表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/351

80話 旅路①

 旅の初日は雑談をしたり、土魔法の練習をしたりしていた。


 2日目、土魔法がホコリっぽいと苦情を言われる。


「やるなら屋根にでも登ってやりなさいよ」


 土魔法の練習は必要ではあるんだが、しょせんは暇つぶしである。そこまでしてやりたくもない。


「やだよ。寒いし寂しいよ」


 サティを膝に抱えながらエリーに言い返す。寒いのでサティを抱っこして毛布をかぶって暖をとっているんだが、俺もサティもフル装備である。イチャイチャしようにも鎧がガチャガチャして、色気がないことこのうえない。


 それに馬車は俺達専用と言っても御者の人はいるわけで、あまり好き勝手をするというわけにもいかない。エリーはアンとティリカ相手に魔法を教えたりしているので、俺ほど暇をしているわけでもない。


 仕方ないのでサティと一緒に馬車の外の風景を眺めたりしているのだ。


「旅はもっと危険だと思ってたんだけどなー」


 森よりは危険は少ないだろうと思ったが、これはちょっと退屈すぎる。時折すれ違う馬車や旅人以外には、本当に何にも出てこないのだ。


 目の前にはのどかな田園風景が広がっている。初日は何もない平原を進んでいたのが、二日目あたりから村や畑が増えてきた。この時期は麦を育てているところが多いらしい。


「そりゃ安全な道を選んで移動するし、そういう場所には人が住んで、さらに安全になっていくの。シオリイの町とかゴルバス砦のほうが特殊なのよ」


 だが魔境側からいくつかの町で隔てられ、シオリイの町などに比べれば圧倒的に危険は少ないとは言え、魔物の侵入は常にある。畑はむき出しであるが、通り過ぎる町や村はどれも柵や壁で囲まれており、入り口にはもれなく門番が目を光らせている。みかける農夫が武器を持ち歩いてたりもする。


「心配しないでもすぐに危険地帯に入るわよ。今のうちにのんびりしておきなさい」


 初日は普通に町で泊まった。今日と明日もちゃんとした宿に泊まれるらしい。しかも費用は商隊の商人さん持ちで交渉済みだ。


「すぐっていつだよー」


「四日目くらいね。そこから先は野宿もあるわよ」


 それはそれで嫌なものがあるな。やっぱり退屈のほうがましなのだろうか。


「退屈なら本を読みましょう!」


 サティ。それは最悪の選択だ。ここらへんの道は石で舗装されているのだが、快適には程遠く、馬車はガタガタと揺れている。タイヤは木製。ゴムはないようだ。幸い俺を含めて車酔いにかかるものはいなかったが、さすがに本はきついだろう。


「酔うぞ?」


 サティはよくわかってないようだ。首を傾げている。ゴルバス砦に行った時は片道二日だったし、行きも帰りも人でぎっしりでそんな余裕もなかったからなあ。


「どうかしら? 私は平気なんだけど」


「平気」


「俺は絶対無理」


「私もだめかな。馬車酔いって回復魔法の効果があんまりないのよね」


 二日酔いは治ったけど、こっちは三半規管の揺れとかだしなあ。


「読んでみる?」


 アイテムボックスから本を取り出して、サティに渡す。最近はもう一人で読めるようになっている。平気かどうかは、とりあえず試してみればわかるだろう。


「はい!」




 三〇分後、サティはぐったりとしていた。やはり本はきつかったようだ。


「気持ち……悪いです……」


「もう一回ヒールかけてあげるから、もうちょっとがんばりなさい」


「鎧ももう脱いでいいわよ。もうすぐ次の町だし」


「おねーちゃん、脱がしてあげる」


「すいません、ご迷惑をかけて……」


 ヒールを何度かかけてやったんだが、やはりあまり効いてない。吐かないのがせめてもの救いだ。


「もうすぐ次の町なんですよね? どれくらいですか?」


 御者の人に聞いてみる。この人は商隊でも最年長のご老人で、さすがにこの年齢では女の子には興味がないようで、そういう理由でうちの馬車につけられたんだろう。


「そうさな。あと三〇分くらいじゃよ」


 それくらいならいけるか。


「町まで近いから俺がサティを連れて行くよ。ほらサティ、馬車から降りるぞ」


「それがいいかもね。この辺りだと危険はそうそうないだろうし」


「私も降りる」


「ティリカはそのまま乗ってて。フライでいくから」


「マサル、私も! 私も!」


 二人くらいなら別に平気か。


「サティが前でティリカが後ろな。落ちないようにしろよー」


 落ちたところで二人ともレヴィテーションは使えるから大丈夫だろうけど。


「じゃあ先に行ってる」


「ロボスさんに一言言ってから行きなさいよ」


 ロボスさんは商隊のオーナーで、先頭の馬車にいるはずだ。


 【フライ】を発動させ、馬車の後部から飛び立つ。くるりと反転して、馬車の先頭に並び、先に行って町の入口で待ってる旨を伝えると、速度をあげながらゆっくりと上昇した。ロボスさん、変な顔してたな。女の子二人くっつけて飛んできて、何事かと思ったんだろう。


「サティ、気分はどうだ?」


「風が気持ちいいです」


 前方を見ると、町が小さく見えている。俺から見ると、町というより村なんだが、町というなら町なんだろう。やはり周囲は壁で覆われており、周辺には畑が広がっている。


 フライは速くて楽でいいな。魔力の消費はきついけど、俺なら関係ないし。長時間使えないのが本当に残念だ。


「ずっと飛んで行けたらいいのに」


 サティがポツリと言う。ティリカも聞こえたんだろう。


「どらごが使えたら」


「それはやめとこう」


 また大騒ぎになったら困る。


「さっきはすごく気持ち悪かったです」


「そうだなー」


「明日は走って行ってもいいですか?」


 いや、だめだろう。そりゃサティなら余裕でついてこれそうだけど。


「やめときなさい。本を読まなきゃ平気なんだし」


「そうでしょうか……」


「普通にしてれば馬車酔いなんてしないから」


「はい……」


「また気分が悪くなったらこうやって運んでやるよ」


「はい!」


「私も!」


「はいはい。ティリカもね」

 

 それでサティの気分は良くなったみたいだ。声に元気が出てきた。


 そろそろ町に近づいてきたので、下にゆっくりと降りていく。


 勝手に中に入ろうとすると多分怒られる。怒られるくらいならいいけど、弓とか持ってるだろうしな。現に門番の一人が、こちらに気がついてじっと見ている。手を軽く振るとあっちも振り返した。まさかいきなり矢を撃ってくるようなことはあるまいが、友好的な態度を示しておいて損はない。


「降りるぞ」


「はい。なんだかお腹が空いてきました」


「町に入ったらどこか店に入ろうか。それか何か作る?」


「ラーメン」


「私もラーメンがいいです」


 あのパスタを使った偽ラーメンか。宿についたら厨房か庭でも借りて、久しぶりに作ってみるかな。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 三日目も似たような感じですごく暇だった。


「今日は気分が悪くなりません」


 サティが俺にそう報告してくれる。


「よかったじゃないか?」


 今日の抱きまくらはティリカで、サティは俺の正面に座っている。サティがこっちをチラチラ見てる。


「また飛びたい?」


 ティリカがそう言う。


 ああ、そうか。気分が悪くなったらって話だったものな。


「偵察。偵察に行くか、サティ。フライで」


「はい、行きましょう!」


 サティがぱぁと顔をほころばせる。


「ティリカは……」


「待ってる」


 ほんの五分の空の散歩だが、サティは大満足なようだった。ティリカもそのあと、同じように連れ出してあげた。エリーは自分で飛べるし、アンは興味なさげだ。アンはちょっと高所恐怖症の気があるのかもしれない。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 四日目。街道は森の中に入り、今までの田園風景とはがらりと様相を変えていた。


 そして馬車が八台に増えている。うちは相変わらず最後尾である。


「なんで馬車増えてるの?」


「同じ方向に行くんでしょ」


「なんかうちが護衛してるみたいな配置なんだけど」


「みたいじゃなくて、してるの。何かあったらついでに守るのよ」


 護衛料とかはもらってないのに、仕事を増やされたようで気分があまりよろしくない。今朝から警戒のために気配察知を常時発動しているのだ。


「助け合いは大事なのよ。それにいざって時は戦力にもなるし」


 不満が顔に出たんだろう。エリーがそう説明してくれる。確かに、商人の人たちもきちんと武装している。中には冒険者上がりの人もいて、何かあれば十分に戦力に数えられるだろう。


 しかし隊列が長くなるのはよろしくない。前方に対する気配察知の感知範囲が短くなる。サティにしてもがたがたうるさい馬車の中では、聴覚探知が半減していてあまり頼れない。


「サティ、偵察に行くか」


「はい、マサル様」


 昨日までと違って、今度は本当に偵察だ。サティもそれがわかって真剣な顔をしている。


「大丈夫だとは思うけど、気をつけてね」


 アンが心配そうに言う。残す方も多少心配ではあるが、最近はアンも棍棒術を上げて近接戦も戦えるし、ティリカの召喚もある。レーダー係にサティを置いていくのも考えたが、危険があるとすれば進路方向だろう。


 サティを抱えて、先頭の馬車の屋根に飛び移り、先のほうの様子を見に行く旨を伝える。


「この先広場があって、そこが休憩地点だ。そこまで見てきてもらえるか?」


「わかりました。何もなかったらそのまま広場で待機しておきますが、それでいいですか?」


 彼らも戻って報告しろとまでは言わない。一般的にフライはかなりの魔力を消費するのだ。


 ほんの数分でそれらしき場所にたどり着く。馬車で1時間だとしても、フライならあっという間だ。


「何にもいなかったな」


「はい」


 まだ町から出てそんなに経っていない。危険があると言ってもまだまだ先なんだろう。


「待ってる間暇だな」


 それで待ってる間の暇つぶしに剣の練習をすることにした。実剣でだ。サティは強い。軍曹殿よりは弱いんだが、俺よりも一段くらいは確実に上なのでそこそこ本気で打ち込んでも大丈夫なのだ。しかもサティは絶対に俺に攻撃を当てないので安心だ。それでも本物の剣でやるので緊張感が違うのだが。


 静かな森に剣戟の音だけが響き渡る。


 


「馬車、来ましたよ」


 しばらく経って、サティが戦いながら言う。


「もうちょっとやろう」


 馬車の接近は気配察知で感知はしていたが、いい汗をかいて楽しくなってきたのだ。


 だが、広場の手前で馬車が止まった。止まったまま動き出す様子がない。何かトラブルだろうか?


 練習を切り上げて馬車を見に行こうとすると、数人が馬車から離れてこちらへと向かってきた。すぐにファビオさん達の姿が見えた。


「戦ってる音がしたんですが、何かありましたか?」


 ファビオさんは中年で俺より年上なんだが、俺に対しては完全に敬語だ。旅の間にちゃんと誤解は解いたはずなんだが。


「あ……すいません。待ってる間暇なんで剣の練習を……」


 そりゃ進行方向で剣の音がギンギンしてたら警戒するよな。説明するとファビオさん達はほっとした様子で馬車のほうに戻っていった。


 馬車に戻るとエリーに怒られた。


「実剣で練習とか何考えてるのよ」


「いい時間潰しになると思ったんだよ……」


 サティも俺の横で耳をぺたんとしている。


「まあまあ、落ち着いてエリー。でも何かあったのかって心配したのよ」


「ごめんなさい」


「ごめんなさい」


 それでも先行しての偵察は有用なので続けることにした。商隊の人も喜んでいることだし、俺も退屈せずにすむ。とは言え今回の件で、連絡手段をある程度考えておかないとまずそうだと思い、ロボスさん達と相談してみた。


 もし安全が確保されてるなら休憩地点で狼煙を上げる。危険があるなら戻って報告するか、派手な魔法か戦闘音で知らせると、こんな感じになった。結構適当な気もするが、軍隊じゃないんだし、この程度でも十分なんだろう。召喚獣を使った連絡が一番確実なんだけど、召喚のことは当分秘密だと決めてあるし。


 しかし、改めて偵察に出るが、特に何も見つからない。森の奥のほうに行けば魔物もいるらしいが、街道沿いの魔物は排除済みということなんだろう。


 昼からの偵察のお供はティリカに交代である。これは真面目な偵察であって、別に空の散歩をしているわけじゃないんだが、実質そんな感じなので羨ましくなったようだ。それともたんに馬車に乗りっぱなしなのに飽きたのかもしれない。


 だが昼をすぎて、気配察知に引っかかるものがあった。反応は街道沿いに一。大きさから言うと、オークか人間だ。ほとんど動いていない。見つからないように森の近くまで高度を下げてゆっくり接近してみると、さらに六つの反応があった。やはり街道沿いに留まったまま動く様子はない。


「なんだと思う?」


 ティリカの意見を聞いてみる。


「盗賊」


「たった七人で?」


「小規模な商隊や、徒歩の旅人を襲うには十分な数」


「どうしよう?」


 馬車がここに来るまでは、まだ30分以上余裕がある。


「捕まえるか、殺す」


 殺すのか……捕まえるほうがいいな。魔物を殺すのは平気だけど、悪人だとしても人を殺すのはさすがに躊躇する。


「捕まえたらどこかに突き出すの?」


「そう。それで調べたあと、奴隷にする。売ったお金は捕まえた人が半分もらえる。賞金がかかっていることもある」


 奴隷とな。それなら半分だとしても結構いい収入になるんじゃないだろうか。


「離れている一人か一匹、まずは何か確認してみよう」

 

 ティリカもうなずいて賛同する。戻って報告するにしても、まずは何がいるか確認しておいたほうがいいだろう。


 盗賊と疑わしき反応から十分に離れたところで森に降り立つ。ティリカにはたいがを出してもらって距離を取って続いてもらう。こいつが魔物だったら話は簡単なんだけどな。魔法で吹き飛ばしてしまえばいい。


 視認できる距離まで近寄るとやはり人間だった。3mくらいの木の上の大きい枝に座って街道をぼんやり眺めている。腰に剣、肩に弓をかけている。皮防具らしきものはつけているが、ボロボロで薄汚れていて、冒険者ギルドなら立入禁止を食らいそうな不潔さだ。


 盗賊ってことで間違いないような気がする。街道を監視なんて一般人はやらないだろうし、どこかの組織だとしたら、こんなに小汚い人間は使わないはずだ。


 戻ってティリカに報告をする。


「捕まえて尋問するのがいい」


 仲間は結構離れたところにいるようだし、捕獲は難しくないだろう。サンダーで撃ち落せば地面はやわらかいし、最悪骨折くらいで済みそうだ。


 もう一度隠密で忍び寄る。


 念の為に、土魔法で地面を掘り返して柔らかくする。静かにやっているとはいえばれないか心配だったが、上のやつは暢気にあくびなんかしている。ちょっとイラっとした。


 弱めに魔力を込めたサンダーを撃ち込んでやると、そいつは声も上げずにぽとりと落下した。威力の調節はうまくいったようで、目を見開いてあうあう言っている。しびれて動けないし、喋れないんだろう。


「大人しくしてろ。口を開くな。面倒かけるようならこの場で殺すぞ?」


 ショートソードを突きつけて脅すと静かになった。 


 もしこいつが罪のない人間だったらどうしようとは思ったが、どうみても見た目からして犯罪者だ。まあ違ったらその時はその時だ。


 出してあったローブで捕縛しようとして、ひどい匂いに気がついた。こいつどんだけ風呂とか入ってないんだ……? 浄化をかけてやると多少きれいな感じになったので、改めてロープで縛り上げる。念の為に足を土魔法でがっちりと固めると、レヴィテーションで持ち上げてティリカのいるところへと向かった。

次回の更新日は未定です。





誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

ご意見ご感想などもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ