表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/351

68話 森と地下室の一週間

「うちに足りないのは前衛だと思うのよ。それも盾職ね」と、エリーが言った。


 今はハーピー戦を終えて家の地下室に帰還したあと。簡単な食事と身繕いをして、一番広い部屋に集まっている。


「おれもそう思う。戦いながらだとゴーレムすら操作できない」


 別に狙って作ったわけではないから仕方がないが、そもそも全員が遠距離と言うのがおかしい。ゴーレムでカバーできるかと思ったが少々無理があったし、どらごをほいほい出すのも支障がある。


「マサルが自由に動けないのは問題があるわ。うちの一番の戦力だもの」


 エリーが続けて言う。


「ルヴェンさんって魔法学校に行ったんだっけ?」


 ルヴェンさんはエリーの元パーティーメンバーで盾持ちの戦士だ。ドラゴンの体当たりでふっ飛ばされても、ブレスを食らっても立ち上がる頑強な盾職である。


「そうよ。王都の魔法学校ね。入学は春になるんだけど、試験もあるから勉強してると思うわよ。ルヴェンが入ってくれれば最高だけど、魔法を習いたがってるのを邪魔するのもね」


「ギルドに行ってメンバー募集をするか、奴隷を買ってきて仕込むか」


 しかし加護のことを考えると好きに強化のできる奴隸のほうがいいよな。秘密保持も楽そうだし。


「また奴隷買うの?女の子の?」


 奴隸という言葉にアンが食いついた。


「でもほら。男の奴隷買ったとしてここに住まわせるのもちょっと嫌だろ?」


 別に女の子の奴隸を買ったって手を出そうってわけじゃない。このメンバーの中に男を入れるのが嫌なんだ。


「それはそうだけど。だったら女の子に盾役やらせるの?」


 それもどうなんだろう。でも奴隸屋で戦闘向けって触れ込みの獣人の女の子もいたしなあ。


「どっちにしろ知らない人を家に入れるのはちょっと嫌」


 アンの言うことはもっともだ。第一もうスペースがない。


「庭に小屋でも建てる?それか引っ越すか」


「あの、前衛なら私が」


 サティが手をあげてそう言う。


「だめよ。体重が軽すぎるわ。それにかわいいサティに盾なんてさせられないわよ」


 うんうんと全員で同意する。毎食かなり食わせてるはずなんだが、サティは一向に太る様子がない。いったいスレンダーな体型のどこにあの量の食事が入るのだろうといつも思う。


「当分は森で狩りだし、その間にゆっくり考えようか」


 おれがそういうと会議はお開きとなった。今日はたくさん戦闘があったので疲れて眠い。




 寝室で2人きりになると、ぽつりとエリーが言った。


「今日はごめんね。私がもっといい作戦を考えられたらいいんだけど」


 おれが怪我をしたのを気にしてたのか。


「別にどうってことはないよ。今日のはかすり傷だったし、アンも動いて大丈夫って言ってたろ」


 ちょっとひどい目にあったとは思うけど、それは別にエリーのせいじゃない。おれを含めて誰もあれよりいい作戦を提示できなかったし、作戦の決行を決めたエリーを止めはしなかった。不安はあったものの、ハーピーの巣は殲滅しておくべきだとおれも考えたのだ。


「エリーがパーティーを引っ張ってくれて助かってるよ。おれはリーダーってことになってるけど、名前だけだし」


「ちょっと頼りないけど、私はマサルがリーダーだって思ってるわよ」


「そう?」


「そうよ。今の力だってマサルにもらったものだもの。ナーニアのことだって、マサルがいなかったらどうしたらいいかきっとわからなかったわ」


 ナーニアさんのことだ。きっとエリーを放ってはおかなかっただろう。そしたらオルバさんは捨てられちゃう運命か。可哀想に。


「わかってるのよ。前のパーティーでもやり過ぎるなってよく言われたし。抑えようとはしてるのよ?」


 これで押さえ気味って暁時代はどんだけ大暴れしてたんだろう。でも今のエリーはたまに暴走気味になるとは言え、問題を起こすわけでもない。


「エリーは今くらいでいいと思うよ。やり過ぎたらおれが後ろでフォローするし」


 エリーの強気な性格は欠点ではあるけど、それで助かってる面も多い。何より凛々しいエリーはとてもかわいい。


「うん。ありがとう、マサル」


 そう言うとおれの腕の中に身を寄せた。エリーはベッドの中ではとてもしおらしくなる。夜はまだ長い。エリーの体を抱き寄せてまさぐると、エリーはぴくぴくと反応した。


「マサルはもうちょっと、ムードってものを考えたほうがいいと思うわ」


 エリーが顔をあげてそう言う。ムード。ムードってどんなのだろう?


「エリー、愛してる」


 とたんエリーが顔を赤くした。どうやら正解だったみたいだ。


「私もよ」


 エリーはとてもかわいい。それだけは間違いない。




 翌日の狩りは午前中の獲物がとても少なかった。昨日のハーピーの勢力圏内ということなのだろう。それで歩くペースを上げたのだが、それがまずかった。午後になってティリカの足取りが重くなる。休憩してティリカの周りに集まり、アンが小ヒールをかける。ヒールでも多少の体力回復が見込めるのだ。


「まだ歩ける」


 そうティリカは言うが、見るからに疲労している。


 強がるティリカから聞きだしたのは、ほーくの偵察の負担だった。元々体力がそれほどない上に、ほーくからの視覚情報をチェックしながらの移動はひどく体力を消耗するものだったのだ。


「ほーくを引っ込める?たいがに乗って移動すればいいし」


「それはダメ。偵察は重要」


 アンの提案をティリカは即座に否定する。確かにハーピーみたいなのだと発見が遅れることはあるだろうが……


「おれが背負って行こうか?」


 今のスキルで強化した体力でなら、ティリカを背負ったまま富士山でも登山できる自信はある。富士山って登ったことないけど。


「それならゴーレムでいいんじゃないかしら」


 おお、それはいい考えだ。さっそくその場で2mほどのゴーレムを作成する。どうやってティリカを運ぼうか?肩車?お姫様抱っこか?


 色々相談して背負子のようなものを作ることにした。背もたれのついた椅子の足を取ったようなイメージだ。土くれとそこら辺に生えてる木を切り取って錬成を使って形を作っていく。強度が不安だったので、少々重くなってしまったが、ゴーレムが持つのだし平気だろう。肘掛けも付け、座るところに座布団代わりの毛布を敷いたら完成だ。


「あら。結構いいじゃない」


 ティリカが居心地良さそうにゴーレムの背中に収まるのをみて、エリーがそう言った。


「交代で乗る?」と、ティリカが問う。


「2人乗りを作ればいいわ」


 エリーが期待するような目でこちらを見る。もちろんそれはおれが作るんですよね。


 だがまあ錬成を使えば日曜大工も粘土で団子を作るような簡単さだ。材質同士を融合させてしまえば釘も使わない。木で簡単に枠を作って、間を土で埋めて錬成すれば完成だ。


 二人乗りの座席をゴーレムの背中にセットし、二人が乗り込む。座席が重くなって心配だったが、二人を背負ってゴーレムはなんなく歩いて行く。


「これは楽でいいわね」


 好評なようで作ったかいがあると言うものだ。


「アンも乗ってみる?」


 外した一人用の座席が余っている。前にでもセットすれば三人乗れそうだ。


「よっぽど疲れたらお願いすることにする」


「サティも乗りたかったらいいなよ」


「はい、マサル様」


 まあ、実際問題サティよりおれのほうが先にヘタれるんだろうけど。


 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 移動速度の問題を解決したあとの、森での狩りは順調だった。魔物を利するはずの森の木々は障害にはならず、夜行性の魔物がうごめく夜も家へと帰還する。


 大型のトロールなどが複数でたところで近寄る前に魔法の餌食になる。どらごすら出す機会がなかったほどだ。あのハーピーのような大集団には遭遇しなかったし、魔法の運用や連携にも慣れた。もう一度あのハーピー達が来ても対処できるだろうとおれ達は自信をつけていった。


「盾職がいるかもって思ったけど、そんなこともなかったな。もうこのままでいいんじゃないか?」


「そうね。みんなのスキルも上がったし、無理に募集する必要もないわね」


 一週間の狩りで皆のレベルは一気にあがった。おれも1つレベルがあがっている。



スキル 0P レベル20

スキルリセット ラズグラドワールド標準語 時計 

体力回復強化 根性 肉体強化Lv3 料理Lv2

隠密Lv3→4 忍び足Lv2→4 気配察知Lv4

盾Lv3 回避Lv3 格闘術Lv1 

弓術Lv3 投擲術Lv2 剣術Lv4

魔力感知Lv1 高速詠唱Lv5 魔力増強Lv5 MP回復力アップLv5

MP消費量減少Lv5 コモン魔法 生活魔法 回復魔法Lv5

火魔法Lv5 水魔法Lv3 風魔法Lv3 土魔法Lv4


 まずはおれ。隠密と忍び足をレベル4にした。ハーピーのときかなり怖かったんだよな。真っ先に隠密と忍び足をあげると決めていた。剣もあげたかったが、次でいい。


サティ 0P レベル20

頑丈 鷹の目 心眼 肉体強化Lv4→5 敏捷増加Lv4→5

料理Lv2 家事Lv2 裁縫Lv2 生活魔法

隠密Lv3 忍び足Lv2 聴覚探知Lv4 嗅覚探知Lv3

剣術Lv5 弓術Lv5 回避Lv4 盾Lv2→3


 強化系はレベル1ごとに50%ステータスがあがる。つまりレベル5で+250%、実に3.5倍になる計算だ。見た目は可愛らしいサティだが、基礎ステータスの伸びもよく、そのパワーとスピードはもはやおれでは全く相手にならない。


アンジェラ 1P レベル16

家事Lv2 料理Lv3 棍棒術Lv1

魔力増強Lv2→5 MP回復力アップLv2→5 MP消費量減少Lv0→3

魔力感知Lv1 回復魔法Lv4→5 水魔法Lv4


 アンジェラは魔力を増やす方向で、回復魔法を5にした。


ティリカ 15P レベル17

料理Lv1

魔力増強Lv0→5 MP回復力アップLv0→5

魔眼(真偽) 水魔法Lv3→4 召喚魔法Lv4


 ティリカも魔力を増やし、水魔法を4にしたくらい。あとは召喚魔法をあげるために保留。


エリザベス 30p レベル21

魔力感知Lv1 高速詠唱Lv2 MP消費量減少Lv2

魔力増強Lv4 MP回復力アップLv4

回復魔法Lv1 空間魔法Lv4

火魔法Lv1 水魔法Lv1 風魔法Lv5 土魔法Lv2


 エリーは完全に保留。40P貯めて空間魔法を取る予定だ。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




「たぶんゴルバス砦まであと2日ってところね」


 森の上空に出て、エリーの指差す方を見る。先のほうの森が途切れて草原になっているのが見える。その向こうには山脈があり、麓がゴルバス砦ということらしい。


「一週間の地下室生活は長かったな」


 地面に降下しながらそう言う。


「ええ。森も地下室も当分見たくないわ」


 努力はしたんだ。地下室の2度の拡張にお風呂の増設。それなりに快適にはなったと思う。だが、所詮は地下室である。引きこもり慣れてるおれでも多少は息苦しく感じるのだ。慣れないエリーが昨日あたりはちょっとイライラしていたのだ。おれは邪魔の入らない密室で、取っ替え引っ替えいちゃいちゃできてかなり満足だったんだけど。


「昼間のうちに草原に出れるようなら、一気に砦まで進んじゃう?」


 夜間の移動ではあるが、草原でなら危険度も少ない。少々強行軍にはなるが、ゴーレムでも移動もできるし問題はないだろう。


「そうしましょう。砦でいい部屋を借りてゆっくりしたいわ。急げばきっと間に合うはずよ」




 だがエリーの願いは叶えられなかった。午前中のうちにティリカがオークの集落を見つけたのだ。


「砦に近いわね。あの時のオークかもしれないわ」


 ゴルバス砦の第二城壁が食い破られた時、こちら側に多数の魔物が溢れだした。シオリイの町の冒険者がかなり駆除はしたはずだが、逃げ散ったものがどれほど居たのかは全くの不明だ。


「何にせよ殲滅だな。ちょっと偵察してくる」


 隠密と忍び足のレベルを上げてから偵察もずいぶん楽になった。もう何も怖くない。そんな気分だ。油断はするつもりはないけれど。


 オークの集落はティリカの情報通りに森の開けた部分に作られていた。風が吹いたら倒れそうな粗末な小屋がいくつも建てられている。オークは建物の中にいたり、そこら辺で何かの作業をしていたり、ただぶらぶらとしているだけだったりと様々だ。数は40というところだろうか。これなら殲滅は楽そうだ。ぱにゃ経由でティリカに報告をいれると、来た道を戻る。


「じゃあいつもどおりの作戦で行きましょうか」


 いつもどおりのとは敵に近寄って、あとは魔法で力押しを行う作戦だ。いい加減に思うだろうが、魔法をぶっ放したあとの結果はその時にならないとわからない。臨機応変で行くしかないのだ。


 皆で揃って集落の近くまでこそこそと近寄る。この辺りの動きも皆だいぶん慣れてきた。そろそろ誰かに隠密とか忍び足がついてもおかしくないと思うんだが、取得条件が厳しいんだろうか。


 どうやら見つからずに集落が見える位置まで来れたようだ。エリーの指示で魔法と攻撃する位置を決めていく。


「行くわよ」


 エリーがまず風魔法レベル4の詠唱を開始する。少し遅れてティリカとアンが水魔法レベル3の詠唱をし、最後に詠唱短縮持ちのおれが風魔法レベル3の詠唱をする。範囲の火魔法は封印中だ。使ったら全てが焼失してしまう。


 発動はほぼ同時。4つの範囲魔法が発動し、風と氷の嵐が一体となり荒れ狂う。魔法を撃った直後に大岩をいくつか出して防御にしている。もし敵がこちらを見つけて反撃しようとしても時間は稼げる。


 だが魔法が収まった時、集落は消滅しており、動くものは何もいなかった。気配察知では生死はわからない。死んだ直後ならほぼ同じ反応が出るのだ。


 たいががまずは先行して偵察に入る。召喚獣はやられても消滅するのみで、再度召喚すれば復活する。


「生き残りにも止めを刺した。オークは全滅した」


 しばらくするとティリカがそう報告する。


「じゃあさっさと死体を回収して急ぎましょう。今度こそ、砦に向かうわよ!」


 だが現実は非情だ。エリーの望みはまたも叶えられない。


「誰かこっちに来ます」


 サティがそう告げたのだ。




次回更新は5/11の予定です。



オーク集落を瞬時に壊滅させたマサル達

だが、それを影から見ていたものが……

目撃者がいることで転送魔法陣を封じられる一行

「今日は野営だな」

「地下室よりいいわ」

夜の森の脅威が襲いかかる!……かも



誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

ご意見ご感想、文章ストーリー評価なども大歓迎です。



【根性】HP0になってもHP1で踏みとどまる。一日一度

【体力回復強化】HPとスタミナ回復の速度が上がる。治療やポーションの効果が上がる

【肉体強化】力と体力がレベル1ごとに+50%

【敏捷増加】敏捷がレベル1ごとに+50%

【魔力増強】MP量がレベル1ごとに+50%

【MP回復力アップ】MP回復量がレベル1ごとに+50%

【MP消費量減少】魔法のMP消費量がレベル1ごとに―10%

【高速詠唱】詠唱速度がレベル1ごとに10%短縮

【頑丈】肉体へのダメージをカット。HP回復力アップ

【心眼】心の眼で敵の攻撃を見切る。回避大幅アップ

【鷹の目】視力にプラス補正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ