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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第四章

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69話 vsオークキング

 オーク集落の残骸から出発しようとすると、サティが人の気配が近づいてくると言う。こんなところまでやって来る人間と言ったら冒険者くらいだろう。たいがを消し少し待つと、おーいと遠くから声がかかった。見ると数人の冒険者が歩いてくる。


「やっぱり冒険者ね。獲物がかち合ったのかもしれないわ」


 警戒はしつつ、武器は下ろして冒険者を待つ。向こうも武器は持っているものの構えてはいない。数mの距離をおいて相対する。数は4人。皆若い。駆け出しの冒険者だろうか。ちょっと装備がくたびれている。男が三人に女の子が一人。そのうち一人が進みでた。


「これは君たちが?すごい音がしたんで確認しに来たんだよ」


「そうよ。もしかしてあなた達もオークを狙っていたのかしら?」


「たまたま見つけてね。どうしようか相談してたところだったんだ。見ての通りうちは4人だ。とてもじゃないがオークの集落なんて相手にはできないよ」 


「そう。ならよかったわ。用件はそれだけかしら?」


「あー、自己紹介がまだだったね。おれはパーティーカグールのリーダー、アルビンだ」


 そう言ってギルドカードを見せる。Dランクか。


「サムライのリーダーマサルです」


 こちらも同じようにいつも首からかけているカードを見せる。おれの今のランクはCだ。アルビンはちょっと感銘を受けたようだ。たぶんおれを見て年下だと思って、ランクが自分より上だとは思わなかったのだろう。あのラザードさんですらCランクなのだ。ランクごとの差というのはかなり大きい。


「それで少し話があるんだけど。君たちはこの後ゴルバス砦へ?」


「そのつもりよ」


「よかったら一緒に行ってもいいだろうか。その、思ったより少々敵が多くてね」


 なるほど。見れば4人ともえらく疲れた様子をしている。


 話によると、ここまではなんとか敵を撃退しつつ来たものの疲労が大きい。そこにオークの集落を見つけ、引き返してギルドに報告をいれようと相談していたところに、轟音がして見に来てみればおれ達がいたということだ。


「ちょっと相談するわ」


 エリーがそう言って、冒険者達と距離を取る。


「どうする?足手まといが居たんじゃ今日中に砦とか無理だぞ」


 頭をつき合わせて相談を始める。


「だからって放っては置けないでしょ。連れてかえってあげましょうよ」


 アンがそう主張する。


「そうすると野営ってことになるけど」


「地下室よりはいいわ。それにいずれこういうことは起こることだし、練習だって思えばいいのよ」


 一番反対するかと思えたエリーも賛成に回った。そんなに地下室で寝るのが嫌なのか。


「こういう時は冒険者同士助け合うものなのよ。いつこっちが助けられる側になるかわからないんだから」


 なるほど。助け合いは大事だな。異世界はもっと殺伐としてると思ってたが案外そうでもないらしい。


「じゃあ2日間くらいならいいか。ティリカはどう思う?」


「嘘は言ってない」


 ティリカはエリーよろしく、茶色いローブを着ており、フードをすっぽりとかぶっている。注意して見ないと魔眼持ちだとはわからないだろう。


「一応怪しいところがないか注意しておいてくれ」


「わかった」




「では砦まで一緒に戻りましょうか」


「本当かい!助かるよ」


 おれがそう言うとアルビンはほっとした顔をした。そんなに辛ければやばいと思った時点で引き返せばいいのにと思う。


「ええ、困ったときはお互い様ですから」


 近くに荷物を置いてあるという。とりあえずそれを取りに行くことにした。アイテムボックスは使えないそうで、荷物は最小限に抑えてはいるが、獲物が結構な量である。持てるのかと思うほどだったが、四人で分担して全部背負って見せた。これじゃ移動も疲れるだろうな。


 見かねてエリーが獲物を自分のアイテムボックスにいれることを提案すると、たいそう喜ばれた。


「やっぱりアイテムボックスがあると違うね。僕もそのうち覚えようとは思ってるんだけど、空間魔法は難しいって言うしなかなかね。有能な魔法使いがいて羨ましいよ」


 エリーは褒められてドヤ顔である。うちのパーティーだと全員魔法が使えるし、アイテムボックスはおれの方が優秀だしで、最近はこういうのがなかったからよっぽど嬉しかったんだろう。ずいぶんとご機嫌である。




「君たちは砦の防衛で見たことがある。第二城壁にいたよね?」


 歩きながらアルビンが話しかけてくる。エリーとサティを見かけていて覚えていたらしい。この二人は可愛いし目立つからな。おれ?地味だし城壁に居た時は気配を殺してたから覚えてないのも無理はない。装備もあの時とは違っているし。多分はしごを潰して回ったメイジと言えばわかるんだろうけど、わざわざ言う必要もないしな。


 彼らは王国軍が到着した後も残って、周辺の魔物の討伐をやっていたそうである。それで近場の魔物が減ってきたので森に足を伸ばしてみたのだが、思いのほか魔物が多かった。


「森は危険だと聞いてはいたけれど、僕達の予想以上でね。特に夜がきつかった。何度も襲撃があって寝る暇もない。森を抜けてきた君達はすごいよ」


 彼らはDランク。駆け出しとは言えないレベルだ。夜がきついとは言いつつ、ほとんど無傷で切り抜けているあたりはそこそこ有能なのだろう。そのあたりの苦労話を相槌を打ちながら聞いてやる。おれは家に戻って寝るからその辺りの話は興味深い。


 やはり進むか引き返すかは揉めたそうだが、結局は進むことにしたそうだ。Dランクともなれば森の攻略くらいできてしかるべきという考えだ。命よりも面子が大事なのかと思ったが、多少の寝不足を堪えれば予定を完遂できると計算したらしい。


 それにしてもこいつはよく喋る。行軍中だっていうのがわかってるんだろうか。


 いまの隊形はサティを先頭にうちのパーティーが前、こいつのパーティーが殿軍を務めている。彼らが後方を警戒してくれているのだが、探知があるからさほど意味はない。


 そしてたいがやほーくはもちろん、ゴーレムも出さずに全員歩きである。ゴーレムくらいいいだろうと思ったが、冒険者としての尊厳に関わるとエリーは考えたようである。要はゴーレムに運ばれて行くのは格好悪いと。ほーくの偵察に関してはもうすぐ森を抜けることだし、彼らが来た道を引き返せば大丈夫だろうとの判断だ。召喚獣は色々と説明が面倒だし、見せないで済むならそれにこしたことはない。


「集落を破壊したのは魔法だよね?跡形もなくなっていたけど」


「うん。まあそうだよ」


「ああ、すまない。詮索するつもりはなかったんだ。ただ、大規模魔法ってあまり見る機会がなくてね」


「その辺りのことは、ほら、わかるだろ?見たことも言わないでいて欲しいな」


 魔法使いはパーティーでの戦力の中核である場合が多い。その情報を秘匿するのはごく普通の行為だ。特にうちは色々とやばい。この程度の情報なら問題ないとはいえ、広まらないに越したことはない。


「ああ、もちろんだよ。世話になるんだし、迷惑をかけるような真似はしないよ」


 しばらくそんな感じで雑談しながら進む。ペースは彼らの疲労も考えてゆっくり目だ。そして砦のその後も色々聞けた。第三城壁の建造は順調に進んでいるそうだが、範囲が広いために完成するのは大分と先になりそうだ。魔境は落ち着いており、王国軍は徐々に撤退を始めている。住民はほぼ戻ってきており、城壁建造の人員が増えたくらいで、砦はおおむね襲撃前の状態を取り戻しつつある。




 ぽつぽつと雑談をしていると先頭のサティが立ち止まった。隊列もそれに合わせて停止をする。サティが耳をぴくぴくさせて前方を伺っている。


「何かこっちに来ます。たくさんです。オークだと思います」


「あの集落のオークかな」


「こっちに向かっているならそうでしょうね。数はわかる?」


「二十か三十か。もっとかもしれません。多くてわかりません」

 

 エリーの問いかけにサティがそう答える。


「三十!?急いで逃げないと!」


 三十と聞いて、アルビンが焦って言う。他の三人も慌てて周囲を警戒しだした。


「まだ距離があるから平気だよ」


 おれの探知にはかからないからまだ結構な距離がある。


「そうなのかい?」


「サティは耳がいいからかなり遠方から敵を発見出来るんだ」


 それを聞いてほっとした様子だ。


「でも三十もいるって、どうするんだい?」


「倒すのよ。当たり前じゃない」


「そうだな。この辺りに潜んで不意を打つ。うちのパーティーが魔法で奇襲攻撃するから、撃ち漏らしがいたら対処をお願いしたい」


「本当にやるのかい?」


「オークの集落を見ただろう?大丈夫だ」


「わ、わかった」


 エリーはやる気だし、ろくに相談もしないで戦うことを決めたが、オークなら数がいたところで問題ない。


「ティリカ、頼むぞ」


 それだけで言いたいことは伝わり、ティリカがこくりとうなずく。いざとなればどらごを出して蹴散らせばいいのだ。


 まずは三m級のゴーレムを四体出す。今のところ、これ以上の数はうまく操作ができない。ならもっとでかくしてもいいのだが、ここは狭い森の中。これ以上のサイズだと行動が制限される。


「どうする?オークの数がかなり多い。おれ達だけでもやれるから今のうちに退避してもいいけど」


 どっちかというと、逃げてくれたほうが楽に戦えるんじゃないかと思って聞いてみる。それにオークの集団と戦うのに、今日会ったばかりの人を付き合わせるわけにもいかない。まともに考えたらこの人数で三十を相手にするのはきついだろう。


「オークの数が多いんだろう?少しでも戦力はあったほうがいい」


 ちょっと悲壮な顔でアルビンがそう言う。さすがに逃げてくれとも言えないし、そのまま手伝ってもらうことにする。


「わかった。オークに接近されたらゴーレムを盾に戦ってくれ」


 準備をしているうちにおれの探知にも敵がかかる。ちょっとまずいかもしれない。数が多い上に、隊列が伸びている。偵察という概念がないのだろうか、集団から先行しているようなのがいないのが幸いだ。


「エリー、五十以上はいそうだ。それに隊列が縦に伸びてて一撃で殲滅とはいきそうにない」


「五十以上ね。でもオークだけなら問題はないはずよ。先手を打って減らせるだけ減らせばあとはどうにでもなるわよね?」


「うん、そう思う」


「出し惜しみはなしで行きましょう。オーク集落を破壊した魔法でいいわね?」


 エリーのレベル4に他の三人がレベル3の範囲魔法を使う。風と水系統だ。相変わらず火魔法の出番はない。


 魔物の動きを探知で観察し、潜伏地点を決める。敵がそのまままっすぐ進めば隊列を横から突けるはずだ。


 藪にじっと身を隠し、魔物の到来を待つ。


「もうすぐ見えるはずだ」


 横に控えて戦闘の準備をしているアルビンが緊張した面持ちでうなずいた。アルビンと仲間たちは五十以上と聞いてもこちらの作戦を一通り聞くと一緒に戦うことに決めた。集落を破壊した魔法を使うので勝算は十分あるというこちらの言葉を信じたのだろう。


 オークの集団がやって来るのが見える。改めて数えてみると七十ほどだった。巣に居たのが留守番でこちらが本隊ということなのだろう。数が多いのでガサガサと騒がしい。だがどうやら予想通りの位置を通過するようだ。そしてこちらに気づく様子は全くない。


 じりじりとしながら攻撃開始の合図を待つ。オークの隊列はおれ達の前に横っ腹を晒しているが、やはり少々隊列が長い。戦闘は覚悟しないとだめだろう。


 エリーが手を上げ、そしてさっと下げた。詠唱開始の合図だ。順次詠唱を開始し、四人の魔法が一斉に炸裂する。森に轟音が響き渡り、風と氷の嵐が巻き起こり、木々が倒れる。


 やはり視界に入るだけでも数匹、生き残っている。森の木で威力が殺されたせいもあるのだろう。すかさず生き残りに魔法を打ち込む。サティやアルビンのパーティーからも矢が飛びばたばたとオークが倒れていく。


 ようやく生き残りがこちらに気がついた。吠え声を上げ、突っ込んでこようとしてくる。集団の最後方部分のオークが魔法の範囲から外れ、かなり生き残っていたのだ。しゃがませて隠してあったゴーレムを立ち上がらせる。だがそれも必要なさそうだ。エリーの風魔法がオークのど真ん中に炸裂した。


 終わったか?そう思って周りを見回すと一匹のオークが、斧を構えてこちらに接近してくるのが見えた。近い。いつの間に接近されたんだ!?ゴーレムをオークの進路を塞ぐように移動させる。アルビンは既に気がついていてゴーレムに続いた。


 ゴーレムがオークと接触をする。ゴーレムでオークを殴ろうとするがかわされ、斧で胴を攻撃される。しかし生命のないゴーレムだ。その程度では怯まず、もう片方の手で殴ろうとするがそれもあっさりかわされる。今までみたオークと明らかに違う俊敏さだ。そしてオークが斧を上段に振りかぶり、ゴーレムを袈裟懸けに切り裂いた。ダメージを受けてゴーレムがただの土くれに崩れ去る。


 だがゴーレムの稼いだわずかな時間で十分だった。オークの肩に矢が刺さり、さらに魔法が命中する。


「やったか!?」


 しかしオークは気にした様子もなく斧を振るい、オークを倒そうと近寄ったアルビンが吹き飛ばされた。オークは次に近いおれに向き直ると襲いかかってくる。瞬時に彼我の距離を詰められる。やばい、こいつ上位種だ!


 他のオークよりも格段に大きい体に、それに見合う巨大な斧。装備も兜をかぶり、プレートアーマーを上半身に着込んでいる。体には数本、矢が刺さっているがものともせず斧を振りかぶる。


「エアハンマー!」

 

 隙だらけの胴体に風弾を打ち込む。オークは一瞬ぐらりとよろめいたが、そのまま斧を振り下ろした。おれはそれをすんでのところでかわし、剣を横薙ぎに払う。オークの腕を切り裂くが、腰が引けており浅い。オークはそのまま一歩踏み込んで、カウンター気味に巨大な拳を突き出した。オークのリーチが長い上に、剣を振るった直後で回避が間に合わない。


 とっさに盾で防いだものの、吹き飛ばされ後ろの木にたたきつけられる。意識が飛びそうになるのをこらえて立ち上がる。目の前に巨大なオークがいる。そいつは斧を振りかぶる。避けようにも体が思うように動かない。やばい。あのでかい斧を食らったら死ぬ……そう思った次の瞬間。オークが首から血を吹き出し、どうっと倒れた。


「マサル様!」


 倒れたオークの向こうにサティが剣を構えて立っていた。


「サティか。助かった……」


 倒れそうになったところをサティの手で支えられる。


「敵は?」


「何匹かは逃げられましたが、こいつで最後です」


 倒れたオークを見ると綺麗に首が切り落とされている。ゴーレム、あんまり役に立たなかったな。時間稼ぎくらいにはなったが、それだけだ。ゴーレムを動かすくらいなら、魔法を詠唱したほうがよかったんじゃないだろうか。レベル3の爆破でも食らわせればこいつもさすがに即死だろう。だけどその場合、ゴーレムで稼いだ時間がなくなるのか……


「マサル、大丈夫?」


 エリーもこちらに来た。そういえばぶつけた背中や腕とかが痛い。あ、アルビン!アルビンは大丈夫か!?


 見るとアンがアルビンに付いている。アルビンは上半身を起こしていた。どうやら無事のようだ。よかった。死んだかと思った。アンがこちらを見たので、大丈夫だと手を振っておく。


「ほら、ヒールかけてあげる」


 エリーのヒールをもらい、ようやく頭がはっきりしてきた。疲れがどっと押し寄せ、その場で座り込む。


「こいつ、上位種だな」


「オークキングかしらね」


「えらく強かった。ゴーレムが三秒で倒されたぞ」


「やっぱりゴーレムだけじゃ問題あるのかしら……」


 そうかもしれない。ゴーレムはパワーはあるが、スピードがない。オークキングの速度に全く対応しきれてなかった。


「とりあえず回収するか」


「私がやっておくからマサルはそのまま休んでなさい」


「うん」


 サティが側について心配そうに見ている。


「ありがとう、サティ。命拾いをしたよ。他の皆は怪我はしてない?」


「はい。マサル様以外は大丈夫です」


 そうか。なんか毎回おれだけ負傷しているような気がする。嫁の誰かが怪我をするよりはいいんだが、ちょっと戦闘スタイルを見なおしてみたほうがいいかもしれないな。


 


次回投稿は5/14の予定です。



次回、夜の森で(仮)



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