじゃが……」


 恐らく被害が甚大なのだろう。

 状況は悪いが、メテオで戦況はリセットできた。魔力はほぼなくなったが、まだどらごもいるし十分戦える。日が落ちれば一息つけるだろうか? オークやハーピーは夜目がきかない。特にハーピーは夜には弱いはずだ。


「あ、ああああ!? どらごが!」


 俺の横で一緒に座っていたティリカが突然叫んだ。なんだ!?

 立ち上がりどらごを探す。敵のかなり奥深くまで突入して暴れていたようだ。そのどらごの体躯がかしいだ。魔力の反応!? 魔法を食らったのか。

 続いてもう一発。二発目の魔法でどらごが倒れ、ふっと消滅してしまった。敵側のメイジか!?


「どらごは!?」


「大丈夫……だけど、しばらくは召喚できない」


 ダメージを負って消滅したところで死ぬようなことはないが、さすがに傷を癒やす時間が必要ということらしい。恐らく一日は再召喚はできないと。

 明らかな運用ミスだ。巨大で強いといっても所詮はただの一匹。援護も何もない状態であれば、俺が敵だとしたら倒すのは難しくない。もっと城壁近くで戦わせるべきだった。そうしたら例え敵のメイジが動いても事前に察知できたかもしれないし、二発目に対応して敵メイジを発見、排除できたかもしれない。

 だが悔やんでも遅い。最後の切り札もなくなってしまった。


「ガーランド砦に戻りましょう、リリ様」


 潮時だ。俺もアンもティリカもほとんど魔力が残っていない。

 まだ誰も傷ついていない、余裕のあるうちに脱出したほうがいい。

 もし防衛しきれず乱戦になったら――さきほどの無残に倒れたエルフたちを思い返す。魔力を失ったメイジなど、簡単に魔物に蹂躙されてしまうのだ。


 魔物は依然として圧倒的な数を誇り、エルフの里を包囲している。エルフの魔力も人数も先細りだ。強力な城壁も、守るための戦力がなければただの高い壁でしかない。勝てる要素はもうないと、判断せざるを得ない。

 せめてどらごがもう少し時間を稼いでくれればなんとかなったのかもしれないが。


「じゃ、じゃが……」


「ダメよ! まだ戦える! こんなの全然窮地でもなんでもないわ!」


 エリーがそう主張する。


「魔力がもうない」


「少しずつでも回復してるわよ。それにマサルもサティもまだ弓で! わたしもいざとなったら剣で戦うわ」


 これ以上は無理だ。魔力もないのに、また敵の総攻撃がくればどうなる? どらごももう出せない。これ以上この場に留まれば、いつかは誰かが傷つく。誰かが倒れる。そうなってからでは遅いのだ。


「魔力のない俺たちがいたところで、どれだけ戦力になるんだ? 一度砦に戻ろう。それで魔力の回復を待つんだ」


 俺やサティがいくら頑張ったところで千や万の単位の敵を相手にするには到底力が及ばない。

 

「砦に戻って援軍を呼ぼう。エリーもティトスさんにリリ様を無事に連れて戻ると約束しただろう?」


「それはそうだけど……逃げるのはいつでもできるわ。こうやって話しているうちにも魔力は回復してきているでしょ?」


「微々たるものだ」


 一時間くらいすれば、弱いメテオなら撃てるだろうか。だが戦場は広大だ。魔法の一発では戦局が変わらない。現にエリーと俺の最大級ともいえる殲滅魔法でも一時的に時間を稼げた程度だ。


「エルフの戦力はもうギリギリよ。見てみなさい。まともに戦える人がどれだけいる? ここでわたしたちが抜けたら……」


 俺たちとリリ様の護衛を除くと塔の屋上にいるエルフは10人にも満たない。怪我こそ回復魔法で治してはいるが、もうぼろぼろだ。俺たちが逃げたあと、もしここにハーピーの集中攻撃が加えられて耐えきれるとはとても思えない。ここだけじゃない。どこも似たようなものだ。だからこそさっさと逃げようって言っているのだ。俺たちがここで、30分なり1時間、時間を稼いでそれでどうなるんだ?

 俺はまだこんなところで死にたくはない。嫁の誰一人として死なせたくはないし、怪我もさせたくはない。そう思うのがいけないことなのだろうか?


「いや、いいのじゃ。お主らはよくやってくれた。ここで離脱しても誰も責めはせんよ」


 じゃが、とリリ様は続けた。


「妾は残る。二度も逃げ出すことなどできぬ」


「リリ様、これは一時的な撤退です。エルフもいよいよとなったら、里を放棄して脱出するんでしょう?」


 冷静に考えてみて、そのような状況でどれほどの数のエルフが生き残れるだろうか。だがそれに同情して共に戦ったところで、たかが数人で何が変わる? 俺たちは普通よりはちょっと力はあるが、お金のために働くただの冒険者にすぎないんだ。

 冒険者は命をかけて戦うものだとされているが、それにも限度がある。絶望的な状況では逃げるのも判断のうちだ。それで依頼を失敗しても妥当だと判断されれば、咎められるということは全くない。

 俺とサティならまだまだ戦えるにしても、残りの、魔力を失ったメイジなどただの足手まといだ。


 だが、アンとエリーは撤退の提案には不服なようだ。

 俺が無理を通せば、みんなも最終的には賛成してくれるかもしれない。だがエリーは確実に不機嫌になるだろうな。アンは俺がクエストを放棄しても許してくれるだろうか? これで嫌われて愛想を尽かされるまではいかないにしろ、失望はするだろうな。ティリカはよくわからない。悲しそうな顔をしているが、どらごが倒れたのが悲しいだけなのかもしれない。サティはどんな時でも俺の味方をしてくれるだろう。


 何故こんな、生きるか死ぬかみたいな状況になってんだろう。ハロワでちょっと給料の良さそうな仕事を見つけて応募しただけなのに。

 冒険者になんかなるんじゃなかった。俺はなぜ冒険者なんか選んだんだ? 生き残るための戦闘力を上げる必要はあったにせよ、別に商人になったって、鍛冶屋になったってよかっただろう。

 伊藤神にさらわれて野ウサギと戦って。そのあと、冒険者ギルドに入るといいって勧められた気がするぞ。クエストでここまで誘導するやり方といい、全部あいつのせいか……

 そのおかげでみんなと出会えたのは感謝してもいいが、それをこんなところで終わらせたくはない。みんなとずっと……ずっと? ずっとこの世界で暮らす? それでいいのだろうか? 顔をあげてみんなを見渡す。

 嫁を捨てて生き延びて、日本に戻って暮らす? 大金はもらえるし、安全な世界だ。それで幸せになれる? サティもアンもエリーもティリカもいないのに? だめだ。それは絶対にだめだ。


「マサル」


 しばしの沈黙のあと、エリーが声をかけてきた。


「マサルが戦いを嫌っているのは知っている。だけど、もう少しだけ。あともう少しだけ戦ってちょうだい。お願い、マサル」


「わたしからもお願い。マサルが異国の人間であまり信仰心を持ってないのはわかってる。でもお願い。わたしのためにあと少しだけでいい。戦って」


「マサルは里を救うと言った。わたしはそれを信じた。マサルは自分のことを過小評価している。マサルなら里を救えるってわたしは信じている」


「俺は――」


 こんなところで死にたくはない。無茶して死ぬくらいなら、卑怯者でもなんでも生き延びられればそれでいいのに。だけど……


「ここで死ぬかもしれないんだぞ?」


「オルバは足を失ってもナーニアを守ったわ。あの時に比べれば、まだまだなんてことはないわよ」


 エリーは修羅場を何度もくぐっているだけあって、危険度の判定がゆるい。だがみんなもまだ、逃げるには時期尚早だと考えているようだ。


「里を救うのは……わたしの命をかけてもやる価値のあることよ」


 俺にとってはただのクエストの一つにすぎないんだが、神官のアンにとっての神託はそれほど重いのだろうか。

 俺は命をかけてまで戦いたくない。安全なところでぬくぬくとしていたいのだ。そもそも今回は冬の休暇のはずだっただろうに。


「逃げられるうちに逃げたほうがいいと思うんだけど、どうしてもまだやるの?」


「もちろんよ!」


「俺はもう家に帰って寝たい。ごろごろしたい」


 最後にもう一度だけそう主張してみる。ここまでの戦果を考えれば、これで引き上げたところで誰に恥じることもないはずだ。


「戦いが終わったらゆっくりすればいいじゃない。ほら、たっぷりサービスするから。ね?」


 俺がもう折れかけているのがアンにはわかったのかもしれない。更に押してきた。


「なんでも?」


「う……な、なんでもするわよ」


「アンが体で払ってくれるっていうなら、もうちょっとがんばってもいい。約束だからな!」


 クエストや、エルフの里のために命をかけるのは御免こうむるが、嫁のためなら多少は危険を冒してもいい。


「危なくなったらすぐに逃げるからな?」


「大丈夫よ。引き際は見誤らないわ」


 でもエリーさんの基準ってかなりぎりぎりな気がするんですが……

次回、防衛戦終局 明日更新予定


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― 新着の感想 ―
アホな事言うのは仕方がない。もともとニートなんだし。そう言う設定の主人公だからね。まともな考えしてない。
この期に及んで休暇とか何を言ってんだ イライラする
[一言] 死ぬリスクを背負うくらいなら嫁なんぞ見捨てて逃げればいいのに 説得して聞かないなら仕方ないし最悪パーティーメンバーは奴隷を育てて代用できるだろうし、奴隷を使えばこういう危険な時に説得する手間…
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