87話 スキル取得会議
村に帰り、オルバさん宅に招待された。石造りの平屋一階建ては二人で暮らすには十分な広さだ。さすがに俺たち五人が入ると少々手狭だが、二週間旅をしてきたので特に気にもならない。
ナーニアさんお手製の夕食をもらって、寝室に案内される。部屋にベッドは一個しかないが、アイテムボックスから自前のを出して並べた。それで小さい部屋はいっぱいになった。
「悪いね。こんな部屋しか用意できなくて」
「野宿に比べたらぜんぜん天国ですよ」
野宿といっても土魔法で家を作っていたので普通に快適だったんだが、狭い部屋で嫁と身を寄せ合って寝るのも悪くない。
オルバさんが部屋を出て行ったのを確認して狭いベッドの上に寄り集まり会議を始める。ティリカを抱っこして右手にはサティがくっつき、エリーとアンは隣のベッドで俺と向き合っている。
「先ほどめでたくクエスト完遂となりました」
「「「おー」」」
「ついにポイントが貯まったのね!」
そう。あと一つ、レベルがあがればよかったエリーなんだがなぜだかレベルがあがらない。いや、それはギルドカードの討伐記録を見れば一目瞭然なんだが、獲物がエリーを避けて通っているかのごとく、獲物を倒せない。
オーク集落の殲滅ですら魔法の着弾地点にたまたまオークがいなかったらしく、戦果はゼロ。旅の間の狩りもレーダー持ちの俺とサティが主に狩って、もちろんエリーも努力はしたんだが思うように戦果があがらない。
旅で移動しながらの短時間の狩りである。森での修行中のようにエリーのために獲物を回すとか悠長なこともやっている余裕もなく、イナゴには期待したようだがそれも俺がすべて殲滅してしまった。
エリーはさすがにこの件で他人を責めるのは筋違いだと、徐々に不機嫌になりつつもクエストで確実にポイントが入るのを心の支えにここまで来たのである。
「まずはエリーからかな」
「お願い」
エリザベス 0p レベル22
料理Lv1 投擲術Lv1 短剣術Lv2
魔力感知Lv1 高速詠唱Lv2 MP消費量減少Lv2
魔力増強Lv4 MP回復力アップLv4
回復魔法Lv1 空間魔法Lv4→5
火魔法Lv1 水魔法Lv1 風魔法Lv5 土魔法Lv2
【空間魔法】①アイテムボックス作成 ②短距離転移 ③長距離転移 ④転送魔法陣作成 ⑤空間把握 空間操作
メニューを操作して空間魔法をレベル5にあげる。これでエリーのポイントは使いきった。
ちなみに短剣術は自力取得だ。投擲術を覚えた時にナイフが気に入ったらしい。俺とサティで鍛えてみたらなんだかメキメキ上達してしまった。料理でも包丁の扱いだけはすごく手慣れた感じになってしまっている。
「よし、あげたぞ。言っとくがここで使うなよ?」
「わかってるわよ」
エリーのメニューから空間魔法レベル5を確認する。空間操作に空間把握ね。レベル5というより、レベル1か2あたりで出てきそうな基本的な感じがする魔法だな。
まあ超破壊的な魔法でエリーが試したい! とか言い出す心配がなくてよかったというべきか。
「これ……どうやって使うのかしら?」
「空間把握は偵察用じゃないか? ちょっと試してみろよ」
「そうね」
眉をしかめて集中するエリー。
「あっちの部屋にオルバとナーニアがいるわね」
俺もそちらに注意を向ける。気配察知だと詳細はわからないが、二人の反応が非常に密接にくっついて、少々激しい運動をしているようだ。うん、アレだな。
「……」
「あまり覗くのも失礼だと思うが」
「え、あ、そうね」
エリーの顔がほんのり赤くなり、瞳もうるませている。なにせレベル5の魔法だ。かなりの精度で色々『見える』んだろう。
そしてモジモジしているエリーを見て俺も少し変な気分になってきた。ティリカをぎゅっと抱きしめるがもちろん物足りない。砦で宿を取るか、家に転移で戻ったほうがよかったかもしれないな。
ハーレムを作ったはずなんだが、全員一緒は拒否されるのだ。ここでティリカにいたずらでもしようものなら絶対に怒られる。
サティとティリカは平気で一緒なんだが、エリーとアンにそれはちょっとおかしいと言われた。確かに行為を人に見られるのが恥ずかしいのは理解できるがちょっとさみしい。
だが現状でも十二分に幸せだし、アンにしろエリーにしろ二人きりの時はすごくサービスがいいのだ。
そこら辺の知識は全部サティからである。そのサティの知識は年上のあのおねーさんからの情報で、ありがたいことに実に充実している。
サティが俺との行為を他の3人に全部お話しちゃった件は許した。なにせそのサティの話でアンやエリーがその気になったのは確かだ。
俺もちょっと聞いてみたんだが、サティ視点の俺の話っていうのは聞いてて恥ずかしくなるレベルで、どこのイケメンだよそれ!? と思ったものである。
アンに言わせると、買ってすぐ、野獣のようにサティに襲いかからなかったのもポイントが高かったようだ。たとえ奴隷が普通に買える異世界でも、金で女性を手に入れて好き勝手するのが下種な行為なのは変わりはないらしい。ただのヘタレなのも時にはプラスになるものだ。
「次はわたし、わたし」
膝の上のティリカがそう催促してくる。
エリーの空間魔法のテストはとりあえずおいておいて、ティリカのメニューを開く。ティリカもちょうど40P。召喚レベル5が取れる。
ティリカ 0P レベル21
料理Lv1
魔力感知Lv1 魔力増強Lv5 MP回復力アップLv5
魔眼(真偽) 水魔法Lv4 召喚魔法Lv4→5
「召喚あげたよ」
「……」
「どうした?」
「やはり契約が必要」
まあそれはわかっていたことだが、問題は何と契約して戦うことになるんだろうってことなんだが……
「わからない。自分で見つけて来いってことらしい。どうしよう?」
「う、うーん?」
俺も他のみんなもいいアイデアはないようだ。ティリカはちょっとしょんぼりしている。
探すにしろ、どこで見つけろっていうんだろうか。ドラゴン以上の召喚獣ってちょっと想像もつかない。一応日誌でお伺いを立てておくか。どうせ答えてくれないんだろうけど。
「そのことはあとで考えましょう」
そうアンが提案する。
「そうだな。次はサティの分をやろうか」
「はい」
サティ 0P レベル23
頑丈 鷹の目 心眼 肉体強化Lv5 敏捷増加Lv5
魔力感知Lv0→3
料理Lv2 家事Lv2 裁縫Lv2 生活魔法
隠密Lv3 忍び足Lv2 聴覚探知Lv4 嗅覚探知Lv3
剣術Lv5 弓術Lv5 格闘術Lv2 回避Lv4→5 盾Lv3
今回は回避レベル5をあげた。戦闘力に関しての強化はもう十分だろうし、あとは補完するスキルなんだが、これが悩ましい。回避や探知などはレベル5に10Pいるのだ。
以前のレベルアップ時にサティと相談しつつ取ったのは魔力感知だった。もし敵に魔法使いがいたら? 実際、ゴルバス砦の攻防戦では敵に魔法使いがいたのだ。気がついた時には魔法を撃たれていた、では回避も防御できない。魔力感知で事前に発動を察知できれば妨害するなり、逃げるなりできるだろう。
アンジェラ 3P レベル21
肉体強化Lv0→3
家事Lv2 料理Lv3 棍棒術Lv1→4 盾Lv0→3
魔力増強Lv5 MP回復力アップLv5 MP消費量減少Lv3→4
魔力感知Lv1 回復魔法Lv5 水魔法Lv4
アンは魔法方面は回復魔法もあるし水魔法で攻撃力も十分だってことで、近接戦闘力をあげてみた。
盾はポイント節約のために道中暇をみつけて訓練し、レベル1にあげてからレベル3までポイントを使ってあげた。
本人に言わせるといまいち活躍できてないし地味なんじゃっていうが、魔法や武器、回復はもちろん、家事や交渉ごとまでマルチにこなすうちの大黒柱だ。色物揃いのうちのパーティーの唯一の良心なのだ。そのままでいてほしい。
最後に俺の分である。レベルは27。イナゴのレベル4アップと道中の狩りで大量のポイントがある。
肉体強化、回避、魔力感知、土魔法をレベル5に。
スキル 2P レベル27
スキルリセット ラズグラドワールド標準語 時計
体力回復強化 根性 肉体強化Lv3→5 料理Lv2
隠密Lv4 忍び足Lv4 気配察知Lv4 心眼
盾Lv3 回避Lv4→5 格闘術Lv1
弓術Lv3 投擲術Lv2 剣術Lv5
魔力感知Lv1→5 高速詠唱Lv5 魔力増強Lv5 MP回復力アップLv5
MP消費量減少Lv5 コモン魔法 生活魔法 回復魔法Lv5
火魔法Lv5 水魔法Lv3 風魔法Lv3 土魔法Lv4→5
精霊とか光魔法取らないのって話もしたんだが、本当に目立ちたくないんだよ。ただでさえ魔力多すぎで派手なのに、この上みたことないような魔法バンバン使い出したらどうなることか。地味に生きたい。それに気が変わればスキルリセットでいつでも修正できる。
あとはやはり魔力感知である。いまいち使い道のなさそうだったこのスキル、実はかなり重要なんじゃないだろうか。
以前にハーピーとやった時も明らかに敵は魔法を感知して、こちらの詠唱を妨害にかかってきていたし。
これで全員分のスキル振りが終わった。議題は次である。
「家を作ろう」
当分こちらにいるなら拠点が必要だ。色々とゆっくりできる部屋が欲しい。
この村に宿屋はない。家を借りてもいいんだが、農場作りで作業が多くなるなら現地のほうが都合はいいし、人がいないところに拠点を作ればゲートの行き来がこっそりしやすくなる。
村の外に拠点を作って普段は無人にしておくのは常識的に考えればとても危険だが、うちの偵察と戦闘能力を考えれば問題もない。ゲート地点を地下にでも作って安全を確保しておけば、家に侵入者があっても排除は容易だ。
「そうね。せっかくだから立派なのがいいわ」
ああ、パーティーが開けるくらいのな。
「でも勝手に建てていいものかな?」
「別に誰の土地でもないわよ」
貴族出であるエリーによれば、利用されてない土地も厳密に言えば領主の土地でありひいては国の領土ではあるのだが、税さえ納めれば開拓を進めるのに何の問題もないそうだ。
税金逃れには厳しい処罰があるのだが、住民は壁の中に固まって暮らしていて管理がしやすいし、真偽官が隠し農地などの存在を不可能にする。
だがそれは支配する側にも言える。税金はきちんと規定の量が集められ、好き勝手に重税を課すことなどできないのだ。
ここからはティリカの話だ。
とはいえ悪政を誅するのも簡単ではない。貴族には特権があり、真偽官が出向いて行ってただ質問するというわけにはいかないらしい。証拠をきちんと用意し、なおかつ告発者の地位が低い場合は自らの命を賭けねばならない。
「昔の真偽官がやりすぎた」
不都合のある話なので一般には伝わっていないし、あまり広めて欲しくないと前置きをした上で話をしてくれた。
大昔、王国がまだ帝国領だった頃。真偽官が張り切りすぎて帝国で粛清の嵐が吹き荒れたそうである。
結果どうなったか? 帝国の内政はボロボロ。粛清された貴族たちが結束して反乱。真偽院は壊滅。帝国はかろうじて反乱を鎮圧したが被害は甚大で多くの人命が失われた。
それ以来、為政者に対しての真偽官の運用は非常に注意深く、かつ柔軟に行われている。広大な領土を守り管理するのにはキレイ事だけでは済まされないのだ。効率よく領地が運営されているなら多少のことは問題視されない。
「その動乱で魔眼を生む奥義も失われた」
その後は大変だったそうだ。ほとんどの真偽官が殺され、魔眼を生み出す技術も一緒に失われた。
幸いにして当時粛清の片棒を担いだ皇帝も存命で、その支援でかろうじて真偽院は命脈を保った。運用を間違ったにしろ、真偽官の能力は非常に有用だ。
だがなんとか再現した魔眼作りの技術は不完全だった。
低い成功率。成功しても障害が発生する。頭痛、失明、成長阻害などの様々な身体異常。魔眼が適合せずに死ぬことすら多かったという。
長年の研究で死ぬようなことは減ったものの、いまだティリカのような障害が頻繁に発生するのだ。
「我らのうかつな行動のせいで多くの人命が失われた。それは真偽官となった者が背負うべき罪。教訓」
魔眼も元は神によってもたらされたものだという。それを当時の真偽官のミスで失いかけた。だから魔眼による痛みも苦しみも受け入れなければならないと。
ティリカにしても成長が阻害されている他に、あまり力を使うと軽い頭痛が発生するそうである。
「わたしのはまだ軽いほう」
「盗賊尋問したとき、もしかして頭痛になったりしてた?」
「少し」
道中で捕まえた盗賊を尋問した時、早めに寝たのはたんに疲れたのだろうと思っていたのだが……
「辛かったら我慢しないで言おうな」
そう言って膝に抱えているティリカをぎゅっと抱きしめる。
「うん。わかった」
「やっぱりポイント貯めて魔眼取ってみる?」
スキルにある真偽の魔眼。これを使えばティリカの体も正常になるかと思ったんだが、以前にいらないと言われている。治った理由が真偽院にバレそうだってのもあったし、かなりポイントを食うから召喚を優先したいっていう理由で納得したんだが。
「私だけそのような恩恵を受けるわけにはいかない」
「でも罪って言っても昔の話だよな……?」
「真偽官となった時に全て受け入れた」
「力には責任がともなうのよ」
これはエリーだ。ティリカもうなづいている。
ノブレス・オブリージュ、高貴なるものの義務ってやつか……
「我らは世界の調和を保つもの。誇りあるお仕事。後悔はない」
「神官も真偽官も神に仕えるとても重要な仕事なの。マサルも使徒なんだからもっとしっかりしないと」
アンの矛先がこちらに向いてしまった。
この世界は神様が実在して、ダイレクトに色々と介入してくるのだ。そりゃみんなが信心深くなるのはわかる。
でも俺、よその世界の人間でこっちの神様に義理とかないし、半ば騙されて連れて来られて報酬もらえるからやってるだけだからなあ。なんて思っても言えない空気だ。
「前向きに善処します……」
何の話をしていたかわからなくなった。
「そういえばシオリイの町でかなり大規模な粛清をやったらしいが、それはいいのか?」
「本部の許可は取った。貴族は対象外だったし、たまの綱紀粛正は必要」
見せしめか。自業自得とはいえ、標的にされたシオリイの町の犯罪者もちょっと哀れだな……
次回
農場作りパート2
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