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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第四章

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75話 拾ったら責任をもって最後まで面倒をみましょう

「ところで、そこの名前も知らない人はどこまでついてくるつもりだ?」


 ここはまだ草原。町に向かって歩いているところである。


「やだなあ、兄貴。弟子にしてくれるまでに決まってるじゃないっすか。あと俺の名前はウィルっす」


「魔法は家庭教師とかにダメ出し食らったんだろ?」


「家庭教師はやればできる、がんばれって言ってくれたっす」


 金もらって教えてる貴族の子弟に諦めろとは言えないよなあ。だからおれが言ってやろう。


「諦めろ。無理なものは無理だ」


「サティさんは獣人なのに魔法が使えるんすよね? 誰に習ったんすか?」


「マサル様です」


「やっぱり! 兄貴はすごいっす。俺にもぜひご教授ください!」


「別に魔法とか使えなくても大丈夫だろ?ほとんどの人は使えないんだ」


 魔法使いの人口は大体十人に一人だと言われている。九割が使えないんだから、気に病む必要なんかどこにもないと思うんだが。


「そりゃあね。家族は別に使えなくてもいいよって言ってくれるんすよ。でも一族みんな魔法使える中でおれだけ使えないって、どれだけ肩身が狭いかわかります?この悲しさ」


 なんか聞いてていたたまれなくなってきた。おれも実家では肩身が狭かったんだよな。そりゃうちも家族は優しかったさ。でも時々ちくりと言われるんだよね。働かないで食べるご飯は美味しい?って。


「あー、うん、そうだな。わからないでもない。でもな、必死で覚えた所でサティみたいにちょっとしたレヴィテーションとかライトくらいなもんだぞ?」


「それでもいいんすよ! 使えるってことが大事なんす。サティさんならわかりますよね?」


「魔法が使えるようになってすごく嬉しかったですよ」


「でしょ! でしょ! だからね、兄貴。お願いしますよう」


「だめなもんはだめだ。大体、冒険者やりながら教えるとか無理だから」


「パーティーの端っこにでも入れてもらえれば、雑用でもなんでもなんでもやるっすよ!」


「雑用は私のお仕事ですよ」


「え、じゃあ荷物持ちとか」


「お前さっき倒したオーガ、何匹持って帰れる?」


「ぜ、前衛をやるっすよ! これでも腕にはそこそこ自信あるんすよ」


「じゃあ腕を見てやろう。サティ、ちょっと相手をしてやってくれ」


 サティみたいな小さい子にボッコボコにされればさすがに諦めるだろう。


「はい、マサル様」


 これを使えと、アイテムボックスから木剣を二本出して渡してやる。


「サティに勝てたら考えてやる。木剣だし、おれは回復魔法も使えるから遠慮はいらんぞ」


「サティさん大丈夫なんすか?」


「構わんから本気でやれ。な、サティ?」


「訓練場でいつもやってますから。本気でお願いします、ウィルさん」


「わかったっす」


 木剣を構えて対峙する二人。ちなみに今の場所は町の壁がかすかに見える位置である。遊んでいても危険はまずないだろう。


「はじめ!」


 ウィルがまずは軽く打ちかかる。やはりというか、手加減をしている。サティはそれを余裕でかわすと木剣をウィルの首筋につきつけた。


「本気でとお願いしましたよ」


 訓練場でもサティは最初は大抵手加減をされる。普通はこんな小さい子に本気で打ち掛かれない。それでこんなやり取りが何度も繰り返されたのだ。


「わ、わかったっす」


 ウィルは今度はかなり強く攻撃を加えるが、二発三発と軽くいなされサティの一撃を胴に食らった。


「それで本気なんですか?」


 ここらでやっと目の前の少女が尋常な相手でないことに気がつくのだ。だが気がついたところでどうにかなるというものでもない。サティの腕はもはや軍曹殿以外には負けなしだ。そしてそのサティに勝てる軍曹殿が恐ろしい。あの人、一体どれだけ強いんだろうか。


 ウィルも今度は本気で、必死にサティに打ち掛かるが全くといっていいほど相手にはなってない。サティは受けに徹しているが、ウィルの攻撃がかする気配もない。


 だがウィルの剣の腕は思ったよりも悪くない。力があるし、基本もきっちりとできている。これならオークの相手くらいならできるだろう。


「サティ。もういいぞ」


 見るべきものは見たのでサティにそう告げる。その瞬間、サティがウィルの木剣を跳ね上げて、ウィルを打ち倒した。


「大丈夫か?」


 起き上がってサティに打たれた部分をさすっているウィルにヒールをかけてやる。


「ありがとうっす、兄貴。でも、あの、サティさんってすごく強くないっすか?」


「お前じゃ百回やっても勝てないだろうな」


「マサル様はもっと強いですよ!」


 サティがそう主張する。だがそれはどうなんだろう? 剣術は同じレベル5だけど、全く勝てる気はしない。魔法を使えばなんとかなるかもしれないけど。


「マジっすか……」


「大体な、うちはBランクのパーティーだぞ?さっきのオーガみたいなのを相手にするんだ。お前じゃ無理だ」


 Bランクはエリーだけだけど、今回おれとサティもBには上がりそうだし間違いでもないだろう。


「そんなあ」


 涙目になっているウィルがちょっと可哀想だが、実際問題うちのパーティーの前衛稼業は過酷だ。おれですら何度も怪我を負い、時には死の危険にさらされた。うちのメイジの高火力をかいくぐってきた魔物を相手にするのだ。ウィルの腕では生き延びられないだろう。


 奴隸にして加護を与えるという方法もないではない。だがそれが機密情報だという点を除いても、貴族のボンボンであるこいつを奴隸にするというのは無理がある。こいつの親にばれたら絶対にトラブルになるだろう。


「さあ、もう町が目の前だ。帰るぞ」




 そしてそのまま無一文なウィルを見捨てるわけにもいかず連れてきたんだが、正直どうしたものか。拾った以上、飼うつもりはないにしろ身の振り方が決まるまでくらいは面倒は見ないと寝覚めが悪い。


「お金貸してください、兄貴。あとで絶対返しますから」


「いいけど、返すあてはあるのかよ?」


「なんとか稼いでみるっす。だめだったら、実家を頼ろうかと」


「稼ごうとして森に突っ込んで死にかけたんだろ? それに実家ってどこにあるんだよ?」


 近所だったら即追い返そう。それがこいつのためだ。


「帝国のほうっす」


 帝国だと遠いな。追い返すのはちょっと無理そうだ。


「家出してきたのにどうにかなるのか? だいたい家出とか家族が探してるんじゃないのか?」


「おれの家、兄弟が多くて俺は末っ子なんすよ。だから家を継ぐとかは関係ないし、わりと自由にやらせてもらってたんす。家を出るときも仲のいい兄にちゃんと話してから来ましたから」


 こいつを探しにきた家族とトラブルとかそんなことはなさそうだ。


 金を貸すのは別に構わないが、それでどうにかなりそうもない。お金が尽きたらまたタカリに来そうな気がするし、無謀なことをされて死なれでもしたら気分がよろしくない。初心者向けの金稼ぎとかおれは全然知らないしな。うん、こういうときは偉い人に相談だ。具体的には軍曹殿がいい。


 町の東門を通る時、いつもの門番の兵士に声をかけられた。


「マサル! 森を通ってゴルバス砦まで行ってきたんだって? いま嫁さん達に聞いたよ。戦果はどうだったんだ?」


「ええっとですね。またハーピーの巣とオークの巣がありましたよ。他はまあぼちぼちですね」


「ほう。もちろんそいつらは倒してきたんだろ?」


「もちろんです。一匹たりとも逃がしてません」


「そうかそうか。ちょっと前まで野うさぎばっかり狩ってたのに立派になったもんだ。やっぱり嫁さんもらうと違うのかね?」


「そりゃね。がんばろうって気にもなりますよ」


「違いない。美人さんばっかだもんな。おっと、疲れてるだろうところ引き止めて悪かったな。通ってくれ」




「ちょっと冒険者ギルドに寄って行こう。軍曹殿に挨拶しておきたい」


「じゃあ私もドレウィンに会ってくる」


「あの、兄貴。嫁ってのは?」


「ああ。嫁だよ。四人とも」


「四人ともっすか!? さすが兄貴っす! うちの親父でも三人だったっすよ」


 それでも三人か。こいつの家ってどれくらいのとこなんだろうな。


「お前の実家ってどの程度の貴族なんだ?」


「ええっとですね。結構大きくて由緒もあるようなとこですよ。だからですね、お金を貸してもらえたら絶対に返すっす」


「まあそのことは後でな。とりあえず、おれは人と会うからお前はそのあたりでぶらぶらしてろ」


 冒険者ギルドについたのでウィルをギルドホールに置いて、まずは受付のおっちゃんに挨拶に行く。


 一通り挨拶をかわし、換金はまた後日だがギルドカードの討伐記録を見せ、大雑把に戦闘報告をする。ティリカはサティと一緒にドレウィンを探しに行った。


「ハーピーにオークの巣か。あとで位置も詳しく教えてもらえるかい」


「はい。ところで軍曹殿に話があるんですが」


「そうそう。そのことでね。マサル君に頼みがあるんだよ。実は明日から初心者講習会があってね。ちょっと治癒術士が足りないんだよ。遠征から戻ってきたばかりで悪いんだけど頼めないかな? そんなにきつい仕事でもないし」


「ということは軍曹殿はそれにかかりっきりってことですよね」


「そうなるね」


 初心者講習会は一週間もある。軍曹殿に鍛え直してもらおうと思ったのに、なんとタイミングの悪い。


「期間が長いですし、返事はみんなと相談してからでいいですか? たぶん大丈夫だとは思いますけど」


「もちろんだよ。返事は明日でいいからお願いするよ。ああ、ヴォークト殿なら訓練場だと思うよ」




 訓練場に行くとすぐに軍曹殿が見つかった。


「おお、マサル。無事に戻ったか」


「はい、軍曹殿。それで明日からアレがあるとか。いま治癒術士を依頼されました。受けるかどうかは家族会議をしてからになりますが」


「うむ。マサルが参加してくれるなら治癒術士のやり繰りが楽になる」


「それでですね。おれも軍曹殿に頼みがあるのですが」


「なんだ。言ってみろ」


「剣をじっくりと鍛え直したいのです」


「ふむ。それならば毎日、初心者講習会が終わったあとに指導をしてやってもよい」


「よろしいので?アレの指導はかなりきついと思いますが」


「なに、声を張り上げておるだけだ。それほどきつくもない」


「そういうことなら、ぜひお願いします。治癒術士の方もお任せください」


「わかった。みっちりと鍛えてやろう」


 おっと、大事なことを忘れていた。


「実はですね……」


 ウィルを森で拾ってきたことを話す。


「ちょうどいいからアレにどうかって思うんですが」


 このタイミングの初心者講習会はまさしく天啓。ウィルのために用意されたようなものじゃないかって気がするほどだ。


「いいだろう。そいつも連れてくるがいい」


 可哀想だが、これはウィルのためだ。ためなんだ。




「兄貴。用事は済んだんで?」


「うん。それでな、ウィル。ギルド主催の初心者講習会というのが開催されるんだが、参加してみないかね?」


「はあ。初心者講習会っすか?」


 ウィルがよくわからないと言った顔をしている。


「そうだ。明日からなんだが、今日はうちに泊めてやるから参加するといい」


「ほんとっすか!? します。参加するっす!」


「そうかそうか。しっかり学んで来いよ」


「はい、兄貴!」


 これでよし。こいつが初心者講習会を生き延びた暁には、きっと立派な冒険者になっていることだろう。




「初心者講習会って何をやるんすか?」


 家への道すがらウィルがそんなことを聞いてくる。


「そうだなあ。期間は一週間。初心者に冒険者のノウハウをみっちりと教えてくれるんだよ。しかも費用はギルド持ちだ。その間の食事も宿泊も全部な」


「へー、太っ腹っすねえ。でも一週間もあるんすか」


「学ぶべきことは多いぞ。おれも参加したが一週間でも足りないくらいだった。今でもその時の指導教官に時々教えを請いに行ってるほどだ」


「兄貴も参加したんすか。魔法も教えてもらえるんすかね?」


「残念だが魔法はやらんな」


 ウィルはちょっとがっかりしたようだが、おれも参加したということでやる気が出たようだ。


「おれもいつか兄貴みたいに、オーガを一撃で倒したりできるっすかね?」


「いつかはな。とりあえず目の前の初心者講習会をしっかりこなしてからだ」


 希望を持つことは大事だし、こいつはまだ若いんだから将来どんな剣豪にならんとも限らんしな。


「がんばるっすよ!」


「おう、がんばれ」


 ウィル君には是非とも、死ぬほどにがんばって欲しいものだ。




 家に帰ると、中はすっかり綺麗になっていた。ウィルは一旦庭にステイさせてある。


「よく考えたら掃除なんて必要ないのよ。魔力が余ってるんだし、一気に浄化してやったわ!」


「掃除くらいできたほうがいいわよ。いつでも魔力があるって限らないんだし」


 そうアンが苦言を呈する。おれも部屋の掃除とかは浄化で済ますからこの件に関しては口を出せない。便利な魔法が使えるならそれでいいと思うんだ。


「平気よ。全員魔力切れなんて状況絶対にあり得ないわ」


「まあいいけど。みんな戻ったことだし、ご飯の用意をしましょうか。マサル、材料をお願い」


「ウィルも連れてきたんで、その分も頼む」


 アイテムボックスから食材を出しながら言う。


「何、マサル。あいつ連れて来ちゃったの?どっかに捨てて来なさいよ」


「無一文なんだし、そういうわけにもいかないだろ?今日だけだから」


「いやよそんなの。久しぶりに上の部屋でゆっくりできるのに」


「じゃあ、庭ならいい?食事だけ食べさせてやってよ」


「それならまあいいわ」


 ウィルには庭に土魔法で小屋を作ってやることにしよう。


「あと明日からの話なんだけど」


 初心者講習会で治癒術士のバイトすることを説明していく。


「休みの予定だし、別にいいわよ。でもなんで治癒術士が足りないって話になるの?」


「みんなは知らないのか……これはここだけの話にして欲しいんだけど、初心者講習会というのは駆け出し冒険者をひたすら鍛えるっていう企画なんだよ。倒れるまで訓練して、回復魔法をかけてまた訓練する」


 初心者講習会の模様をさらに詳細に語っていく。隷属の首輪に関してはさすがに伏せた。


「うわあ。マサルもそれやったんだ」


「うん。初心者講習会なんて名前がついてるのは、酷い内容を隠すためでね。みんなも黙っててね。広まっちゃうと初心者の冒険者に警戒されちゃうから」


「そう。そういうことなら一晩庭を貸すくらいならいいわよ。明日からはギルドの方で面倒を見てくれるのよね?」


「向こうで泊まりこみだね。というか、監禁されて外には出れない」


 隷属の首輪をつけるから逃げたりはできないんだけど。




 話がついたので庭に出て、大人しく待っていたウィルに声をかける。


「悪かったな、長いこと待たせて」


「いえ、平気っすよ」


「もうすぐ夕食できるから食わせてやる。それから泊りは庭な」


「え?庭ってなんもないっすよ……?」


 ウィルが庭をぐるっと見渡して不安そうに言う。季節は冬である。野宿はきついだろう。


「今から作るんだ。おれの土魔法は見ただろう?お前専用の立派な離れを作ってやろう」


 気分は犬小屋作りなんだが、ものは言い様である。案の定、ウィルは感激しているようだ。


 配置やサイズの考えがまとまったので土魔法を発動させる。地下室は深めに作ってあるので多少は土を削っても大丈夫だが、あとで補強をしておいたほうがいいだろう。


 すぐに六畳ほどのサイズの小屋が完成する。扱う土の量が少ないので見た目よりは簡単にできた。


「あっという間にすごいっすねえ」


「丈夫に作ったから雨や風程度ではびくともしないはずだ。窓もないが、寒いよりはいいだろう。入り口も小さめにしておいた。あとはベッドだな」


 中に入って、ベッドも形成する。そこにアイテムボックスに大量に入っている野うさぎの毛皮をひいてやり、毛布をかける。あとは入り口を塞げば完成だ。犬小屋にしては立派だな、うん。


「おれのためにありがとうっす、兄貴!」


「おう。気にするな」


 明日にはこいつの首には立派な首輪が付けられるのだ。ちょっとくらい優しくしてやろうという気にもなる。


「さあ、そろそろご飯もできてる頃だ。今日は色々あって疲れただろ。たっぷり食って明日に備えて休むといい」


「はい、兄貴!」


次回は6/1の予定です



ブートキャンプに突入するウィル君。

「兄貴!なんスカこれええええええええ」

「治癒術士殿に掴みかかるとはどういうつもりだ、貴様! 罰として荷物増量だ!」

「うわあああああああああああああ」



誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

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