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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第四章

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67話 ハーピー戦、再び

 森での狩りは順調だ。森の奥地ともなると魔物とのエンカウント率も入り口付近とは比べ物にならないくらい高い。とはいえ、おれとサティの探知スキルとほーくの偵察で奇襲を受ける可能性はない。常に先手をうてるという利点は非常に大きい。先手さえ取れれば遠距離から魔法をぶっ放せばよいのだ。


「ほーくもそうだけど、探知スキルはちょっと反則ね。こんな楽な狩りはしたことがないわ」


 オーク3匹を手早く片付け終わって休憩中にエリーがそう言う。


「みんな探知スキル持ってないのかな?」


「タークスも目と耳がよかったけど、サティとマサルのはレベルが違うわね。タークスのはきっと1か2くらいだったんじゃないかしら」


 タークスっていうのはエリーの元パーティーメンバーで斥候担当だった人だ。かなりの凄腕と聞いていたが、そんなものなのだろうか。


「森が危ないのは視界がきかない事なの。今のオークみたいに大音を立ててくれればいいんだけど、じっと潜まれたら真横を通っても気が付かないことがあるわ。気がついたら魔物の巣のど真ん中にいたとかで壊滅したパーティーの話も聞いたことがあるわよ」


 思えば危険だ危険だって言われていた森も、今まで特にそんなことが全くなかったのは、探知スキルのおかげだったのか。探知がなかったら確かに危ないところもあっただろうな。特に蛇とか昆虫系が危ない。サティの目にも耳にもなかなかかからないのだ。


 驚いたことに2mのカマキリとかいるんだぜ。カマキリの鎌は硬度がすごくあって、時には鉄も切り裂くのだとか。そんなのに不意打ちされたらフルプレートの騎士でも危ないだろう。その大カマキリは隠れてるところをおれの探知で見つけて、さくっとアンとティリカの氷弾の犠牲となったが。


「休憩は十分ね。マサルの魔力はどのくらい残ってる?」


「半分以上だな」


 おれの役目は魔力タンクで、その魔力を目安に狩りの続行を決めていっている。


「私もそんなに減ってないからまだ大丈夫ね。さあ、出発しましょう。今日は小物ばっかりで飽きたから、次はもっと大物がいいわね」


 息を吐くようにフラグを立てるエリーさんである。そんなことを言うと大物が出てくるんだ。きっと手に負えないくらいの……


 まずいのを我慢して濃縮マギ茶をこっそり飲んでおく。用心しておくに越したことはない。


「じゃあ行こうか」




 そして出発して1時間ほど、何にも出会わなかった。もちろん小さい鳥や小動物は気配察知にかかる。だが、大型の草食動物や魔物は皆無だった。このパターンは覚えがある。何かの巣が近くて、それ以外の魔物が駆逐されたのだ。


「何かいるわね」


 エリーがそうつぶやく。


「やばそうなのだったらすぐにゲートで逃げるぞ?」


「マサルは本当に心配性ね。いざとなったらどらごもいるんだし平気よ、平気」


「だったらいいんだけどね」


 一度の失敗で全てが終わる時だってあるのだ。ハーピーの時にそれは思い知らされた。


「ハーピーの巣が見えた」


 そのすぐ後、ティリカの報告がもたらされる。


「規模はわかるか?」


「見つからないようにすぐに離脱した」


「それでいい。ほーくを戻してくれ。おれが偵察してくるよ」


「マサル様、私が行きます」


「いや、おれが行こう。ハーピーの巣ならおれの気配察知のほうが数を見やすい。サティは待機しててくれ」


 2人の隠密、忍び足のスキルは同等で、サティは身体能力、おれは魔法とどっちが偵察に向いているということもない。だからなるべくおれが行くことにしているのだ。嫁を危険に晒すことはなるべく避けたい。


「はい」


「気をつけてね、マサル」


「うん、行ってくる」


 いい加減おれもそろそろレベルを上げるべきだな。スキルリセットを使ってもいいんだが、現状のスキルで削れそうなところはほとんどないし、スキルリセットは温存しておきたい。森じゃなかったら巣ごとメテオで消し飛ばすんだけどなあ。


 そんなことを考えながらゆっくり進んで行くと、巣が見えてきた。気配がやけに多い。20、30、40、50……どうも気配察知の範囲外にもいそうだ。さらに近寄って偵察するか?とりあえずはねずみのぱにゃに報告を入れる。ちょっと待つとぱにゃが首を振った。戻れって合図だ。


 そろそろと慎重に戻る。50匹超の集団に見つかるとさすがにやばい。死ねる。




 無事みんなのもとに帰りつき作戦会議が始まる。


「また私の魔法で殲滅すればいいわ。範囲を広げれば多少漏れても問題ないわよ」


「偵察しきれなかったのが気になるんだが」


「でも大規模な巣なら放っておくわけにもいかないよ。倒せるなら倒しておくべきだ」


 アンの言うことにも一理ある。うちのパーティーなら倍の100だとしても倒せるはずだとは思う。


「サティとティリカはどう思う?」


「私も倒したほうがいいと思います」


「判断がつかない」


「賛成3ね」


 これはもう怖いなんて言ってられないか。


「作戦は前と同じにするのか?」


「基本的にはそうね。でも範囲魔法を撃ったあとは撃ち漏らしがあるのを前提に動きましょう」


 会議をした結果、巣の全滅を目指すために夕方を待つことにした。ハーピーは夜には巣に戻って寝る習性がある。あと3時間ほどで日が落ちるから、2時間待つことにした。


 森に潜んで待っている間も、頭上や近くを何匹ものハーピーが通り過ぎ巣のほうに飛んでいく。その度に見つからないかとびくびくする。街の襲撃の時のハーピーを思い出す。あの時は明らかに魔力を感知して襲ってきた。もし頭上を通り過ぎる一体が上位種だったら?待ってる時間が辛い。


「怖い?」


 そうアンが顔を寄せ小声で聞いてきた。別に普通に話したって近くにハーピーはいないんだが、自然に小声になる。


「すごく怖い。前にハーピーにやられたのを思い出す」


「でもあの時よりずいぶん強くなったよね」


 そうだろうか。スキルは多少は増えたけど全然そんな気がしない。今もこうやってびくびくしている。レベル5の火魔法を覚えていたって今の状況だと役に立たないし、森での狩りはレーダー係と魔力タンクでほとんど戦ってない。


「エリーみたいに魔法をぶっ放すのが強さじゃないでしょう?マサルのおかげでみんな魔力を気にしないで戦えるし、そもそも私の力だってマサルにもらったものだしね」


「そういうものかな?もっとこう華々しく活躍してみたいんだけど」


「勇者様みたいに?」


「それはちょっと嫌だな。うん、地味なままでいいわ。派手なのはエリーに任せておくよ」


「そうそう。パーティーなんだし、みんなで強くなればいいのよ。私なんて本職は治癒術士なのに、ここのところ使ってないから錆び付きそうだよ」


「今日は水魔法で大活躍じゃないか」


「それもなんか違うなって思うのよ。ほら、マサルと同じじゃない。理想のイメージがあって、それは治癒魔法を使ってる姿なのよね」


「冒険者になったのを後悔してる?」


「ううん。私の小さい時の夢はね、神殿騎士団に入ることだったんだ。司祭様のお話を聞いてね。憧れてたの」


「へえ。なんで入らなかったの?」


「女は滅多に入れて貰えないのよ。それに戦闘の才能があんまりなかったし、魔法の適性があったから」


 この世界の冒険者はどいつもこいつも体格がいい。女性としては並くらいの体格のアンジェラだと前衛でやっていくのは厳しいだろう。


「レベルが上がったらそっち方面上げてみる?」


「やめておく。向き不向きってものがあるし」


 適性って大事だよな。サティが魔法を使いたがっても、どうしようもなく前衛向きなように、おれも本質は治癒術だったり土木工事だったりするんだろうか。でもそんなのじゃ世界は救えそうにないし。


 ふとサティのほうを見るとこっちをじっと見ていた。ティリカとエリーはたいがにもたれて昼寝していて、サティは2人に挟まれている格好だ。暢気なものだとは思うが、休める時に休むのも大事なのだそうだ。おれは休めそうにないのでアンと一緒に見張りをかってでた。


「サティはどう?上げたい方向性とかないの?魔法使いたがってたけど」


「んー。魔法はやっぱり無理そうです」


 3回くらい気絶してたものな。


「今のままで皆さんのお役に立てますし、魔法は使えるだけで満足です」


 ティリカがもぞもぞしたのを見て、そこで黙りこむ。ちょっと声が大きかったか?それからの時間はなんとなく黙って過ごした。たまに頭上のほうを過ぎ去るハーピーにもそれほどビクつくことはなくなった。しかし、多いな。通り過ぎたのだけで10は超えてるぞ。こっち側だけでこれなら巣のハーピーは100じゃきかないかもしれん。




 時間になり、エリーとティリカを揺り起こす。


「思ったよりハーピーが多い。待機してた間、頭上を通ったのだけで10匹以上だ」


「だからって作戦は変更しないわ。どんな作戦でも危険は付き物よ」


「どらごを出す魔力は温存する」


 ティリカの魔力は今日一日の狩りで上がった分で増やしてある。


「うだうだ言ってても仕方がないわ。予定通りやるわよ」


「わかった」


 エリーとたいがとともにハーピーの巣へと慎重に近寄っていき、巣の見える位置に到達する。200mほど後方に3人は待機しており、3m級のゴーレムも4体作っておいた。このくらいの距離ならゴーレムに簡単な指示が出せるのは調査済みだ。




 エリーが木陰で魔法の詠唱を始める。別に仁王立ちにならなくても視線が通れば問題はないのだ。その横ではたいがが護衛として控えている。


 詠唱が進み雷雲が上空に発生するにつれ、にわかに巣が騒がしくなった。何匹ものハーピーが巣から飛び出してくる。遠目でわかりにくかったが、そのうちの1匹が確かにこっちを見て鳴いた。そしてハーピーが一斉にこっちに向かってくる。


「詠唱がばれた。合流してくれ」


 たいがにそう告げ、ゴーレムをこちらへと移動を開始させる。もはや隠れてる意味はない。飛び立ちこちらに向かうハーピーがますます増えている。


 エリーを守るように剣と耐電仕様の大盾を構え、ハーピーを待ち構える。詠唱完了はまだか!?


 最初の1匹を火槍で撃ち落とした。ハーピーの飛行速度が速く2匹目は魔法が間に合わない。剣で迎え撃とうとすると、そいつは矢を食らって地面に落ちた。サティだ。さらに低空で接近する3匹目を体をかわしつつ切り捨てる。


 ついにエリーの詠唱が完了した。


「来たれ、来たれ。全てを貫く最強の雷撃、神なる雷よ、天より轟き敵を打ち砕け!テラサンダー!!」

 

 閃光と、轟音が響き渡る。今回はちゃんと盾の影に隠れて目を塞いだ。耳はもう仕方ない。


 盾から顔を上げて状況を確認しようとした瞬間、盾に衝撃を食らい背中から地面に倒れ込んだ。腕がしびれて盾を取り落とす。起き上がろうとしたところにハーピーが襲いかかってきた。ちくしょう、またこのパターンかよ!


 だが今度は冷静に対処をする。剣は持ったままだし、防具も強化してある。なんとか上半身を起こして剣でガードをする。3匹か。面倒な。ガードするだけで立ち上がることもできない。


 そのうちの1匹が血しぶきを上げて倒れた。


「マサル!」


 エリーの声だ。1匹が倒れ、それに他のハーピーが気を取られた隙を見て立ち上がることができた。エリーはとちらりと見ると木を背にしており、その前にたいがが陣取り、ハーピーを寄せ付けない。あれなら大丈夫そうだと、目の前の2匹、いや4匹に増えたハーピーに向き直る。


 また1匹のハーピーが矢を食らって地面に落ちる。サティが無事ならあっちも大丈夫だろう。とりあえず目の前のハーピーをなんとかしないと。ある程度の攻撃はよけるか剣で受けるかできるが、上から攻撃してくる上に手数が多い。それに連携して途切れなく攻撃してくるのもやっかいだ。


 怪我を治す間もなく体に傷が増えていく。ジリ貧じゃないか。他のメンバーもおそらく手一杯だ。ゴーレムはゆっくりとこっちに歩いてきているはずだ。操作できれば速度を早められるのに。更に2匹切り倒したが、ハーピーの数は減っていない。どうにかしないとと思うが、目の前のハーピーが邪魔すぎて自分の身を守るので精一杯だ。


 その時、頭上を氷竜が飛びすぎ、多くのハーピーを巻き込み消滅をする。周辺にハーピーのいない空白地帯が生まれた。


「エリー!」


 エリーが駆け寄って来る。ゴーレムはと見るとすでにかなり近寄って来ていて、サティの姿も見れた。


「合流するぞ」


 走りながらそう言う。進路上のハーピーはサティの矢によってばたばたと落下していっている。エリーを先行させてあとに続く。たいがが殿を受け持ってくれるようだ。


 50mほどの距離を走り、ゴーレムの間に飛び込む。


「エリー、マサル!よかった、無事だったんだね」


「大丈夫だ。ティリカ、頼む」


「わかってる」


 ゴーレムを囲むように配置し直す。


「ちょっとの間、ハーピーを近寄らせないようにしてくれ。エリーもこっちに」


 奇跡の光を詠唱する。すでにティリカはどらごの召喚を始めている。ゴーレムを操作する余裕はないからとりあえず腕をぶんぶんと振らせておく。牽制くらいにはなるだろう。


 どらごの召喚が完了し続いて奇跡の光も発動して、エリーとティリカの魔力がチャージされた。


「ハーピーを蹴散らせ、どらご」


「承知した」


 どらごはそう言うと、ハーピーの巣の方にぐるっと体の向きを変える。


「ブレスで森を燃やすなよ!」


「ハーピーは逃げていっておるが。追うか?」


 だがすぐにどらごが首をこちらに巡らせて聞いてきた。


「あ、そう?じゃあちょっと周辺警戒しててね」


 まあそりゃそうだよな。ただでさえ巣が壊滅してるのに、さらにドラゴンを見て戦意を喪失したんだろう。


「怪我してるじゃない。いま治すからね」


 アンがヒールをかけてくれる。防具を強化しておいてよかったよ。それほどひどい傷はない。


「アンの魔力もだいぶ少ないね。補充するよ」


 まだまだ魔力には余裕がある。ゴーレムを4体しか出してないし、魔法を使う暇もなかった。


「みんなも怪我はない?」


 皆はアンの問いかけに口々に大丈夫と答える。怪我したのおれだけか。全くひどい目にあった。


「急いでハーピーを回収しましょう。日が落ちそうだわ」


 どらごを引き連れてエリーと2人でハーピーの死体を回収して回る。その数実に152体。見た感じ、100体くらいをエリーの範囲魔法で倒したことになるのだろうか。逃げたのもかなりいるから、下手したら200近くいたことになる。


「152ね。なかなか儲かったじゃない。ちょっと危なかったけど」


「うん。儲かったね。ひどい目にあったけど」


 フラグについて言及したかったけど我慢した。別にエリーのせいでハーピーが湧いてでたわけじゃない。これで責めたら理不尽すぎるだろう。でも本当に大物が出てくるとは侮れない。だからちょっとだけ言ってみた。


「言ったとおり大物が出てきてよかったね」


「べ、別に私が言ったから出てきた訳じゃないわよ?」


 本人もちょっとは気にしていたようだ。おれもそうではないと思いたい。


次回投稿は5/8予定です



「うちに足りないのは前衛だと思うのよ。それも盾職ね」と、エリーが言った

「おれもそう思う。戦いながらだとゴーレムすら操作できない」

「ギルドに行ってメンバー募集をするか、奴隷でも買ってきて仕込むか」

「また奴隷買うの?女の子の?」

うん。男の奴隸はちょっと嫌だと思うんだ



誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

ご意見ご感想、文章ストーリー評価なども大歓迎です。




短編をまた書いてみました。現代物です。

16000字ほどの短いお話ですのでよろしけば一読お願いします

 【安価】JKだけど学校でいじめにあってます



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