83話 旅路④
後書きで重大発表的な何かがあります。
「また馬車の数が増えてるな」
このあたりから結構危険になってくるのよ、とエリーさん。
魔境が近くなってくる上に、人里が極端に少なくなる。要するに辺境である。街道はうっそうとした深い森の中を通っており見通しも悪い。
旅は7日目。
町から出発した商隊の馬車の数はほぼ倍になっている。他の商隊と合流したのだ。
その分ちゃんと護衛も増えてるので負担が増えるとかはないはずなのだが、今日からうちの馬車が先頭である。
魔物でも出れば真っ先に戦えってことだろうか。
「緊急時以外働かなくていいって話だったのに、色々やらされてる気がする」
「何かあったらどうせ私達がやることになるのよ。だったら最初からやるほうが早いでしょ」
エリーの言うことももっともである。
出現頻度の多いオーク程度でも普通のパーティーだと命がけとまではいかないが、毎回無傷でとはいかない相手である。ましてやこの辺りは危険地帯。商隊がまるごと、痕跡も残さずに消えたなんて話もあるくらいだ。強いパーティがいるなら前衛はお任せしたいだろう。俺も他人にお任せできるならお任せしたい。
「経験値は必要」
「そうよ。あとちょっとなんだからね!」
ティリカとエリーはやる気満々である。
ティリカはまだいくつかレベルアップが必要なのだが、エリーは次のレベルで空間魔法レベル5が習得できるという状態のまま、ここまでの行程で出たのは盗賊のみ。野宿の夜は魔物らしき気配をちらほら感じたものの、襲ってくることもなかった。
俺も経験値は欲しい。お金も稼ぎたい。だが旅ももう一週間。ここ数日の盗賊の相手やらもあって疲れが貯まってきた気がするのだ。
だが俺が何かと休みたがるのはアンあたりにはお見通しである。
「【ヒール】。さあ今日もがんばろうか!」
ですよねー。昨夜はあんなに元気いっぱいだったのに、疲れたですは通らないとは思った。いや、ちょっと夜に張り切りすぎたのがいけないんだけどね。臨時収入もあったことだし、いつもより上等の宿に泊まってみんなとゆっくりしてきたのだ。色々と。
出発前の協議の結果、今までのような偵察はやめておこうということになった。適当な思いつきで始めたことではあるし、危険地帯で戦力を分断するのはやはりよろしくない。それに偵察なら俺とサティで馬車上からでも余裕をもって行える。加えてティリカにほーくをこっそり出してもらって偵察範囲を大幅に広げてみると、結構な頻度で獲物をみつけることができた。
進路上の魔物は皆殺しである。進路を外れていても出向いて行って皆殺しである。
幸いにして再び盗賊が出てくることはなかった。この辺りは魔物が多く出るのだ。盗賊もこんなところじゃ危険すぎて仕事をしていられないのだろう。
当初は新規に合流したパーティーにちょっと舐められてる雰囲気があった。Bランクとはいえ、見た目はまるっきり駆け出しのパーティーである。
Bランク? ドラゴンの討伐を一回? 20人の合同パーティーで魔法を一発撃っただけ? こんな具合に少々こちらの実力を疑っている様子だ。
ドラゴンを討伐するほどの実力があればどこかで評判も聞こうものだが全くの無名。ランクもあがりたて。高校生くらいにしか見えないリーダーの俺に、あとは女の子が四人。本当に戦力としてあてになるのか不安になろうものである。
俺は別に気にしなかった。どうせ証明しようと思ったら何か見せろとか戦えってなるのだ。むしろ弱いと思って余りあてにしてくれないほうが嬉しい。
ランク詐欺というものがある。実力に見合わない上位のランクを持っている冒険者がまれにだがいるのである。パーティーで戦う以上、強い仲間がいれば引っ張られてランクが上がることもあるのだ。
もちろんギルド側もそれを防ぐべく個人ごとの審査はきっちりやるのだが、完全に防げるとは言い難い。真偽官が常駐しているのもシオリイの町のように大手の冒険者ギルドのみなのである。
対外的にはランクにはそのランクに見合う実力があるとされているが、身内の冒険者はそういった事情はよくわかっている。ランク詐欺は滅多にないこととはいえ、魔物が出れば共に戦うことになるのだ。ドラゴンを倒せるという触れ込みで来た奴が役立たずだったりすると命に関わる。強さの確認を可能ならばしておきたい。
出発前日にファビオさんが喧嘩をふっかけてきたのもそんな感じだったのだろうと、ランク詐欺に関してエリーに説明してもらった。
町を出発した日の午後にさっそくオークの集落をみつけ、殲滅してほくほくして戻ってきた時のことである。休憩地点で合流してオーク集落の位置やら数をノーマンさんに説明していると、他の護衛パーティーのリーダーがちょっと難癖をつけてきたのだ。
「それは本当なのだろうか」
あまり長時間商隊から離脱もできないので狩りは手早く済ませた。俺のフライで3人を抱えて現場に突入しつつ詠唱し魔法をぶっ放す新戦法だ。気付く間もなくオークは壊滅した。
高度な偵察能力と空戦能力、高火力が合わさって初めて可能となる荒業である。
街道からは距離があって危険はないとの判断で商隊は止まりもしなかったし、ちょっと魔物がいるので倒してきますとだけ言ってすぐに戻ってきたのだ。オークを80匹ほど始末してきましたと言っても信じられないのもまあ仕方ないだろう。
「本当」
ティリカがちょっとムッとして言う。ティリカが真偽官だというのは初日から商隊にいる人はさすがに知っているが、普段は隠している。一般人には色々恐れられたり誤解されたりする職業なのだ。
「街から近いしね。見つけて倒せてよかったよ」と、アンジェラ。
「だがこのような位置にオークの集落があるなどとは……」
この人は出発してきた町をベースに活動してるらしい。町の近くにオークの集団が集落を作っていたとなると、心穏やかというわけにはいかないんだろう。
「ああもう。マサル、見せて上げなさい」
「あー、うん」
10匹だったとか過少申告するべきだったかな。でも嘘つくとティリカが怒るし。
ちょっと広い場所に移動して、オーク50数体を一気に放出する。
強力な範囲魔法で殲滅したので損傷が酷い死体が多く、結構な数をその場で土に埋めてきたので倒した数よりは少々少ない。だがそれでも五十体ほどは残り、ずたずたに引き裂かれたオークが山となっている。かなりグロい光景だ。
「カードの記録も見ます?」
「必要ない。いえ、必要ないです。大丈夫です」
必要ないようだ。さっさとオークの山を回収するが、すでに注目の的である。商隊中の人が見に来ている。あんまり目立ちたくないのに……
「でもこれ驚くようなものか? レベル3か4使える魔法使いならこれくらいできるよな」
おとなしく引き下がった冒険者を見ながらエリーに尋ねてみる。
「うちだって四人掛かりでしょ。それにレベル4って簡単にいうけど、そこまでのレベルになると中々いないのよ?」
「そういうもんか」
それにしてもあっさり信じたな。俺だったらちょっとは疑ってかかるんだけど。今狩ってきたとは限らないじゃないか。
「マサルだってごつい冒険者は怖いって言ってたでしょ」
「うん」
もう怖いってほどじゃないが、それでも苦手なのは変わらないな。
「あっちだって魔法使いが怖いのよ。私達には一瞬で集落を殲滅する力があるのよ。その辺りをマサルはもっと自覚したほうがいいわ」
確かに死体の山を短時間で築けるような人物に疑わしい!とか恐ろしすぎて言えないな。納得だ。
ともかくそんな感じで商隊の人たちは道中の狩りにとても協力的になったのである。ちょっと怖がられるのと引き換えに。
昼間はがっつり狩りをしても、夜は夜で仕事はある。野営地作りである。家作りとも言う。
野営の度の家作りも毎回やらされ、しかも全員分である。真冬の夜の寒さはかなり厳しい。うちとノーマンさんの商隊の分だけってわけにもいかない。
やることといえば同じ形の建物をいくつか作るだけである。一度作り方を覚えれば手間はほとんどかからない。普通は魔力が問題となるんだが、その魔力は大量にあるのだ。
それで野営地には立派な一軒家が何個も建つのだが、これが全部無償である。
だがさすがに全員分を作るとなると面倒になってくる。これはお金を取るべきではないだろうか。
「一泊するだけなのにそんなにお金は取れないよ?」
そうアンに言われた。
石造りの家は普通に生活できるくらいにがっしりと作ったが、今のところ必要なのは一泊だけである。ベッドも一応作ってあるが寝具すらないのだ。
2000円か、ぼったくっても5000円ってところだろうか。その程度全員から取った所でお小遣いくらいの収入にもならない。いや、俺一人でもらっておけばお小遣い程度にはなるのか?
「セコい真似はやめてよね、もう……」
エリーに呆れられたので、感謝の気持ちだけ受け取って終わりということになった。まあ道中の魔物狩りはそこそこな収入になりそうではあるし、ガツガツする必要もないか。
他の土魔法使いはどうしてるんだろう。旅行の度にこの程度のものを作っていれば俺が余計な面倒を被らなくても済むのに。
「普通の土魔法使いは小さいのを作るだけで魔力が尽きちゃうわよ。こんなの何個も作れるほうがおかしいの」
そう言えばティリカの婚約者候補だった、なんとかという貴族も結構な土魔法の使い手だったというが、たった3体ほどのゴーレムで魔力が切れてたな。
たとえ作れるとしても、危険のある旅のさなかだ。家作りで魔力を消耗などできないのが一般的なメイジってことなのだろう。
この、マサルが野営の度に作ってまわった宿泊施設は今後大いに活用され、旅人達に感謝されるのであるが、今のところ本人たちはあずかり知らぬことである。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
順調に狩りをしつつ辺境地帯を問題なく通過し、いくつかの村を経由して、再び商隊の規模は出発当初より少し大きいくらいになった。残りの行程はあと2日ほどである。
とある村を通過しようとした時、武装した村人達に止められた。大量の魔物がこの先の峠に出たというのだ。完全武装の村人が何人も街道に出てきている。
「イナゴだ!」
イナゴと聞いていやーな気分になる。虫が特に苦手っていうわけじゃないんだが、この世界の虫系の魔物ってでかいんだ……
話を聞いてみると案の定でかい。最大で3mくらいになる個体もいるそうで、そんなのが大量に移動しつつ、進路の何もかもを食い散らかすという。好き嫌いはない。動物だろうが、植物だろうが、人間だろうがなんでも食う。
見つけた村人によると恐ろしいほどの数がいたそうである。だが正確な規模などはわからない。
成長したイナゴは単体でもオークと同等以上の強さがあるという。普通の村人では偵察に行くだけで自殺行為だ。
村の中では避難準備で大わらわである。もしイナゴがこちらに来れば逃げ出すしかない。幸いにしてイナゴは進路上に食べるものがあればそこで止まるので、移動速度はさほどでもない。それにイナゴは気まぐれだ。どちらに向かうか誰にもわからない。村に来るかもしれないし、反対側に行くかもしれない。
だが、峠の向こう側にはナーニアさんのいる村があるのだ――
「何年もかけて農場を広げてきたのに」
「急げ!急げ! イナゴが来る前に逃げるんだ!」
「うわーん、うわーん」
「イナゴがこっちに来たら村は――」
「なんでこんなことに……」
泣く子供、意気消沈して荷造りを急ぐ村人達。
この村にも頑丈な壁があるが、羽を持つ巨大イナゴにとっては何の障害にもならない。
峠を抜ければガーランド砦があり、もちろん軍が常駐しているのではあるが、峠を超えて知らせるのは不可能だ。距離も砦までは約2日もかかる。反対側の我々がやってきた方面の町はさらに遠方である。
視線は当然俺達に集まる。言わずもがな、討伐できないか? ということである。
だがそれは口にはされなかった。相手は軍が相手をしなければいけないような規模の魔物の群れだ。いくらBランクのパーティーとはいえ、単独ではどう考えても荷が重い。
「どうしようか」
「どうってやるしかないじゃない」
別にやるしかないってこともないと思うが。砦にいる軍に通報してきてもらうというのはどうだろうか。俺達ならフライで峠は飛び越せる。
「イナゴの規模はわからないけど、戦えば軍にもひどい被害が出るでしょうね。それでも殲滅できるかどうか」
軍にもメイジくらいいるだろうが、辺境の砦である。戦力がどれほど期待できるかもわからない。それに出動してくれるとしても、ここに来るまで片道2日はかかる。向こうに知らせる時間や、戦闘準備も考えれば3日か4日は確実にかかるだろう。
結局、俺らでやるのが早いし確実なのだ。
「とりあえず見に行ってみます」
「いくらBランクと言っても……」
その村人は懐疑的だった。イナゴの大群は五人くらいでどうこうできるようなものではない。下手に刺激して、こちらに引き寄せでもされたら困るということをやんわりと伝えられた。それよりも村人の避難の護衛をしてくれないかとお願いされた。
「大丈夫よ。私達に任せておきなさい!」
エリーさんはいつも自信満々である。だがそれを見て村人は余計に不安そうな様子を見せる。
「あー、まあ大丈夫ですよ。四人もメイジがいるんで火力だけは高いですから」
ちょっと多いくらいのイナゴなら問題ないだろう。
「うちはいずれSランクになるパーティーよ。イナゴくらい楽勝で殲滅してあげるわ!」
エリーの見立てによると、うちは火力だけならどのSランクパーティーにも引けを取らないそうだ。
だがうちはただでさえランク詐欺っぽい見た目なのだ。Sランクとか言うから余計に村人さんが引いてるじゃないですか、エリーさん……
アニメ化が決定しました。
嘘です。
ハロワに行ってきました。
これも嘘です。
働きたくないでござる。
ストックが貯まったのでしばらくは毎日投稿ができます。
大嘘です。
書籍化決定しました。
多分本当です。
書籍化によるダイジェストや削除はありません。
詳しくは割烹で。




